「天安艦」事件 李明博政権国連安保理でも進退窮まる | 朝鮮問題深掘りすると?

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初老の徳さんが考える朝鮮半島関係報道の歪み、評論家、報道人の勉強不足を叱咤し、ステレオタイプを斬る。

天安艦」事件の調査結果の疑惑が日ごとにます中で16日、韓国では市民社会団体が「天安艦事件真実究明と韓半島平和の為の共同行動」(共同行動)が発足しました。この「共同行動」には43のNGO団体や市民・社会団体が参加しています。5月25日に「天安艦沈没事件関連社会団体非常時局会議」で発足を決定した対策機構です。


「共同行動」は情報と資料の収集、専門家らとのネットワークの形成、野党との協調など、独自の真実究明活動をはじめ、南北中国、アメリカからなる4カ国共同調査と国会での国政調査要求などの活動を展開することになります。わけても「天安艦真実申告センター」を運営し、市民らが手に入れた資料や情報の収集、天安艦生存将兵良心宣言など、事件の真実を明らかにするための資料を集めていく計画です。


「共同行動」の発足は韓国民の中で合同調査団による調査報告が捏造されており、疑惑が深まるばかりだという認識が拡大している現状を踏まえたもので、今日の韓国社会の心象を良く見せてくれています。


実際「天安艦」事件と関連した韓国社会の動きは実に驚愕するものです。このブログで紹介した合同調査団の調査結果に対する反論、疑惑の暴露などは全て在外韓国人学者や、韓国ネチズンによるものでした。彼らの視点の鋭さには頭が下がります。それはもはや韓国では政権による謀略的な情報操作は通じなくなっていることを世界に示しているといえるのではないでしょうか。


実際、韓国ネチズンの政治的感覚の鋭さやネット言論の威力を見ていると、2チャンネルのようなものしか生まれない、あるいは言論資本に牛耳られた言論権力によって世論が気ままに操作される日本よりも遥かに先を走っているように思えます。やはり国民の政治意識、あるいはいわゆる「民度」の違いなのでしょう。


こうしたネット言論による真相調査の動きは李明博政権に重大な脅威として受け止められています。それをよく見せてくれるのが「天安艦民軍合同調査団」の調査結果への疑問を整理した資料を、国連安保理事国に送ったNGO「参与連帯」に対する李明博政権のファッショ的弾圧です。参与連帯が安保理議長と理事国に送ったというのは参与連帯平和軍縮センター(ク・ガブ所長)がeメールで送った「天安艦調査結果発表によって解明されていない8つの疑問点」と「天安艦沈没調査過程の6つの問題点」と英訳資料です。


李政権は資料を送った参与連帯を以下のように汚く罵っています。
「愛国心があるならば国連にまで(資料を)送り、われわれの調査結果が間違えているとは言えなかったであろう」「何処の国民なのか疑問だ」(チョン・ウンチャン総理)
「理的行為と同じだ」「(政府の努力に)灰を撒くもの」(匿名の当局者)
「我が政府が傾けている外交努力を阻害するもの」(外交通商部)


つまり政府の意見と違う意見を言うのは許せないというわけです。しかしNGOの元来の使命から言えば、参与連帯はNGOの使命を立派に果たしているということではないでしょうか。それを「愛国心」を傘に押さえつけようとしているのですから、まさにかつてのファシズムを想起しないわけにはいきません。それはNGOの存在自体を否定するものであり、政府のすることに意義をはさむなと言うことなのですが、どうしてそのような国を民主主義国家といえましょうか。


より重要なのは政府がめくらめっぽうに推し進めた「天安艦外交」が様々な障壁にぶち当たり、国連安保理の舞台をはじめいたるところでほころびを見せ、もはや「敗北」寸前にまで行き着いていることに対する責任転嫁であり、腹癒せに参与連帯をターゲットにしたということです。中央日報が参与連帯は同じeメールを北朝鮮にも送ったとでっち上げ記事を書いたのもその現れです。この記事は当局のリークによるものですが、参与連帯の行動を北と結びつけ「国家保安法違反」容疑で痛めつけようとしている事が直ちにわかります。


参与連帯は「参与連帯は国連特別協議資格のある団体である。経済社会理事会や人権理事会には書面の意見書を提出する事ができる。ただ安保理にはそうしたものが無く、声明書や報道資料、を送るようにeメールで送った」とし、それを当局がわざと膨らまして保守言論にリークしたのではないかと疑いを隠していません。また、「国連は参与連帯などNGOをパートナーと認めており、国連部隊でNGOが自国政府の政策を批判するのはあまりにも当然の慣行」だと反発しています。当然の主張でしょう。


