延坪島砲撃 どう見るか、どうなるか?③ | 朝鮮問題深掘りすると?

朝鮮問題深掘りすると?

初老の徳さんが考える朝鮮半島関係報道の歪み、評論家、報道人の勉強不足を叱咤し、ステレオタイプを斬る。

第2の疑問について書く前に、アメリカが原子力空母(ジョージ・ワシントン)機動艦隊を含む大々的軍事動員をかけた米韓合同軍事演習を西海で強行したことに触れないわけには行きません。これにより朝鮮半島は一気に戦争の暗雲に包まれる危機を迎えています。北朝鮮側も戦闘体制に入り(まだ戦時動員をかけたという情報はありませんが)、米韓の不意の攻撃に備えているようです。


さて、オバマ大統領は「27日夜(現地時間)ABC放送のバーバラ・ウォルタスとのインタビューで、延坪島の事態と関連して「必ず対処すべき現在進行中の脅威であることを認めるべきだ」としながら「現段階では軍事的行動は念頭においていない」と語ったと言います。


「現在進行中の脅威」であることは認めますが、「現段階では軍事的行動は念頭においていない」と言う言葉は責任逃れの逃げ口を開けておくためのようでもあります。彼は「軍事的行動」と言う言葉を、実際の軍事攻撃を指していっているようですが、北朝鮮を核による先制攻撃の対象にしておきながら、実践を想定した軍事演習を「軍事的行動」に含まないのは卑怯な言質です。


北側はこれを軍事的冒険主義と捉えており、28日付の労働新聞では「わが祖国の領海を侵犯する挑発策動に対し、無慈悲な軍事的対応打撃を加える」と警告を発し、朝鮮平和擁護全国民族委員会は28日に発表した声明で、演習によって「朝鮮半島情勢は極度の戦時状態に至った」とし、「侵略戦争のための演習」、「危険きわまりない軍事的挑発」と強く非難しています。また聯合ニュースは、北朝鮮軍が地対空ミサイルを前方展開し、地対艦ミサイルを発射台に設置していると報じました。西海(中国黄海)に面した中国山東省威海の空港では、米韓合同軍事演習あわせ、戦闘機が2機ずつ5分おきに離陸するなど、戦闘機が頻繁に離着陸する様子が目撃されたといいます。


まさに西海での米韓合同軍事演習は戦争前夜の状況をかもし出しているのです。米韓合同演習が、少しでも北側の統制区域を越えたときには、北側は間違いなく「懲罰攻撃」を加えるでしょう。全体どんな状況が展開するのか考えるだけでも恐ろしくなります。たとえれば日本の房総沖で敵国の原子力空母艦隊が日本に向けた核先制攻撃戦略の下で、戦争演習を繰り広げていると思ってください。そうした場合日本人の誰がその演習を容認しようとするでしょうか?


オバマ政権の言動は、12月初旬に6者会談首席代表会合を持とうと言う中国の事態沈静化案とはずいぶんと距離があります。中国の提案が事態沈静化に向けたものであれば、アメリカの言動は事態(危機)拡大に向けた無分別な言動だと言わねばなりません。今後事態がどう展開していくのか予想もつきませんが、結局はアメリカの動きにかかっていると言ってよいでしょう。産経はこの中国の呼びかけが北側の助け舟だといっていますが、実は米韓に向けた助け舟であることがまったくわかっていません。迷っているのは北側でなくて米韓だという事態の本筋をまったくわかっていません。



さて現況はここまでとし、前回に続き第2の疑問に移りたいと思います。当初「拡戦しないように」と言っていた李明博大統領が、なぜ前言を翻し「断固とした対応を」→「北のミサイル基地打撃」と、時間がたつにつれ強硬な姿勢を見せており、ひいては「二度と挑発ができないような莫大な応懲」、「交戦守則を超えた対応」などといった、まさに全面戦争を念頭に置いた発言までしているのかと言うことです。


いくつかの理由が考えられますが、まず考えられるのは保守右翼陣営からの弱腰非難が強烈だったと言う点です。韓国の保守右翼陣営は李明博政権のよってたつ地盤です。第3の疑問にもかかわることですが、実は当時、李明博政権はまさに存亡の危機に立たされていました。このままで行けば閣僚や青瓦台の何人かが服を脱がねばならない事態が起き、ハンナラ党内の親李明博系とそうでない勢力との間の軋轢が強まり、自壊に向かった危機が訪れる可能性を秘めていました。その状態で、寄って立つ保守右翼陣営からの攻撃を受けては身の置き所がなくなります。



実際、25日に金泰栄国防長官が辞任しましたが、その理由として挙げられているのが「拡戦しないように」との李大統領の発言が実は金長官の勝手な作り話だったと言うことです。もっとも青瓦台関係者の口からはその発言は本当だという話も漏れており真相ははっきりしませんが、どうやら李大統領に向かう非難を避けるためのスケープ・ゴートになったようです。当時の反北保守右翼勢力の硬化した心情を良く見せてくれます。こうしたことが李大統領をして徐々に発言を硬化させた背景だと思われます。


つぎにアメリカの反応に対するすばやい変化だと見ることもできます。ご存知のようにオバマ大統領は事態が知るや韓国の要請も待たずに即刻、核空母ジョージ・ワシントン機動部隊の西海派遣と韓米軍事演習を行うと発表しました。李大統領の発言が変化しているのには、事態の拡大をもたらすアメリカのこのような無分別な決定を受け入れる素地を作ろうと言うのではないのかということです。それは、李大統領の発言がすべて(韓国軍の)戦時指揮権を握っている中韓米軍(つまりペンタゴン)との合意が無ければ無理な話だと言うことからもわかります。


さらに、事態が急速に沈静化されては困ると言う李政権の内部事情があります。最初に指摘した問題がそれです。これについては次回に回そうと思います。


こうしたことを見ると李政権が延坪島事態をどのような姿勢で捉えているのかがよくわかります。軍部が北側の深刻な警告を安易に無視し、島民を危険にさらしたことも、李明博大統領が次々と発言を翻していることも、すべて政権や軍部の利害を守ることに集中していたことを表してはいないでしょうか。


そもそも、なぜ島民の安全を省みずに、北側の警告を簡単に無視して砲射撃を行い北側の攻撃を誘発したのかという点が争点に上るのを恐れているようです。それは第3の疑問と直接関係します。