産経 黒田記者の勝手な決めつけ | 朝鮮問題深掘りすると?

朝鮮問題深掘りすると?

初老の徳さんが考える朝鮮半島関係報道の歪み、評論家、報道人の勉強不足を叱咤し、ステレオタイプを斬る。

2.9・21:13のMSN産経が北朝鮮を悪く書かないと我慢できない北朝鮮嫌悪症候群に固まっていると思われる、北朝鮮情報歪曲の大家と言われている例の黒田勝弘記者の記事を乗せています。表題にこうあります。「北朝鮮に宗教の自由?韓国系米国青年釈放で虚偽宣伝」


これを呼んだときある記事が脳裏に浮かびました。韓国の民主勢力が出しているネット新聞の「自主民報」(02.09 ・01:36)に載った「中国市民」のIDを持つ、中国在住の朝鮮族の方が書いたもので、表題はこうです。「ロバート・パクを変節者と罵りはしないか」


何故この記事が脳裏に浮かんだのかというと、「中国市民」がすでに黒田記者が書いたような類の記事が出るだろうと予想していたからです。もっとも彼はロバート・パクを「変節者」と攻撃する記事が出るだろうと予測していたのに対し、黒田記者は北朝鮮がロバート・パクを宣伝のために利用したと書いています。攻撃の対象についての予想は違っていたわけですが、いずれにせよロバート・パクの「自供」を面白くないと思っている輩からの「攻撃」があるだろうという予想は当たったわけです。


このロバート・パクは北朝鮮に不法侵入して捕らえられ、尋問を受けた後に反省していることが認められて本国に帰国させられたのですが、その前に記者会見をし、自分が何故北朝鮮に不法侵入したのか、北朝鮮に来て何を経験したを伝えながら、北朝鮮に対する歪曲された報道や情報を信じた自分が「ばかだった」と反省をしていることを訴えたのです。


そして北朝鮮当局が彼の反省を受け入れて帰国を許したわけですが、黒田記者は彼が帰国した後に「真相」について暴露し、自分の記者会見が「ヤラセ」であったことを「暴露」してくれるのを「期待」でもしていたようです。


だが、ロバート・パクは未だにその動きを見せない。そこでパク氏を攻撃するには「反撃」を覚悟する必要があり、北朝鮮を攻撃しても「反撃」を受けることは無いと踏んだのでしょうか、攻撃の矛先をロバート・パクではなく北朝鮮に向けたということではないでしょうか。


それにしても黒田記者の「攻撃」は「めくら撃ち」だったようです。


彼はこう書きました「北朝鮮が(彼を使い)「『わが国でが宗教の自由が完全に保障されている』と大々的な虚偽宣伝を展開している。パク氏がキリスト教系の対北人権活動家だったことから、米国など国際世論への宣伝のため逆にパク氏を利用したものだ」


だが、この記事には致命的な欠点があります。

第一に仮に黒田記者の言うとおりだったとしたら「自由の国」に帰った彼が、何故黒田記者の言っているようなことを一言も言っていないのかという反論に対して説明できません。今やパク氏は何でも言えるわけですから、黒田氏の言っていることが本当だとしたら、なぜ米国のメディアに訴えないのでしょう。


ソウルが好きでたまらず一歩もソウルから出たくない黒田氏はアメリカにいけないとしても、長い記者歴の持ち主ですからアメリカの友人も多いだろうし、彼らを通じて取材をしてもらうことも、自分が直接電話取材をすることも出来るはずですが、なぜそうしなかったのでしょうか。


第二に、北朝鮮が「わが国では宗教の自由が完全に保障されている」と主張することが「大々的な虚偽宣伝」だと言い切っていることです。


北朝鮮に宗教の自由があることは韓国の宗教家らも認めていることです。来月には韓国から4000人ほどの僧侶が北朝鮮を訪問する予定なのではっきりするでしょう。もっとも韓国の僧侶らは以前から北朝鮮を訪問していますが、北朝鮮には宗教の自由がないと言った僧侶がいたという話は聞いたことがありません。それとも黒田記者はキリスト教以外は宗教ではないとでも言いたいのでしょうか。


