車の座席シートはドライバーの体形に合わせたポジションの位置調整が可能です、ペダルに対し靴底が正しい距離で踏み込める事は安全運転上最も重要な条件の一つとなるのでシート全体の前後のスライドの機能は必須です、次は大きな体形の人の窮屈さを少しでも解消させる背もたれのリクラインニングも大事です、この二つ調整機能は最低でも装備され、フォークリフトの座席にも付いています、ペダルとの位置関係が決ってもハンドルとドライバー間のバランスも重要ですので調整する機能を持たせ上下にスイング出来ます、車種がハイレベルになるにつれ座面前後の高さを替えれたり、腰に当たる部分がせり出してきたり、ヘッドサポートが伸びるだけじゃなく角度も替えれたりします、腰を両側から挟みこめる機能が付いたものまであり、シートの素材も差別化され本革素材のカラーまで選べるようです、シートヒーターは当然装備され至れり付くせりです、シートの硬さも車の目的に合わせて様々に設定されますがあまりクッション性が高いものより、少々堅い目の設定が長い目のドライブでは疲れにくいように思います、タクシーの座席のように座り心地より耐久性と清掃性が求められた造りになったものがあります。

 

 ある会長は仕事に使うのにはこれがベストだと新車を注文するとき、タクシー用のモノを付けろとセールスに無茶を言っていました、この会長は俺は年は喰ったが歯だけは頑丈なんだと、固焼き煎餅を目の前で噛み割ろうとして、その自慢の歯を折ってみせてくれたお茶目な会長でした、但し仕事に関しては組織作りが天才的で何時でも組織の頂点に胡坐をかき、組織全体の力を上手に我がモノとできる実力を持った会長でした、晩年奥さんに先立たれ、お子さんも残さなかったので、養子を立てて法人の財産を継承させてから本人も他界されました、あまり本人に力が集中してしまうと周囲がそれに持ち応えられなくなったり、存在できるスペースを無意識に無くしてしまうのかも知れません、車のドライバーに例えると座席シートやハンドルを自分の体形に合わせる事で無理が生じ、その機能性を壊してしまうようになってしまう感じです。

 

 私は4トントラックのチェンジのシフトレバーを2回ほどブチ折っています、もともと中古車で少し痛んでいたのでしょう、一回目はハンドルの軸に付いている枝形のレバーでしたが出先で折ってしまい焦りましたが、レバーの四角い土台の部分を動かすと何とか前後には動いたので確かめるとセカンドとサードのギヤーが使えました、セカンドで発進、サードで走行、後ずさりできない徐行運転で倉庫まで何とか戻ると、他の車に牽引してもらって入庫しました、もう一回はフロア形だったので、根元から折れた60センチほどのシフトバーを唖然と眺め、どうすりゃいいのよ!この私・と独り言です、非常に焦りましたが、何とかしなければなりません手に持ったシフトバーは諦めるしかないので放し、バーの根元をよく視るとパイプの穴が空いています、これに何かを差し込んだら?と工具箱を物色したらあったのです、片方がボックスレンチで片方が尖ったやつが、長さは40センチ程で少し短いですが、これで何とかやってみようと先端を穴に挿し込むと、レンチの形状がやや円錐形だったので何とか収まります、あまり強い力で操作すると外れますが何とかなりそうです、運転席からはかなり低いので操作は変な姿勢になりますが、無理すればバックギヤーにもシフトできそうですしかし、荷物を積んだトラックの運転でニュートラルポジションから離れたギヤーシフトはやはり危険なのでまたもやセカンドとサードで徐行運転です、無事倉庫に到着後はバッグで自走しての入庫が可能でした・・

 

 F1とかのレース専用車では、座席シートはバケットシートと呼ばれ、ポジションを設定する調整機能は無くドライバーの背面の形状に型を採ってオーダーメイドされるそうです、命の懸かる過酷なレースではステアリング他シートポジションも考えうる理想に近づけたモノで無くてはなりません、当然余分な装置で車重を重くすることは出来ないし、クッション性なども設定されません、シートヒーターどころか、万一の事故に備えたプロテクターつきの革のつなぎにフルフェースヘルメットを着用しギリギリの狭い空間で頻繁なギヤシフトを繰り返し大きな横Gに耐えながら長時間緊張を緩めることが出来ない環境では、熱中症対策が必要です、F1に助手席はありませんが助手席があるレース車に素人が乗りこむと、時々気を失うこともあるそうです、彼らは何時でも死と隣り合わせです、そして仮に事故で死亡してしまっても誰も同情することはありません、勿体無いとは表現されますが事故を起こすのは自業自得で、自分の運転操作ミスなのです、本人もそのことは百も承知でレーサーになっているので文句も言えませんし、保険会社も生命保険に加入契約させてくれることはありません、そんな彼らの後姿には哀愁が漂い格好良いのです、だから女性にモテます、しかしレーサーに嫁ぐと、山男に嫁いだ女性が旦那が風に吹かれて飛ばされてすぐに若後家さんになる覚悟と同じ決意が必要になります、若後家さんも同情されることは無いでしょう・・

 

 座席シートには色々な目的に合わせたモノが存在します、F1のバケットシートから死刑囚が人生の最後に座る電気椅子まで、そして座席はある意味社会的ポジションの代名詞でもあります、公園のベンチから航空機のファーストシートまで、小学生が学校で座る合板製のイスから大手企業のCEOの椅子まで、人は社会的位置が上がるのと比例して高級な椅子に座りたがるし準備もされるようです、都会の昼食を食べさせる人気食堂なんかの椅子は限られたスペースで限られた昼食時間に如何に高効率で客を回転さするかが最優先事項なので決して座りごこちは良くありません、客は美味しいご飯を食べに行くのであって、椅子に何の期待もありません、店側も都会で食堂を経営するための高い経費を支払うためにもそんな選択をすることは必然となります、逆に高級料亭ではそうは行きません、金に糸目を付けない贅沢な、ある意味無駄にも思えるような趣向と演出でお客様の特別であるという優越感を満足させる努力をします、一見さんはお断りだし秘密も厳守です、勿論伝統的な日本料亭の和室には座椅子しかありませんが、その空間そのものが席なのです、だから客に一席準備するという表現もされます。

 

 この世の中に席の無い人はいません、席があるからこの世に出てこれたのです、そしてその席は努力に従いバージョンアップも可能です、実際の椅子もそうですが魂の椅子も同じくバージョンアップが可能です、自分が出来ることを一つずつやって行くと、何時しかやれることは全てやったと思う時がありその時点でレベルアップするのを体験できます、そしてまたやることが視えてくるのです、この世の中、誰一人として無駄な命はありません、踏みにじられても潰されても、命はまたこの世に延々次から次へと生れてきます、新しい命の為の座席はどんな独裁者であろうが、悪魔のような権力者であろうが踏みにじることは不可能です、逆にそんな悪党達には、ちゃんと地獄に座面全てに針の生えたオーダーメードのバケットシートが準備されているのです・・・