もはや「特恵」は与えぬと北朝鮮 | 朝鮮問題深掘りすると?

朝鮮問題深掘りすると?

初老の徳さんが考える朝鮮半島関係報道の歪み、評論家、報道人の勉強不足を叱咤し、ステレオタイプを斬る。

去る11日に開城工業団地と関連した南北実務会談が行われた。当ブログではすでに一度この問題を扱い、この措置が本質的に政治的問題であることについて指摘した。(http://ameblo.jp/khbong/entry-10261743438.html )今回の会談で、北朝鮮側の主張が再度明らかにされたが、日本の報道では問題の本質が良くつかめないので、少し遅れても再度書いたほうが良いと判断した。


開城工業団地は昨年北朝鮮側の12.1封鎖措置で、現在はほとんど休業状態となっているが、その後、ブログで紹介したように北朝鮮側が土地賃貸料、労働者の賃金などの値上げを通達したことによって、今では存続自体が危うくなっている。今回の実務者会談は、この状態を新たな合意によって克服しようというものだ。


北朝鮮側は、11日の協議で、労働者の賃金を現在の役72ドルからいっきに300ドルに、毎年のベースアップを現在の5%から10~20%に引き上げることを主張。土地賃貸料は開城工団第1段階100万平米を50年間使用する条件として1600万ドルを支払うことになっていたものを5億ドルに引き上げ、2014年から支払うことになっていた土地使用料も2010から坪当たり5~10ドル支払うことを要求している。


これまでの金額や、中国、ベトナムなどと比べるといかにも唐突な要求のように見える。中国の大企業労働者の中には300ドル水準の賃金もないことはないが、中小企業を見ると上海地域が190ドル、東北三省で120ドル、ベトナムのサイゴン地域は88ドルで北朝鮮の要求する300ドルは行き過ぎの感がしないでもない。
だが、開城工団の長点が賃金競争力だけではないことを思えば、労働者の賃金だけを単純に比較するのは無理がある。言語の共通性、北側労働者が高学歴で良質の労働力だという側面、これによる労働生産性の急速な上昇、立地条件からくる中国に比べ半分に近い物流費などの長点が考慮されなければなるまい。
これらの長点を考えると、北側の提案した額があまりにも現状とかけ離れているという単なる比較から、労働者の賃金がいくらでなければならないといった主張は一面的である。労働者の賃金は、開城工団の長点、競争力全般を正しく反映する視点で論議されなければなるまい。


南側の意見は「120~150ドルなら受容可能、150~200ドルなら協議、200ドル以上なら拒否」ということのようだが、200ドルまでなら協議してもよいという基準から見ても、これまでの月72ドルというのは低すぎたと言うべきか。
日本のマスコミなどは北朝鮮の要求は「無理難題」と切り捨てているが、協議に臨んだ韓国側当事者は、土地使用料の場合、「(北側が)外国の多くの事例などを参考にしたようだ」「(賃金引上げでは)労働者の生産性やその他、様々な点を外国などと比較した場合、その程度になるだろう、として提示したものだ」と冷静に受け取めている。
また北朝鮮中央通信は、今回の協議に関する報道で、「他国と南側経済特区の場合を十分に参考し、特に開城工業地区が持つ政治、経済、軍事的特殊性を十分に考慮したものだと指摘しながら、開城工業地区によって政治、経済、軍事的にもっとも大きな恩恵を受けているのは南側当局だと言うことができる」と言及している。

http://korea-np.co.jp/news/ViewArticle.aspx?ArticleID=37257


実際6月7日付け「韓国経済新聞」によると、「北朝鮮は去る4月21日の第1次接触後、内閣の経済関連パーツである貿易省、軽工業省などの幹部で構成された調査チームを、中国北京一帯の主要工業団地に派遣して1ヵ月にわたって調査し、これに基づいて開城工団の賃金などの修正、補強作業を終えた」と伝えている。
これらの事実は北朝鮮の提案が、日本などで報道されたような単純な政治的攻勢、開城工団を廃止するための政治的術数と言うよりも、まったく別な理由からであったことを示している。


その理由とは、北朝鮮が一貫して主張している開城工団は6.15南北共同宣言の嫡子だということである。つまり、かつては「6.15」に基づいて、南北関係が国と国との関係ではなく、「統一に向かう特殊な関係」であることを互いに認めた上で、開城工団に特恵を適用してきたが、李明博政権が「6.15」を否定し、見境なく敵対的言動をとっていることから、もはやそのような特恵を与える理由もなく、従って外国企業との通常の関係として見るということなのだ。開城工団は「特区」ではなくなるということなのだ。
開城工団を支えてきた根源的力は6.15にあった。それを忘却した南側の敵対的行為が、今の状態をもたらしたのである。ここに同問題の政治的根源があるのだ。


 次回協議は7月2日に予定されている。だが、最近の李明博大統領の言動は、この問題にも暗い影を投げつけている。
会談で北側は、「南側が民族の念願と志向に逆らい事態をいっそう悪化させることをすべきではない」と指摘しているが、それが米韓首脳会議で「北は戦争の未練を捨てていない」といった発言、「拡張抑止」概念の採用、「拡散防止構想」などをめぐる李明博大統領の言動を念頭においているのは間違いあるまい。これが今後の協議に暗礁となる可能性は十分にある。