世の中全般に流布しているグーグル・ストリートビュー規制論は、あまりに現在の法的限界を理解しないまま、目先の嫌悪感だけで安直な規制肯定論を主張しているように思います。

法的に規制するにはいくつもの段階があるはずです。


1 道徳規範による規律で十分ではないのか
2 対象者や業界団体等の自主的規制で十分でないのか
3 現在の法令・判例で十分ではないのか
4 新法や法改正をするにしても、努力義務で十分ではないのか
5 新法や法改正をするにしても、罰則がなくとも十分ではないのか
6 新法や法改正をするにしても、刑法・刑法特別法並みの刑罰がなくとも十分ではないのか

という段階を踏んで検討すべきものだと思われます。

ところがこの町田市議会の議論は、都道府県迷惑防止条例という厳しい罰則のある法規により規律するわけですから、何の検討もしないまま規制手段が最終手段へと飛躍していることになります。



住宅専用地域を規制すべきか?

住宅専用地域といってもそれは土地利用上について建築制限を定めたものであって、一般の商店等も数多く存在します。逆に工業専用地域にもマンション等は多数存在します。

つまり、都市計画法上の規制等により、プライバシー権の保護の必要性が増減すると考えるのは実際上も、法理論上も無理があるというべきでしょう。



法規制をしないと犯罪を助長することになるのか?

逆だと思います。現在の刑事訴訟における解釈では、非常にギリギリのラインで監視カメラによる犯罪行為の撮影や、逮捕前の被疑者の撮影が認められています。これも公道上ではプライバシー権の期待権が減少することに基づくものです。

しかしこのようなストリートビュー規制がかかれば、公道上での監視カメラの運用のみならず、重大犯罪の被疑者を路上で張り込み中の警察官が撮影する行為なども刑罰の対象となり、当然のことながら刑事裁判における証拠として使用することができなくなります。

このような規制を実現すれば、犯罪抑止の観点からはとんでもない逆効果となるでしょう。



ネットを使えない人にとって周知方法や削除手段が不適当なのか?

そもそも一般人が路上で撮影したスナップ写真について、削除手段があるわけありません。ストリートビュー規制というのは普通の一般人が路上で撮影し、それをリアルなアルバム等で公開する行為にも等しく規制が及ぶことになります。大きな会社だろうが、個人だろうが「私人」には変わりが無く、ネット上のコンテンツとしてではなく、リアルな写真であっても、自分以外の他者に見せること、すなわち「公開」であることには変わりがないからです。

となると、周知されていないとか削除する手段がないからという理由で規制を正当化することの不適当さが分かると思います。普通の一般人が撮った普通の写真について、たまたま後ろに写りこんだ民家の住居権者に対して、周知できるわけがないですし、スムーズかつ迅速に削除できる手段を設けることができるわけないのですから。

今回の規制論で、一般人が撮った普通の写真という事例を想定せずに、単にgoogleのサービスだけに焦点を当てた議論をしがちですが、このような一般人との限界線を引くことは困難です。広く一般人に対しても規制が及び、しかも公開というのはネットだけではなく、リアルなものに対しても及ぶ概念であるということを理解して、議論すべき問題なのです。


http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0810/10/news106.html
「Googleストリートビュー」町田市議会が国に法規制の検討求める意見書(ITmedia)

http://www.asahi.com/politics/update/1010/TKY200810090350.html
グーグルストリートビュー 町田市議会が規制求め意見書(朝日新聞)

http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0811/21/news045.html
杉並区、「ストリートビュー」問題でGoogleに申し入れ(ITmedia)

http://www.asahi.com/national/update/1122/TKY200811220107.html
杉並区、グーグルにプライバシー配慮申し入れ(朝日新聞)