明けましておめでとうございます。
本年も何卒宜しくお願い申し上げます。
今年は丙午ということで、私のついに還暦を迎える年になりました。
11月生まれですので、少し時間を要しますから、何とか迎えられます様に頑張ります。
さて、X(旧Twitter)に昨年末から話題になっております投稿がございます。


という事で、事実関係を見てみましょう。
1.現在の含有量について
コミュニティノートにもございます通り、生後1年以内に接種するワクチンの中でチメロサール含有のワクチンははB型肝炎ワクチンの3回接種のみです。
現在、日本におきまして使用されておりますB型肝炎ワクチン(『ビームゲン』や『ヘプタバックス』など)の多くは「チメロサールフリー(含有量ゼロ)」或いは製造工程で除去されまして極微量しか含まれていないものが主流です。
例えば小児用或いは成人用では1回(0.5ml)あたり、およそ1.0~2.5µg以下、或いはそれ未満(検出限界以下)となっております製品が多いです。
2.チメロサールが含まれる成分
科学名は「エチル水銀チオサリチル酸ナトリウム」で、その重量の約50%が水銀です。
その「水銀」は、水俣病の原因にもなりましたメチル水銀とは異なりまして、ワクチンに使用されておりますのはエチル水銀です。
重要なのは、このエチル水銀の体内での代謝・排泄がよりよく研究されていることにございます。
◎血中半減期
新生児・乳児を対象としました研究では、血中エチル水銀の半減期(血中濃度が半分になる時間)が約3.7~7日程度、30日経過しますと接種前の数値と同レベルになっているとの事です。
https://publications.aap.org/pediatrics/article-abstract/121/2/e208/68691/Mercury-Levels-in-Newborns-and-Infants-After?redirectedFrom=fulltext
他の評価では7日というものもございます。
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3018252/
つまりエチル水銀は血中で比較的短い期間で減少し、30日程度で元に戻るという事になります。
◎排泄経路
主に糞便を介した排泄(胆汁経由で腸管排泄)が主体でして、尿中への排泄はほとんど検出されませんでした。
https://publications.aap.org/pediatrics/article-abstract/121/2/e208/68691/Mercury-Levels-in-Newborns-and-Infants-After?redirectedFrom=fulltext
このことから、体外への排泄経路は主に腸を介したものと考えられております。
3.他の食品との比較
◎「エチル水銀」と「メチル水銀」は別物
チメロサール由来のエチル水銀(EtHg)は、高い毒性が懸念されます(水俣病の原因ともいわれている)メチル水銀(MeHg)と比べまして、体内動態が違います。
メチル水銀は血中半減期が20日以上とされます事に対しまして、エチル水銀は明らかに短い半減期を示します。
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0013935114002400?via%3Dihub
◎マグロの刺身と比較(参考)
マグロの赤身(1人前約80g)には、約30~40µg程度のメチル水銀が含まれております。
と申しますと、「経口摂取と注射での接種は違う!」という反論が出て来ることは想定済みです。
例えばこちらですね。
これは科学的な主張というよりは、レトリック(断定+人格攻撃)で成立しております典型例ですね。
1.この投稿の論理構造
この投稿は、以下の三段論法によって成立しております。
- 前提A~「経口摂取と注射では影響が全く異なる」
- 前提B~「それは素人でも知っている」
- 前提C~「それを言う医者は偽医者か悪質なデマ」
とまあ、一見もっともらしいのですが、科学的には成立しません。
2.どこが間違っているのか(科学的な観点)
誤り1~「全く異なる」という過剰な一般化
毒性学では、
- 経口と注射で“違いが出る事が多い”
- “必ず全く異なる”という訳ではない
実際には、
- 経口と注射で同等の影響を示す物質
- 注射の方が安全なケース
- 経口の方が安全なケース
は普通に存在します。
「全く異なる」は科学用語ではなく、単なる断定表現です。
誤り2~「同じものでも」という部分が致命的
ここで投稿主が仰られます「同じもの」とは、おそらく「水銀一般」を指していらっしゃる可能性が高いのですが、そもそも、
は別物です。
【メチル水銀】

【エチル水銀】毒性学では、同じ元素を含んでいても、化学形が違えば別物質です。
これは医学生の初歩どころか、中学生レベルと言えましょう。
誤り3~「医者なら知っているはず」という藁人形
実際の専門家の立場は、
「経口と注射違うが、エチル水銀は血中半減期が短く、注射であっても速やかに排泄されることがヒトデータで確認されている」
ですので、
- 経口摂取と注射との違いを否定していない
- 違いを考慮した上で評価している
訳ですが、この投稿主は「違いを無視している」かの様にすり替えているのです。
これは典型的なストローマン(藁人形)論法です。
3.何故この手の投稿が強く見えるのか
理由は、以下の通りです。
- 常識に訴える…「素人でも知っている」
- 権威に訴える…「医者なら知っているはず」
- 人格攻撃で締める…「偽医者・デマ」
内容ではなく、印象でマウントを取ろうとする構造です。
4.マグロとの比較は意味が無いのか
◎比較が意味が無くなるケース
毒性を同一視する比較が該当します。
- メチル水銀=エチル水銀
- 経口=注射
- 半減期や蓄積性を無視
◎比較が意味を持つ場合
- リスク評価の直感的説明
- 曝露量・頻度・対内残留のオーダー感の比較
という感じで、安全性を説明するための比較対象としましては、とても合理的と言えましょう。
実際、規制当局(WHO・CDC・EMAなど)も、
を明確に区別した上で、比較を行っております。
「この子を健康ですくすくと育てたい(育ってほしい)」と願う事は、親として当たり前のことだと思います。
しかしネットには、一見健康に良さげに見えますが実はデタラメという情報は腐るほど存在することも事実です。
もし少しでも不安に感じましたら、お近くのお医者さんに相談されます事をお勧めいたします。