夏の日の朝、店のシャッターを開ける。

店先に咲く花、おしろい花。

母はバケツいっぱいの水をその花たちに勢いよくかけてあげる。

母の一日の始まりです。

 

たばこ屋の女主人。

 

淡いピンク色の可愛らしいおしろい花を愛おしく優しい眼差しで眺めながら、枯れてしまった花を摘み、世話をしている母の姿は、私達9人の子供たちを優しく厳しく育ててくれた母の姿です。

 

姉が2人、兄が3人、姉が1人、私、妹が2人の9人の子供たち。

当時の昭和では、子だくさんは珍しいことではなかったでしょうが、産み育てることの大変さは、いかばかりだったことでしょう。

 

私の知らない兄が1人います。

可愛い盛りの3歳の頃、病にかかり亡くなった時、母の悲しみは想像を絶するものだったと、姉たちから聞きました。

 

母はケースにたばこをきれいに並べます。

”ひかり””ホープ””しんせい””ピース”などを。

横には色んな種類のガムもにぎやかに置かれ、サラリーマンがたばこを買ったついでに買っていってくれます。

 

私達が住んでいたのは、天満橋と天神橋の中間にある細長いビルでした。

ここに引っ越してきた日は、私の高校の卒業式の日で、母は出席出来ず、すぐ上の3歳違いの姉が代理で来てくれたのですが、その姉も50代で亡くなりました。

とても美人で活発で、行動力のある、頼れる姉でした。

悲しかったです。

 

ところでこのビルは地下があり4階建てで、オフィス街にありました。

表は車やバス、人々が往来するにぎやかな商売の町。

裏は淀川が流れ、中之島が見えます。

 

そうそう、夏といえば天神祭です。

 

7月24日は宵祭。

25日になると人が増えてお店も大繁盛。

淀川には、たくさんの人を乗せた船「お渡り」が「ドンチャラ ドンチャラ…」と鳴り物入りでにぎやかに渡っていきました。

夜になると花火が「ドカーン」「ドカーン」と美しくにぎやかに、夜空に色とりどりに輝きます。

 

この日は兄姉、親類、友人が集まり、色んな料理を前にビールを飲み交わしながら、3階からの花火を私たちも楽しみます。

花火が見られる特等席ですよね。

 

結婚してから神奈川県に住んでいるのですが、2人の娘を連れて、夏、里帰りした時、娘たちも大喜びでした。

従兄弟たちと連れ立って、天神様までお参りに行くのに、橋を渡り夜店を楽しんだものです。

 

あの天神祭りのにぎやかさ、晴れやかさは忘れられません。

 

でも今はコロナの影響もあってか、中断しているみたいです。

残念です。

 

再会(開)を待ち侘びます。

 

おしろい花を見ると、たくさんのことが思い出され、胸が熱くなります。

特に両親、兄弟、友を。