アフリカに住む象たちは乾季になって雨がなかなか降らないと水を求めて移動します、動物の中では一番鼻が利くので水の匂いと言うか湿気と言うかを感じ取り水を探し当てます。その移動の間、全く探し当てることが出来ないと体力の無い個体から脱落することになります。普段はテリトリーの中をぐるぐる、餌場、水場、予備の餌場、塩分を取る場所なんかもあるようです、でも本格的な干ばつになればテリトリーを越境しても移動します。水のにおいを嗅ぎ分けるのか地下深く流れる水の音を聞き分けるのかカラカラに乾いた川底でも足や牙や鼻を使ったりして掘ります象が穴を掘ると何時かは水が染み出します出来た泥水の水溜りは他の動物も恩恵に預かれたりもするそうです。

 

 テリトリーの中の水場ならその場所を群の仲間から教わったりもするでしょうが、生死にかかわる非常事態には本能が呼び起こされ特殊能力が発揮され一度も教わったことの無い場所でも探し当てるようです、本能の中の無意識には遠い先祖の記憶もあるのかも知れません

 

 以前テレビでオオクワガタ採りの達人が紹介されていました、この人はテントを持って1人山にこもり何日か山で野宿しながら採集するそうですが、この達人いわく夜になると周囲は真っ暗で奇怪な動物の鳴き声のする中、たった一人で何日かテント生活をするとだんだん頭が変になってきて幻想のようなものが現れてくるようになり、自分でも精神的にやばい状況は判るのですがその幻想でオオクワガタがいる木の映像をみるそうです。その木の特徴を記憶し次の朝その木を見つけると幻想で観たのと同じ隙間からオオクワガタが取れるそうです。これをみたとき、この男、道を極めているなぁと感想を持ちました。

 

 中国の古典から、昔、包丁と言う料理の達人がいたそうです。何処の家庭にもある包丁の語源となった人です、普通包丁で骨付き肉なんかを捌くと刃先が骨や硬い筋に当たりすぐに刃がこぼれたりして、しょっちゅう研ぐ必要があるのですが、この包丁という人が捌くと何時までも切れ味が変わらず滅多と研ぐ必要が無かったそうです、不思議に思った人が同じ肉を同じ刀で切っているのに何故君の刃だけこぼれないんだと訪ねると包丁は自分は長年この仕事をしているので肉と骨の間の隙間が見えるといいます、その隙間に刀の刃を入れて肉を分けているだけなので刃が骨とか筋に触れることが無いのでこぼれることも無いと説明したそうです。この包丁は肉捌きという仕事を極めたのです。

 

 道を極めた人には無駄な動きがありません、オリンピックの水泳選手は練習を重ねて水泳に必要な筋肉を蓄えていますが、その筋力だけでスピードを出しているのではありません、水の中で無駄な抵抗を最小限に出来る姿勢を体得した上で筋力を発揮できるのでスピードが出せるのです、この理屈で言うとどんな金メダリストでもこと泳ぐことに関したらイルカやまぐろには敵いません、彼らは泳ぐということを極めているのです。極めているからこそ自在に泳げ何メートルもジャンプしたりも出来ます。しかし金メダリストは人間とすれば泳ぐことの達人といえます。

 

 熟練した木の彫刻家も素材の中に完成した像が見えるといいます。だから彫刻するというより要らない部分を取り除いて像を掘り起こすという表現をする人もいます。世の中にはその道を極めた達人が沢山います。手に技を持ちその道を極めればその道の達人となりその道限定では自在を得るのかもしれません。でも私の考える自在はすこし違います、鳥の先祖は恐竜時代に捕食者から逃げる為かどうか判りませんが最初はピョンピョンとジャンプしてそのうち羽毛の付いた前足をバランスをとるためにパタパタとしだして、体重を極限まで軽くして、少しずつ着地距離を伸ばしてゆき、前足の羽毛に羽が生え出し、何代も何十代も繰り返した過程で何時の頃からか滑空できるようになり、無駄な贅肉はそぎ落とし何時の頃からか空を自在に飛べる能力を手に入れたのだと思います。

 

 すでに飛んでいる生き物がいるので、オットー・リリエンタールは自分も鳥のように自在に空を飛びたいと思い、手をパタパタしても飛べないので木と紙(布?)で羽を造り重い体重を持ち上げる為にその羽を大きくした、いまのハングライダーのような機体を手作りして飛行距離に係わらず人類で始めて飛んだ人の評価を受けています。私の考える自在は少し近くなりましたが未だ違います、出来ることならこの世の中を自在に生きたいのです、空を飛ぶのは鳥に任せ、(命を掛けて飛びたくない)海を泳ぐのは水族に任せ(命を掛けて泳ぎたくない)必要があれば機械に乗ればいいのであって、 オリンピック選手は凄いと思いますが自分には置き換えて考えることは出来ません。登山家のそこに山があるから登るんだというセリフは格好いいと思いますが、世界一の山もヘリコプターで安全に行って20~30分で連れて帰ってもらえるならいってみてもいいかなと思いますが、命を掛けては行きたくないのが本音です。

 

 この世で自在に生きていく術を本能全てを使って探り出し手にするのが夢なのです。

時間は余りありませんが・・・今の世の中人間が人間としていくことに制約が多すぎると思いませんか?