「リーン」「リーン」と家の電話が鳴っています。

受話器を取ると、

 

「今度、どこに行く?」

 

と彼女の声。

 

「鳥取の砂丘に行きたいんだけど」

 

と彼女。

 

「いいね、いいね!行こう!」

 

と私。

即決です。

 

彼女とよく10代の頃に旅行しました。

それに、あっちこっち近場も歩いたものです。

 

砂丘は歩きにくく、砂丘の丘を登ると広い砂浜、その向こうに大海原が目に入ります。

 

「うぁー」

 

と大声で叫びながら丘をかけおります。

 

「きれいね」

「来てよかったネ!」

 

と大感激。

 

裸足になってキャーキャー言いながら笑い転げ、しゃべりまくりました。

 

「なんか書く?」

「そうやね」

 

そして、砂の上に書いたのが”夢”です。

 

どんな未来が待っているのか分からない当時の私たちでしたけれど、漠然となにかの”夢”を持って、先に進もうとしていました。

それがこの”夢”の字になったのでしょう。

 

旅したのは、鳥取、岡山、小豆島、広島、四国、それから…。

 

旅行に行くのにはお金がかかります。

学生時代は、家庭教師をしたり、デパートでアルバイトをしたりして工面しました。

また、近場でよく行ったのは、京都。

 

嵯峨野で食べた湯豆腐、美味しかった!

嵐山、苔寺、詩仙堂、金閣寺、銀閣寺、などなども行きました。

 

若かったからよく歩きました。

 

天満橋から上本町まで。

 

「もうちょっと歩こう」

 

と、阿倍野まで歩いたことも。

 

リュックを背負って山歩きもしました。

そこでよく見かけたのがあざみの花です。

 

”山には山の憂があり、海には海の悲しみが…”

 

歌いながら登ったものです。

私もですが、彼女がとても好きな花です。

 

彼女とは小学生からの親友です。

優しくてハニカミ屋さんです。

 

60年間もの付き合いです。

私が辛い時、話を聞いてくれたり、相談に乗ってくれたりと信頼のおける心強い友。

 

岡山に嫁いでからは、小さなスーパーマーケットのおかみさんとなり、早朝3時に起き、仕入れに走るご主人を送り出してから朝食の準備、従業員たちの昼食の準備、3人の子供たちの世話、店番と忙しく、とても頑張り屋さんです。

 

私も何度か岡山に彼女に会いに行った時、忙しい中、色んなところを案内してもらいました。

 

後楽園、倉敷とか…。

備前焼の窯場まで連れて行ってもらい、味深い色合いの壺や花びん、コーヒーセットなどを買い、今も家にあり大切に使っています。

 

ちょっと話が横道にそれますが、岡山と言えば、今、岡山出身のアーティスト、藤井風さんが話題になっていますね。

ピアノもさることながら、歌詞がすごく心に響くし、声もルックスも素敵です。

 

それに聞き慣れた懐かしい岡山弁で、本当に音楽が大好きな素朴で謙虚な人。

そして茶目っ気のある、楽しい人。

才能いっぱいの努力と挑戦を惜しまない人。

 

どの歌も大好きです。

私も久しぶりに惚れてしまいました。

 

素敵な”風”が吹き始めています。

 

 

結婚してから、神奈川と岡山、遠く離れてしまいましたが、電話を掛け合った時、旅行の話になると、あざみの花がよく話題になって、

 

「今は子育てやらで忙しいけど、又、旅行に行きたいネ」

 

と話していました。

 

でも彼女は10年前、遠くへ旅立ってしまいました。