懸念される安保理決議、ノ大統領国民葬 | 朝鮮問題深掘りすると?

朝鮮問題深掘りすると?

初老の徳さんが考える朝鮮半島関係報道の歪み、評論家、報道人の勉強不足を叱咤し、ステレオタイプを斬る。

朝鮮半島の今後を見る上で避けて通れない二つの動きが同時進行している。そこで今日はその二つのことに関するニュースについて書くことにする。


一つは自殺した韓国の盧武鉉前大統領の国民葬の話だ。

読売オンラインでは国民葬が行われたという事実報道に終わっていた。MSN産経(5.29 13:35)は「国民葬会場、景福宮近くにあるソウル市庁舎前広場では、29日朝から、前大統領を見送ろうとする警察推計で約11万5000人の市民が集まった。」としている。共同の配信であったが、共同の記事は次のようになっている。「韓国の盧武鉉前大統領の国民葬が29日午前、ソウル中心部にある朝鮮王朝時代の王宮、景福宮で行われた。李明博大統領や政府高官、各界代表、外交使節ら計3000人近くが参列。警察が厳戒態勢を敷く中、会場に近いソウル市庁舎前の広場周辺には約11万5000人(警察推計)が集まり、前大統領を追悼した。」(05/29 13:09)。

違いがお分かりであろうか。共同の記事は国民葬と、それとは違って市民たちが独自に行っているノジョン(ノジェ=遣奠祭=出棺の日に門前で行う祭式)を区別して、国民葬には3000人近くが、市民らによるノジェには11万5000人が参加した(警察発表、市民側発表は50万人)と比較的正確に伝えているが、MSN産経の記事では国民葬会場とソウル市庁前の広場で行われたノジェを一緒にして報道している。つまり事実を間違って伝えているのだ。ノジェに集まった市民の行動と政府関与の国民葬が緊張関係にあるという事実を避けて報道したのである。


MSN産経の報道では、ノ前大統領の死に対する政府と、市民らの受け取り方が正反対であり、ノ前大統領を死に追いやった政府と検察に対する市民の怒りが、いつ爆発するか知れないという韓国の今の緊張度が、まったく見て取れない内容である。実際には、市民の怒りは収まっておらず、ノジェが終わった後も、ソウル市庁前の広場には、再び警察によって封鎖されることを警戒した市民ら数万人が、シットインしている状況だと伝えられている。

韓国のインターネット新聞などによると、ノジェに参加した市民のほとんどが、これからが「本番」だと感じていると伝えているが、実際にその兆候は現れている。ソウル市庁前広場が警察によって封鎖されるのを警戒した、市民の動きなどはそうした兆候の一つとしてあげられるであろう。6月は1987年に全斗煥軍部独裁政権を倒した人民抗争が起きており、労働運動の月でもある。韓国国内の緊張度はいっそう高まるであろう。李明博大統領の名前の音(イ・ミョンバク)と同じだということで、頭は2MB(メガバイト)だと呼ばれる今の政権が、一歩対応を間違えると予想も出来ない結果をもたらす恐れもある。もっとも日本の報道ではそうした緊張は、まったく伝わってこないが。

何も知らされないまま、大変な変動が起きて慌てふためくというのが、日本のお決まりの姿だが、またしてもそうなりかねない状況が生まれているのだ。用心して悪いことはないであろう。


二つめは安保理と北朝鮮の動きだ。当ブログでも「制裁」はいっそう北朝鮮を刺激し、いっそう強硬に出てくるであろうと警告してきたつもりだが、残念ながら事態は心配した方向に動いているようだ。


報道によれば日米両国は27日、北朝鮮の核実験を受け、北朝鮮船舶の貨物検査の義務化や金融制裁などを盛り込んだ国連安全保障理事会の制裁決議草案をまとめ、英仏露中韓の5か国に配布した。
 外交筋によると、草案は2006年の核実験後に採択された制裁決議1718を強化する内容で、米国案を基に日本やフランス、中国、ロシアなどの提案も反映させている。7か国は草案を基に、28日に改めて大使級会合を開く方針。
 草案には、米国案にある〈1〉北朝鮮への武器全面禁輸〈2〉貨物検査の義務化〈3〉貨物検査の実施状況の報告〈4〉北朝鮮との銀行取引禁止〈5〉人道目的を除く対北朝鮮融資、無償援助の禁止――に加え、日仏が提案した資産凍結や渡航禁止の対象となる北朝鮮の団体・個人の指定が盛り込まれている。さらに貨物検査の際の武器使用も含まれているという。


