昔、ビジネスでお世話になっている社長さんと同業者の先輩社長さんと私の3人で地方の現場に出向いたことがあり、現場を案内して頂いた地元の社長さんが、折角おいで戴きましたから是非とも家に寄っていって下さいと建設中の自宅にお邪魔しました。その地元の社長さんにはお子様がいらっしゃらなくて自宅は奥様と二人だけで住んでおられ何坪ぐらい在ったでしょう?平屋の数寄屋造りの邸宅は未完成ですがその邸宅を取り巻くように日本庭園が広がり、しかも場所によって趣向の異なるテーマで構成されていました。
入り口には桧造りの立派な門があり、くぐって庭先で邸宅の軒が段々に張り出した庭を見せながら地元の社長さんのおっしゃるには最近は桧の木材が希少でなかなか思ったサイズのモノが纏まって手にはいらないので自分が長年に亘ってコツコツ溜め込んで来たモノを自分が生きている間に形にしようと遅ればせながら建設していますと・・どうぞこちらへ・・通された応接室でちょっと待ってくださいと部屋を出て無造作に持ってこられたのが4~5本の長いモノと行李のようなもの、自分は別段趣味は無いのですが父親が好きで集めたモノですと長いモノの袋を外すと出てきたのは日本刀でした。
何か父親がこんな感じでバラしたり組んだりするのを良く視ていたので覚えましたがとバラして柄の中の銘を見せてくれました、名刀で有名な銘でした、実はお世話になっている社長さんも日本刀が好きで数本所持されておられ目利きも出来る方で、もう1人の先輩社長さんも剣道2段か3段の有段者で目の色が変わっていました、社長さんがお好きだと聞きましたので・・持ってご覧になりますか?いいですか拝見しますとなり、ご覧になり、私も好きで集めるくらいですがこんなウブな業物を見た事がありません、反りといいバランスいい素晴らしいモノです
君も触らせて頂くか?と先輩社長に・・是非ともとなり、両手で柄を握り寸止めの短い振りを・軽い!重さを感じない・・凄い!と戻されました。
私は父親のように関心が無いのですが、この刀が値打ちモノと言うことは判ります、何度か地元の展覧会に無償で貸し出したことがあります、何処で聞いてきたのか骨董屋が訪ねてきて、拝見したいと言うので自分も如何程の価値があるものか見せました。骨董屋は社長さんこの銘が本物でも贋物でも構いません。すぐに準備しますので私に5000万円でお譲りくださいお願いしますと・・自分はハナから売る気は無かったし、美術品として登録もしていませんし下手に売買してしまうと税金関係とか物凄く複雑でややこしくなるのでお断りしましたが、骨董屋がそういう見立てをするなら一億ぐらいの価値はあるのでしょうかねぇ?と言っておられました、残りの太刀もみんな業物で、この刀とは比べることは出来ませんが値打ちモノばかりでした、行李に束で入っていたのは浮世絵で、写楽とか北斎とか有名なものばかり、これも父親が趣味で集めたモノですと無造作に・・100枚以上はありました。20年以上前の話です。
韓国の全羅道のメーカーの社長の依頼で通訳として大阪の住友村と言うか何と言うか住友系列のビルディングが密集する地区の一際背の高いビルの最上階に滅多と出社しない顧問さんを訪ねて行ったことが有りました、女性の方がお茶を入れて下さったのですが、顧問さんの前で緊張しお茶を入れる手がかすかに震えていたことを憶えています、自社製品の関係でその顧問さんも韓国のメーカーを訪問していましたのでお返しの表敬訪問という形式でした。
住友としては外国企業との合弁を解消する予定が有りそれ以上そのパートに力を入れることは無かったのですが、顧問さんは弊社のような歴史の長い会社は多岐に亘る部門があり、その中で売り上げは有るのだが将来性が見込めない部門を整理していかなくてはならない、そんな部門は一番長く会社を支えてきた歴史がある部門だったりするので整理が大変だ、しかし決断は早くしないとグループ全体に影響しかねない、私は近く退社する予定で退社後は米国の大学に入学し経済学部で自身が実際に経験したことと最新の経済学を比較し、日本がどの方向に進むべきか一学生となって研究しその成果を日本の経済に役立てたいとか超立派過ぎるお話を・・
韓国の社長さんは手土産に全羅道の乾燥岩のりを渡していました、私にはスーパーで買った焼き海苔のパックをくださり、美味しいから食べてみて!というので味を視ると、これ何?その美味さは半端なく感動するくらいです、韓国の全羅道というところは食べ物が美味しいと評判の地域でバスターミナルの大衆食堂に入って何を食べても美味しくてびっくりできるレベルです、一度この社長さんにその地域の伝統民族料理をご馳走になったことが有ります、個人の膳に並べられた器が3重に重ねられ、量は少しずつなのですが、味噌煮込みだけでも3種類あり、社長さんはおかずでお腹一杯にしなさいと・・
顧問さんは折角来て頂いたので、邪魔にもならないでしょうから記念にこれでもどうぞと出してこられたのは何かのスケッチを5~6枚、これは私の父親がスケッチしたものです、父親も私と同じく東大から住友一筋で生きてこられた方で、長年金属関係に携わってこられました、これはその時に沢山描いた日本刀の断面図です、金属顕微鏡で拡大したモノのスケッチですが金属組織の状態が良く解るでしょう・・芯のほうは組織の荒い硬いハガネが通りその周囲をきめ細かく弾力のあるネバっこい刃金が巻き込まれた構造になっています。これは正しく日本男児の有るべき精神と同じ構造です、外面物腰は柔らかくとも芯はハガネ入りですよ!と
顧問さん格好良すぎです!あれは一枚欲しかったなぁ!宝物に出来たのに・・・
2日後、顧問さんから直接お電話をいただきました、何事かと思えば、あの頂いたのりはどうして食べたらいいでしょうかねぇ?と・・ハサミで適当なサイズに切ってそのままビールのおつまみにもなりますし、少しのご飯を巻いてお子様たちにあげると、喜んで食べてくれますよ・・
良いお話を沢山うかがえました・・・