亡霊が復活する 海軍士官学校教員を国家保安法違反で拘束 | 朝鮮問題深掘りすると?

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初老の徳さんが考える朝鮮半島関係報道の歪み、評論家、報道人の勉強不足を叱咤し、ステレオタイプを斬る。

韓国海軍が北朝鮮と関連した現代史を教えていた海軍士官学校国史教授要員の金某中尉を国家保安法違反容疑で起訴した事実が、明らかになりました。この事件、韓国で人々の思想がどのように扱われているか、これでも韓国が民主主義社会と呼べるのかという根本的疑問を与えていることから、ブログでも扱うことにしました。


報道によると去る6月27日、海軍士官学校普通検察部は、金某中尉を国家保安法第7条、1項および5項違反(讃揚、鼓舞罪)など違反容疑で符拘束起訴したと言います。


軍検察は控訴状で「金中尉が作成した講義ノートは革命的首領観、チュチェ思想、先軍政治などを北の歴史の内在的要素だと正当化し、北韓の核兵器開発を擁護し、金日成の祖国光復会結成などをそのまま収録していて、北韓の歴史観と対南宣伝を正当化し鼓舞、同調する文書」だと規定しています。


またこのような内容の講義ノートを作成し士官学校生徒らが閲覧できるように海軍内のネットワークに載せたのは「北韓共産集団の活動を讃揚、鼓舞、宣伝、またはこれに同調する目的でこのような表現物を製作、所持、頒布した行為」だとしています。


実際はどうだったのでしょうか?


金中尉は海軍士官学校で国史を担当しながら、北韓関連現代史を中立的視点で教えてきたと主張します。彼は問題になった09年度2学期の講義ノートで金日成主席の普天保戦闘と、解放後に実施した土地改革や首領論など、北朝鮮の独特な体制の特徴を説明していますが、それはあくまでも韓国紙研究会が編纂した「新しい韓国紙の道案内」(上、下)を参照したものでした。


ここで中尉は「金正日国防委員長は1990年代中盤、深刻な問題を解決する鍵として、経済問題の解決に力量を集中したのではなく軍隊を強化する先軍政治を打ち出した。北韓は自主路線を維持するために相当の費用を払わねばならなかった。このような状況こそ北韓としても核開発にしがみつくようにしたものと推定される。北韓政権は核を開発すれば、彼らの最も深刻な」困難な問題を同時に解決することが出来ると判断した」と書いています。


問題になったのはまさにこの部分でした。さらに検察は金中尉がインターネット論文検索サイト「DBPA(ディビーピーア)」で「個人学術研究および講義時に生徒らが提出する発表文の参考資料として提供する目的で」「『金日成満州抗日遊撃運動に関する研究』、『朝鮮人民軍-記憶の政治、現実の政治』、などの文献をダウンロードした」点も公訴事実として上げています。また金中尉が「解放前後史の認識」や「青年のための韓国現代史」、「アリラン(ニム・ウェルズ)、「ヘーゲル法哲学批判(マルクス)」、「帝国主義論(レーニン)」などの本を所持していたことも問題視しています。


軍検察は「アリラン」は「金山など朝鮮人共産主義者らが抗日独立闘争を行ったという北韓の主張に同調する内容」であり、「帝国主義論」は「社会主義革命を行うべきだという北韓の主張に同調する内容」なので「利敵表現物所持罪」に該当するというのです。


あきれてものが言えません。まさに1930年代に戻ったような錯覚を起こします。当時の日本総督府と同じ論理が堂々とまかり通っているのです。今の日本では信じられないことでしょう(治安維持法の時代を記憶している方を除いて)。まさにかつて朴正熙軍事独裁政権がこの論理で民主化を要求して闘った人々をむやみに逮捕投獄し、拷問を加えスパイ弾事件をでっち上げ、韓国社会を暗黒の地に変えていったのです。この論理を法制化したのがまさしく過去の反共法であり現在の国家保安法です。


その後、全斗煥政権を経てノ・テウ、金泳三、金大中、ノ・ムヒョン政権と変わってきましたが、朴正熙軍事独裁政権の支柱となってきた反共法=国家保安法は生き続け、現在に至っています。多くの人々が国家保安法の撤廃無くして民主化の実現はあり得ないと主張し続けましたが、現実がそれを立証しています。


国家保安法の最も問題となる点は,まさに金中尉に適用された第7条1項および5項です。具体的行為に及ぶまでもなくただ所持、讃揚、伝達しただけでも同法に抵触するという点です。ところが書店で同様な本を売っていたといって同法が適用されることはそうありません(かこにはありましたが)。書店で売るのは宣伝、頒布には当たらないと言うことです。つまり同法は孫悟空の如意棒のごとく、またはゴムバンドのように伸びたり縮んだりする極めて使い用の良い法律だということです。


表面上はいかにも民主化がなされたように色付けはしましたが、内実は隠されたままでいるのです。現在の韓国の民主化とはだましのテクニックを最大限に行使したあげくの姿に過ぎません。そう、中身の腐った果物の皮を科学的にきれいに処理し、店頭に並べているのと同じです。


しかし日本のマスメディアは,それに気づきません。外面に完全に騙されていると言うことです。そのために現在の李明博政権の危険性に気がつかないのです。その李明博政権が政権後半に入ってから徐々に仮面を脱ぎ始めています。


「天安艦」沈没の北朝鮮犯行説のねつ造、延坪島での島民の命を賭けたバクチでの判断ミスによる砲撃戦、「希望のバス」運動に対するファッショ的弾圧、戦争直前までに至った行き過ぎた対北戦争政策、民族誌「民族21」に対する言論弾圧、KBSを使った野党盗聴事件、海兵隊での非人間的行為の続発、大企業一辺倒の経済政策による中小企業の没落、民生苦の拡大、大統領公約無視の常態化、4大河事業などの政策的自然破壊の強行、自然保護地での海軍基地建設の強行などはそうした面の特徴的な表れに過ぎません。


日本のメディアに気が付いて欲しいものです。今のままでは韓国と似たような状況が待ち構えているような気がしてなりません。


例えば韓国の言論状況を見ると、ハンギョレや京郷日報などごく一部の日刊紙を除くと、ほとんどが御用新聞に成り下がり、産経新聞と代わりありませんが、インターネット新聞によってかろうじて情報の民主主義は堅持されています(言論労組の活動も無視できません)。しかし日本にはそうしたものがありません。ほとんどの中央紙が「産経化」の方向に動いているようです。TVメディアを含めて労組があってしかるべき言論に労組などはなく、言論が資本のスピーカー、アナウンス、飼い犬に成り下がっている日本ですから、一度政治が間違った方向に進んだときに、予想以上のスピードで、予想以上に簡単に、民主主義など吹き飛んでしまうのではないでしょうか。


管理人はつねにそうした危機感に囚われながら毎日を過ごしています。