そして李明博政権がNGOなどのこうした動きに必要以上に神経を尖らせているのはほかでもなく国連安保理を通じて「北の犯行」だと決め付け北朝鮮の首をいっきに絞めようとした企てがほとんど失敗を免れそうも無いという危機意識のためのようです。


事実、国連安保理の動きは決して李政権を安心させるようなものではありません。安保理は14日、全理事国が参加した非公開ブリーフィングに韓国だけではなく北朝鮮の国連駐在代表部のブリーフィングも聞きました。韓国の一方的な主張をごり押ししようと企てた「秘蔵のカード」がその意味をなくした瞬間でした。それは国連を舞台にした外交戦の第1ラウンドでの李明博政権の敗北を意味します。


そして安保理議長は「安保理は関連国がこの地域で緊張を高潮させるようないかなる行動もとらないことを強く要請し、朝鮮半島の平和と安全を保護することを訴える」「安保理の次元でいかに対処していくかについては決定が出ていないし、安保理は引き続きこの事件を論議していくであろう」との記者会見文を発表しました。


これを伝えたロイター通信は「この慎重な発言は誰がこの事件に責任があるのかを問うたものではなかった」と指摘しています。つまり安保理で「北の責任」を明らかにしようと言う韓国の企てが失敗したということです。さらに言うならば事実上、韓国に対し追加措置を取らないことを要請したのと同じです。「北は何も説明できず…安保理」と題した【ニューヨーク=吉形祐司】発6月15日12時10分読売新聞の記事は、ここまで読めていません。記事に「双方の主張について、日本の高須幸雄大使は『結果は明白。韓国側はすべての質問に120%答え、説得力があった。北朝鮮は、何も説明できなかった』と指摘した。」と書かれているのを見ると、記者は高須大使の言葉を丸呑みした形で事態を「把握」したのでしょう。ロイターの記者とは次元が違うようです。


ところで安保理での協議はどうやら米韓両政権(プラス日本)の思惑通りには行きそうもなさそうです。まず常任理事国である中ロが「北の犯行」説に懐疑的であり、非公式にはそれを否定しています。そのため決議はむろん拘束力の無い議長声明すらも北朝鮮を特定して「糾弾」あるいは「非難」する内容になりそうにもありません。


李明博政権は当初目標とした「制裁決議」から「一般決議」、「議長声明」へと、その要求を下げてきましたが、それが韓国の国連外交がじわじわと追い詰められてきテイルことを示していました。ところがいまや議長声明どころか、「言論声明」レベルで終わりそうな気配さえ見え始めています。仮にそうなればそれこそ「外交的敗北」だとのそしりを免れないでしょう。


それよりもへたをすれば国際的に「共同調査の必要性」が公論化する可能性さえ囁かれています。この問題と関連して中国は既に南北米中の4カ国による共同調査について提案しているという話もあります。それは中国が「信頼できる調査結果」を導き出すために事実上「再調査」が必要だと言っているようなもので、李明博政権やアメリカとしては受け入れられない要求だといえます。


また北朝鮮は「国防委員会検閲団」を受け入れるよう要求しています。14日の安保理ブリーフィングでも再度要求しました。調査団とは言わず、「検閲団」といっていることに注目する必要がありそうです。言葉の意味の通りであれば合同調査団による調査を「検閲」するということになります。つまりでっちあげを追及し、暴露するということです。北朝鮮はさらに、国防委員会の検閲団の調査結果の確認が、安保理での討議に選考すべきだと主張しています。


問題はこうした共同調査を要求する声が日ごとに高まっていく可能性があるということです。ロシアのセルゲイ・イワノフ副首相が15日、イタール・タス通信記者とのインタビューで「ロシアは北の犯行だとは考えていない」と発言し、中国はいまだに「一次資料が無い」として調査結果に強い疑義をはさんでいる状況下で、国際社会が納得できる調査が行われなければならにと言う至極当然の要求でしょう。


もちろん李明博政権としてはこのような共同調査団による再調査を受け入れることは出来ないでしょう。それは現在の対北強硬策の正当性を正面から否定する結果をもたらし、ひいてはそれがレーム・ダック化の始まりになるやも知れないからです。こうして今李明博政権は進退窮まった状況下に置かれているようです。