変な女がいる。



俺がいつもの公園で一休みしていると、女はこちらを見てくる。知らん顔をして遠くへ視線を投げると、女は隣に座りまたこちらを見てくる。

ある日、女は滑り台の上でひとりで酒を飲んでいた。タバコを燻らし、鼻を啜って泣いていた。

俺は少し近くに行き話しかけた。


大丈夫か?


女は優しい笑みをこちらに向けた。そして、柔らかい表情のまま、また泣いた。





それから女とよく顔を合わせるようになった。

決まって、俺が休憩している時間にやってくる。

何の香りかは分からないが、瑞々しい花の香りを纏った女が俺を意識している。そう思うと、俺もまんざらではなかった。




夕立に降られた俺は、桜の木の下で雨をしのいでいた。

するとあの女がこちらに傘を差し出し、小走りで公園のそばのマンションへと入って行った。

どうやらあそこに住んでいるらしい。



気付けば俺は女を待つようになっていた。

俺はあの女が好きになったようだ。

どう伝えればいいかわからない。

あの女がなんて名前なのかも知らない。

ただ、優しい目で笑う女だ。

たまに泣いたり独り言をいうこともある。

心地の良い声で鼻歌を歌う、黒髪が美しい女だ。





ある日、トラックが公園そばのマンション前に停車した。あの女の匂いのする荷物がどんどんと荷台に積み込まれていく。


「梨花。お父さんもあとから行くから、先にお母さんと新居に行ってなさい」

男が言った。


わかったと頷くと、リカと呼ばれたあの女は車の助手席へと乗り込んだ。

俺はその時初めて女の名前を知った。


車が動きだすその刹那、俺の存在を認めた女がいつもの柔らかい笑顔でこちらに向かって言った。





「じゃあね、ハチワレ。バイバイ」






冷たい路面に散らばった茶色い葉が、車が動く風圧でカサっと音を立てて踊った。


次第に薄れていく瑞々しい花の香りが、これでお別れなのだという事を教えてくれた。

遠ざかっていく車に向かって、俺は呟いた。





「ニャー..










 『ハチワレの恋』