新冷戦に向かうアメリカを朝中が阻止する | 朝鮮問題深掘りすると?

朝鮮問題深掘りすると?

初老の徳さんが考える朝鮮半島関係報道の歪み、評論家、報道人の勉強不足を叱咤し、ステレオタイプを斬る。

パソコンの調子がどうもよくなくて一部修理に出していたのでお休みしていました。ご心配してくださった方々には謝意を表したいと思います。


さて、オバマ米行政府が最近為替、貿易、安保などのイッシューにおいて中国に強力に対応するという立場を定め韓国、日本とともに冷戦時代の同盟を再生しているとニューヨーク・タイムズが25日、指摘しました。驚く話です。過去の亡霊がいよいよ本格的に姿を現し始めたというのです。


新聞は、オバマ政府があらゆる貿易パートナーを自陣営に引き入れ、為替と南中国海問題などで「単一戦線」を構築していると伝えています。

ところでオバマ政府の対中国姿勢の一変は米中間の信頼が過去2年間で急激に失われ、その結果、気候変化や核の非拡散、世界経済のいびつさを是正する新制度問題などの主要な懸案において、中国の協力を得るのは難しいとの判断を下しているからだと新聞は伝えています。


ご存知のようにオバマ政権は中国との戦略的パートナーシップを強め、グローバルパートナーとして迎え入れることで、崩れ始めている覇権を維持しようという軽薄な考えを持っていたのですが、結局、中国はこうしたアメリカの心積もりを見抜き、できるだけ負担を避けつつ平和を維持し、かつ経済を安定発展させ、国際的発言権の強化拡大を実現しようと邁進してきました。


そしていまや中国は「アメリカは沈み始めており、中国は上昇し始めている」との認識に立ち、独自の世界政策、東アジアの平和構築に関する独自の道を進みはじめたわけです。そして世界経済はどちらかといえば中国の手を上げたのであり、アメリカは泥沼の中からいまだに這い上がれない状況が続いているということです。アメリカの言い分によれば、中国は「いいとこ取りをしただけで義務を果たしていない」ということになるのでしょうが、中国から言わせれば、「自分のまいた種は自分で刈り取るべきであり、それを人の犠牲を頼みに行おうというのは手前勝手な考えだ」ということになるでしょう。


そしていま中間選挙を目前とするアメリカは経済が不安で失業率が悪化する一方で、中間選挙立候補者のなかで最小30余人は中国を「アメリカ人の就職を脅かす国」だと悪魔化のキャンペーンを繰り広げているようです。


無論こうした姿は現政権にも垣間見ることができます。クリントン国務長官は7月のアセアン地域安保フォーラムで南中国海と関連して、「自由に公開し、アジアの共同水域に制限なく接近するのに国家的利害を持っている」と語り、沿岸海域を空母艦隊が航海するのに神経を尖らせている中国を逆なでしたりしています。逆の立場だったらたぶんアメリカは、海上封鎖措置を取ったと思われるにもかかわらずです。


いずれにせよ劣勢に追われているオバマ政権が「巻き返し」を狙って、日本や韓国のような同盟国を結集させ、アジアのどこであろうとアメリカの立地を拡大しなければならないと思っているようです。


オバマ大統領が来月日本、インドネシア、韓国、インドを訪問する予定ですが、そこに中国が含まれていないのも、「この地域には(中国だけではなく)緊密かつ深い関係を持つほかの友好国がある」ということを中国に知らしめようとしたのではないかとも見られています。


しかしアメリカのこうした努力も思ったような結果を出せないでいるようです。先のG20財務長官会議で中国に肩透かしを食い、中国をとことん劣勢に追いやることに失敗したことにもそれは現れているようです。


他方、アメリカが勤めて見ないように努力している問題もあります。朝中の歴史的友誼、血盟と言ってもよい朝中の友好協力関係が新たな土台の上でいっそう強化されているという現実です。


23日に朝鮮戦争参戦記念日を記念して、人民解放軍副総参謀長、総政治部副主任、総装備部副部長、総後勤部副部長、瀋陽軍区副政治委員、済南軍区副司令員などそうそうたるメンバーを従えた、郭伯雄中国共産党中央軍事委員会副主席を団長とする大型軍事代表団が朝鮮を訪れ、血であがなわれた友好・協力関係の新たな強化発展を両国が誓い合ったのもその一例です。


さる18日の第17回党中央委員会第5回全体大会で中国共産党中央軍事委員会副主席に選出されたことから中国の次期指導者として目されている習近平副主席は25日、北京の人民大会場で開催された「抗米援助戦争参戦60周年座談会」で、「中朝両国人民と軍隊が団結して抗米援助戦争で偉大な勝利を獲得することができた」「中国人民は常に中朝両国人民と軍隊が流した血で結ばれた偉大な友情を忘れたことがなくい」と語っています。


訪朝した軍事代表団について伝えた中国の新華通信は「中朝間の伝統的な友好関係を再確認するだけでなく域内の平和を守るためにも貢献する」と書きながら、「中国と朝鮮の血で結ばれた友誼が代を継がれている」と題した労働新聞の記事を転載しています。両国の血で結ばれた伝統的友誼をともに再確認したことを示したわけです。


特に気になるのは、23日の宴会では副主席が「双方の共同の努力によって発展してきた両国の神前協力関係は社会主義建設を促進し、地域の平和と安定を維持する上で重要な役割を果たしてきた」「今回の訪問を通じて新世紀の両国軍隊間の神前協力関係発展の展望を確信することができた」と演説していることです。


中国の新華通信はこのことを伝えた「歴史の船に乗り平和の帆を広げる」という題の記事で、「歴史を鏡とし平和を大切にし未来に向かうのは戦争が残した貴重な教訓」だと書いています。


中国がとくに平和と安定を唱えるのは、最近、米韓間で駐韓米軍の戦略的柔軟性を確保・強化するための新たな米韓軍事同盟強化策が講じられたことも、当然念頭にあるものと思われます。この問題についてはおいおい書くつもりですが、内容は東アジアを冷戦に引き戻すような内容で埋め尽くされています。もちろんその根底には中国に対するアメリカの敵対的姿勢が見終え隠れしていますが、ニューヨーク・タイムズの記事をつなぎ合わせると、オバマ政権は本気で東アジアに冷戦を呼び戻すつもりでいるようでもあります。きな臭い匂いが漂ってきます。要注意です。


しかし今回の高位級中国軍事代表団の訪朝は、朝中が一緒になってアメリカの覇権主義に抗して、東アジアの新しい秩序形成に本格的に動き始めたことを示しているようでもあります。東アジア新秩序形成の主導権はどうやらアメリカではなく朝中が握っているようです。当然、6者会談をはじめとする朝鮮半島の非核平和秩序の構築がその中心に位置していることでしょう。


最後にマスコミの報道についてまたも苦言を一つ。中国軍事代表団の訪朝と関連して日本のマスコミはおおむねその政治軍事的意味を分析しようとはせずに、金正日国防委員長、金正恩軍事委員会副委員長の動静に焦点を当てていました。まさにスキャンダル記事に仕上がっていたようです。イエロー・ジャーナリズムそのものです。まったく読む気に慣れませんでしたが、無責任なことは書けませんので、一応目を通しはしましたが、まったく情けないことです。