第三に、ロバート・パク氏を「対北人権活動家だった」と呼ぶのも片手落ちのようです。むろんパク氏が北朝鮮の「人権」状況を憂慮していたことは認めますが、それは彼の宗教家としての良心がたまたま北朝鮮に向いたことであって、「北朝鮮人権活動家」として、それ一本で宗教活動をしていたわけではないことは、彼の記者会見の内容を見ても分かるはずです。


第四に、パク氏は記者会見で次のように発言していますが、黒田記者はその発言が虚偽の発言でもあるかのように理解しているようです。そうでないと「北朝鮮が大々的な虚偽宣伝している」ことにはなりません。


「平壌市の鳳水教会での礼拝儀式に参加してみると伝道師も牧師もいた。合唱団もいたが、彼らは賛美歌を知っていた。各地で伝道が行われ、信徒が聖書を読んでいることを知って驚いた」
「私は(北朝鮮で)人々が望むすべてのものを、いつ、どこでも、読み、信じることができ、完全な宗教の自由が保証されていることを知るにいたった」


ですが、パク氏はアメリカに帰ってから未だにその発言について「強要された」あるいは「強制された」とは言っていません。それを言って逮捕されることもなく、返って産経新聞のようにそれを歓迎するマスメディアの方が圧倒的に多いので、懐も暖かくなるはずなのにです。


第五に、黒田記者は北朝鮮に宗教の自由がないと決め付けているわけですが、まったく根拠がありません。

パク氏は平壌のポンス教会を訪れ、キリスト者らと共に礼拝したと言うのに、「グッド・フレンズ」などあたかも北朝鮮の内部で何が起きているかについて知らないことがないがごとく騒ぎ立てている、「北朝鮮人道支援」をうたい文句にする反北「人権団体」が、事前にそれが「ヤラセ」であったことをキャッチできず、それを「暴露」することも出来ないでいるのに、なぜ黒田記者は入ったこともない教会で起きている「宣伝用の芝居」のことを「知って」いるのでしょうか。それとも勝手にそう思い込んでいるだけで、その思い込みだけで決め付け、「宗教の自由は無い」「北朝鮮の宣伝だ」と書いたのでしょうか。だとしたら記者と言うよりも「少し足りない謀略家」と呼ぶ人が出てくるかもしれません。


第六に、北朝鮮にいる間は良いことばかり言いながら、帰ってからは豹変してつばを吐くように悪態雑言を吹きまくる醜物が少なくないので(特に日本には多いようですが)、パク氏が今後、どう変身するかは分かりません。


しかし仮に彼がそうしたとしても北朝鮮もそういうことがありうることを想定して、彼の文書や写真、ビデオなどを記録しているでしょうからいつであれ、必要な反証資料を出すことが出来ると思います。もちろん黒田記者にとっては自分に害が及ぶ危険性はほとんど無いので、そこまで考えて記事を書いてはいないでしょう。


しかしパク氏が「秘密の国の子どもたち」や「ソウル行き列車」など、北朝鮮を最大限醜く描いた映画やビデオ、出版報道物に接して、宗教的良心に基づいて北朝鮮に行くべきだと思い、命を懸けて不法入国したと語っていることを忘れてはならないでしょう。


もしかしたらパク氏は(管理人の勝手な憶測ですが)、産経新聞や読売新聞をはじめとする日本のマスメディアにも接して、その影響を受けたかもしれません。無責任な憶測記事や報道、当たれば嘘でも何でも構わない、視聴率を上げるためにもっとショッキングな映像を求める腐ったマスメディアが、善良で真面目な人々を窮地に陥れることがあるという教訓を得て欲しいものです。