「天安」号沈没、迷宮入りか? | 朝鮮問題深掘りすると?

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初老の徳さんが考える朝鮮半島関係報道の歪み、評論家、報道人の勉強不足を叱咤し、ステレオタイプを斬る。

沈んだ哨戒艦「天安」の船尾が沈没から20日目の15日に、ついに姿を現しました。韓国の報道などによると切断面は右側下段から左側上段に向けてジグザグになっており、どうやら外部衝撃説の疑いが一段と濃くなったようです。しかし、外部衝撃による切断説では解けない重要な謎が未だに残っており、事件はいよいよ迷宮入りしそうです。


これまで外部衝撃による沈没説のなかでもっとも有力な説とされてきたのは大きく分けて機雷、魚雷による攻撃説ですが、これを立証する証言が皆無です。


生存者らの証言を見ると爆発による水柱を見たものがおらず(監視勤務中の兵士までも)、爆発による火柱や線光を見たものもおらず、爆発後の火薬の匂いを感じたものもおらず、水中での強力な爆発の際に当然無数に現れる海洋生物の死体がまったくありませんでした。さらに生存者の負傷が極めて軽微でやけどを負った兵士が一人もいませんでした。


予備役海軍准将(前提督)のソ・サンゴン氏はTVに映し出された切断面を見て、「外部の鉄板ではなく、内部の機関や装置が飛び出しているようだ。魚雷や機雷の場合であれば穴が開き、鉄板がよれていなければならない」と語っています。


魚雷による攻撃説は、当然「北の攻撃」を仮定しているのですが、やはり様々な矛盾が生まれています。まず、衝撃が右側(右舷)から左舷の上に向かっているので魚雷は右舷に命中し爆発したことになりますが、それは当初海軍が想定したものとは逆でした。当初海軍は「天安」の進出コースから見て魚雷攻撃があったとしたら西側外洋からの攻撃だとしか考えられず、したがって左舷が攻撃されたと想定していました。なぜなら右舷を攻撃するためには水深が6~10メートルと小型潜水艦も行動を取れない領域を通らねばならないからです。しかし爆発は右舷で起きたと言うわけです。


さらに「天安」は対潜哨戒艦であり、高性能のソナーやレーダーを持っているのに、なぜ魚雷を探知できなかったのかと言う疑問もあります。魚雷の音は100%ソナーで捉えられるというのにです。生存者らも記者会見で、「特別な状況は感知されなかった」と魚雷攻撃の兆候はなかったことを証言しています。またソ前提督に依れば西海は水深が浅く、暗礁の危険もあり、漁民たちが仕掛けた魚網が多く、領海を良く知る韓国海軍でなければ作戦を展開することは出来ない」と指摘しています。


仮に北の半潜水艦による攻撃だと仮定しても、半潜水艦に装填されている魚雷の弾頭は45キロ程度の軽魚雷であり、「天安」を二つに割るような威力はありません。また保守言論はサンオ級(350t)潜水艦の重魚雷による攻撃について書きなぐっていますが、水深の浅い西海の、韓国の統制海域にサンオ級の潜水艦が侵入するのを防ぐために設置した網をどう潜り、「天安」に接近できたのかを説明することができません。


機雷説も根強く主張されています。この場合もっとも有力視されているのは1979年に当時の朴正熙大統領の指示によって、アメリカ製の爆雷を改造した機雷136個をこの地域に撒いたのを、10年後に約10%を回収しただけで、残りの100余個は事故海域の周辺に流失したままだと言う点です。しかし30年たっても爆発せず、反応力も激減している道伝線(電気線を起爆剤として利用)旧式の機雷が、説明の出来ない電気的作用を引き起こし、今になって突然爆発する可能性はきわめて低いと言われています。


つまり外部爆発による切断と言う仮定が成り立つには程遠い状態だということです。
したがってこれを「北の攻撃説」と結びつけるのはまさに言いがかりとしか言いようがありません。ところが朝鮮日報を筆頭に韓国の反北守旧言論は事実上、「北の攻撃」へと状況を誘導しています。しかしこれに対し青瓦台の安保分野に勤務していた高位公務員のA氏は「北の仕業だという主張はエイリアンがUHOに乗って攻撃していったという類の可能性のない話だ」と釘を刺しています(「プレシアン」15日)。A氏は守旧言論の論調が空想漫画となんらかわら無いと言っているのです。


韓国政府も李明博大統領も「北の仕業」だとは思っていないようです。若しそう思っていたとしたら、あの危険極まりないペクリョン島に出向くはずはなく、ましてや次期核安保サミットを韓国に誘致するなどと国際会議の場で言明するなどありえない話です。もし「北の仕業による事故」だということを「知りつつ」そのような発言をしたとしたら、米韓共に深刻な安保不感症に陥っていることになります。


これまでのことを整理しますと、外部爆発による沈没説が有力視されてはいるが、「北の仕業」とはとても思えないということですが、そうだとすればいよいよ状況は永久に迷宮入りとなる可能性が濃くなってきます。


もちろん以上の仮定からは抜けているもう一つの仮定があります。それは当時、米韓合同演習が事故海域一帯で秘密裏に行われていたことと関連します。「天安」の異常な機動はこの演習と関連しており、事故地域とは離れた別の場所で、別の捜索が行われ海底で発見された何かが、そのまま何処かに持ち去られたという事実から生まれる仮定です。


救助隊員が死亡していますが、この隊員が作業したのは「天安」の船尾の捜索ではなく、まさにこの別の海域での別の沈殿物を捜索し、引き上げる作業だった事が確認されています。つまり、公表され図人々の記憶からは既にかき消されてしまったまったく別の作業が同時に行われたということです。そしてこの別の作業が行われたのは、どうやら破壊された米軍の潜水艦から何かを持ち出す作業だったという情報もあります。


そしてさらに爆発は2度起きたという点とあわせると、もう一つの仮定が生まれるというわけです。それは「天安」の爆発は、合同演習に参加中の米潜水艦との接触「事故」あるいは「攻撃」(つまり実弾演習用のターゲットにされた)を受けたもので、米韓合同演習を監視するために派遣された北の潜水艦が、この米潜水艦と鉢合わせになり、これを攻撃して破壊したと言う仮定です。


しかしこの仮定は「天安」の爆発時間ともう一つの爆発音をキャッチした時間のずれと、「天安」と「事故」をおこしたかまたは「攻撃」した米潜水艦の移動時間が一致しなければならないと言うもう一つの問題を生みます。


こうして何一つ合理的説明が出来ない多くの仮定が生まれては迷宮に近づいているというわけです。ただ一つはっきりしているのは、韓国の反北守旧言論はこの事件を必死に北と結び付けようとしており、軍は秘密主義に走りシビリアン・コントロールは名ばかりであり、政府は態度をはっきりさせないまま、反北感情を煽る守旧言論の痴態を見て見ぬ振りしているということです。


鍵は「天安」の交信記録の公開と、異常な機動の原因究明にありそうです。しかし軍は「軍事機密」を盾にこれを公開するのを拒否しています。もちろん米軍には差し出すでしょうが、米軍もそうした動きを見せてはいません。しかし李明博大統領であれば軍に命令して、全ての情報を公開させる事ができます。そうすべきではないのでしょうか。事件の衝撃度、軍に対する国民の信頼の危機、シビリアン・コントロールの視点からしてその義務が大統領にはあると思うのですが。


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