「天安艦」ミステリー 米のジレンマ、北のテロ支援国家再指定を断念 | 朝鮮問題深掘りすると?

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初老の徳さんが考える朝鮮半島関係報道の歪み、評論家、報道人の勉強不足を叱咤し、ステレオタイプを斬る。

韓国の連合ニュースに寄ればアメリカ国務省は28日、天安艦『挑発』は相手国、軍隊に対する攻撃行為であるので、国際的テロだと規定することが出来ないだけに天安艦事件をもって北朝鮮をテロ支援国に再指定することは出来ない(The sinking of a South Korean warship widely blamed on North Korea was not an act of international terrorism and does not justify putting Pyongyang back on a U.S. blacklist」(Reuters)との立場を明らかにしたそうです。


フィリップ・クローリー広報担当次官補がこの日のブリーフィングで発言したことですが、彼は「天安艦沈没事件は国際的テロリズム行為ではないというのが、われわれの判断」だとしながら「この事実だけをもって北朝鮮をテロ支援国リストに挙げることはできない」と語っています。


アメリカは天安艦事件後、一貫して「国際社会が共同で北朝鮮の挑発行為に対して強力かつ断固とした対応をすることが重要だ」(クローリー米国務省次官補22日定例ブリーフィング)と野姿勢を表明してきましたが、その一環として「テロ支援国再指定について検討」が云々されてきました。クローリー次官補の発言は今回の事件で北朝鮮をテロ支援国として再指定するのは無理があることを認め、それをアメリカが断念したことを明らかにしたものだといえます。


もっともこの発言をアフガンやイランに適用すると、アメリカの対テロ戦争と言うものがどれだけ勝手な口実となっているかがよく分かります。クローリーの発言は国際テロに対する法理論的解釈がどうこうというよりも、「テロ支援国再指定」がもたらす反動の大きさを考えてのことでしょう。いずれにしても安保理での「北朝鮮非難決議」がほとんど不可能な状況であり、議長声明どころか新聞発表さえもおぼつかない状況の中で、G20で天安艦問題が扱われなかったことに加えて今回のアメリカの態度は李明博政権に強烈な打撃となったでしょう。まさに李明博政権の必死な「天安艦外交」の沈没を目の当たりにする感じです。


さらにクローリーが「天安艦沈没は明確な停戦協定違反」だとし、「天安艦問題を北朝鮮と論議するために、北朝鮮との協議を模索」しているが「北朝鮮が応じていない」と発言したことに注意を傾けたいです。軍事停戦委員会でこの問題を扱おうという米国の要求は27,28日の二度に渡って駐韓国連軍司令部(実体は米軍です)が「将官級会談に先立って領官級会談を行おうと提案していましたが、これに対して北朝鮮側は「国防委員会の調査団受け入れに応じるのであれば即刻南北行為旧軍事会談を開催するための実務接触を持つ事ができる」との逆提案を通知文の形式で27日に南側に通告しています。


北側のこの逆提案は「米軍側はこれ以上、国連軍司令部の名義で北南関係に口出ししてはならない」とし、「アメリカがこの問題に介入すればするほど、アメリカに対するわれわれの疑惑はいっそう大きくなる」「アメリカは我が方のはわが方の公明正大な立場を受け入れる事が、天安艦事件の解決のためのもっとも合理的な方途であるということを肝に銘じるべきである」と指摘しています。北側の言う方途とは国防委員会の調査団は権を南側が受け入れるということです。


もちろんクローリーの発言は北側の提案を再度拒否した上で、「停戦協定」に基づいた協議のことを言っているわけですが、天安艦沈没をもたらした米韓合同演習そのものが停戦協定違反であるので、まったく話にならない発言です。あえて言うならば泥棒がその最中に事故を起こしたが、その事故が家主の行動のためだとし、泥棒をすべきではないとした法律に基づいて家主と泥棒が協議すべきだというとんでもない話になってしまいます。


ところがアメリカは北朝鮮との協議を望んでいるということですが、そこには問題を韓国の手からもぎ取り朝米間問題として扱いたいという狙いが無きにしも非ずではないでしょうか。そこにはこれ以上李明博政権の猪突猛進的な「天安艦外交」をこれ以上見て入られないといった心配が横たわっているようです。


しかしかといってそれがアメリカの本心だと決め付けることも出来そうにありません。
なぜなら休戦協定では海上には休戦線が引かれておらず、従って非武装地帯も何も無いわけですから、この事件をもって「停戦協定違反事犯を協議するのは停戦協定上の規定された手続き」だという論理は通じません。もちろん南北軍事会談で暫定的取り決めを作ろうという話はありましたが、これも南側のボイコットにより結論が出ないまま、南北軍事会談自体が廃棄されている状態です。この点については管理人が既にブログで扱っていますので参照してくれると嬉しいです。


従って天安艦問題を停戦協定に従って協議するということになれば、当然この問題が浮上せざるを得ません。それは畢竟、韓国側の主張する北方限界線(NLL)をどう取り扱うかという問題になるほかなく、それは新たな問題の浮上をもたらすことになります。もちろんアメリカにその意思は無いでしょう。となると「停戦協定違反」云々を口実にした北朝鮮との協議が必要だというクローリーの発言は半信半疑で受け止めた方がよいということになります。管理人は北朝鮮をテロ支援国家として再指定するのを断念したことに対する李明博政権の不満をなだめるためのリップサービス程度に考えています。


もちろん北朝鮮は、北朝鮮との協議を求めるアメリカの要請を門前払いにしていますが、当然でしょう。北朝鮮は強く否定しているし、天安艦沈没が「北朝鮮の犯行」だというのは、未だに米韓が広めた心象だけが残っているだけであって、何一つ立証されたものが無いわけですから。


いずれにしてもアメリカは昨日のブログで書いたように、天安艦事件を通じて得るだけの物を得たわけですから、そろそろ矛の納め時だと判断しているようです。しかし、そのためには李明博政権の猪突猛進を止めなければならず、彼らを納得させる可視的な「成果」を与えてやらねばなりません。そうでなければ李明博政権の暴走を止める事ができず、それは結局、韓国の李明博政権反対運動の拡大-李明博政権のレームダック化、ひいては6者会談再開の目途すら放棄しなければならなくなる結果をもたらしかねません。ここにアメリカのジレンマがありそうです。