他方、朝鮮中央通信によると北朝鮮外務省代弁人は29日、談話を発表し、「国連安全保障理事会の敵対行為は停戦協定の破棄になる」と主張した。
談話は「今回わが国が行った核実験は、地球上で2054回目の核実験である」とし「全核実験の99.99%を国連安全保障理事会の5常任理事国が行った」と指摘した。また「国連安全保障理事会が宇宙条約を乱暴に違反し、主権国家の自主権を侵害した厳重な罪状に対して謝罪し、不当に作られたあらゆる決定と決議を撤回することを厳粛に要求した。この要求は依然として有効である」としながら、「国連安全保障理事会がわれわれの正当な要求に応じない限り、今後も理事会の決議と決定などをを認めることはない」と強調している。
談話は最後に「国連安全保障理事会が、これ以上の挑発を加えてきた場合、それに対応するための更なる自衛的措置が不可避になる」としながら「国連安全保障理事会がでっち上げた国連軍司令部が、まさに朝鮮停戦協定を締約した一方である。国連安全保障理事会の敵対行為は停戦協定の破棄となる」と主張した。


「自衛的措置」の具体的中身には言及していないが、核実験を強行した北朝鮮への新たな決議を安保理が採択すれば、新たな対抗手段を取ると宣言した形だ。その対抗手段がどのような形で現れるか、はっきりとしないが「国連安全保障理事会の敵対行為は停戦協定の破棄となる」との言及が全てを物語っているといえよう。

つまり朝鮮戦争再開の状態になるということだ。したがってICBM発射、再度の核実験の実施、臨戦態勢への突入、「臨検」(貨物検査)強行の際の武力による対抗などが、なんの制約も受けることなく実施されると言うことだと考えられる。アメリカが提案し、安保理決議の草案として出された案は、PSIでいう「臨検」と同じものであり、従ってこれに対する北朝鮮の対応も同じレベルのものになろう。


問題はその度数だが、それを検討するさいに、次の記事は参考になろう。
29日付け労働新聞に掲載された「葬送曲を呼ぶ無謀な『敵基地攻撃』論」との署名論説で、直接には日本政府の敵対的言動に対する警告であるが、そのトーンから安保理「制裁」に対する、北朝鮮の反発の程度を推し量ることも不可能ではあるまい。そこで論説の内容を紹介することにする。
論説は「日帝の過去の罪状とすぐる朝鮮戦争に加担して日本反動が犯した犯罪行為、そして戦後執拗に実施してきた反共和国敵対視政策に対する対価を必ず受け取るというのは、わが人民の確固不動の決心であり意志である」
「わが軍隊と人民は、百年の宿敵である日本に対する、積もりに積もった恨みを抱いている。理性を失った間の抜けた日本の反動らは、自分を知らずに騒いでいる。」「日本は島国だ。日本の領土は4つの離れた島で構成されている。その長さは実に数千キロに達する。日本の領土は狭小で縦心が深くない。日本が再侵略戦争を挑発するならば、縦心が深くない日本の全領土が報復打撃圏から逃れることが出来ない。
…今日の戦争は過去とは違う。現代戦では最先端科学技術が導入された打撃力が強く打撃距離の長い戦争手段が多く利用される。現代戦は立体戦であり、前線と後方の区別が無い。日本の再侵略に対応した強力な反撃が加えられたときには、日本の地は修羅場になるであろう。」と書いている。


安保理決議の草案には、日本の意思が深く刻み込まれているようだが、貨物検査のようなことに日本が参加でもしたら、間違いなく北朝鮮の報復があろう。「渡航禁止の対象となる北朝鮮の団体・個人の指定が盛り込まれている」というのも重大だ。日本には北朝の海外公民団体を自称している朝鮮総連があり、多くの北朝鮮籍の在日コリアンがいる。この人々は両親や兄弟、親戚などとの再開を求めて、北朝鮮に渡航している。朝鮮総連の活動に制約を加えたり、在日コリアンの北朝鮮訪問を規制するようなことがあれば、人道的見地からの問題が生じよう。


もっとも草案がそのまま通ることは、まず無いと思ってはいる。実際、未だに中国は口を堅く閉ざしたままであり、安保理がどのように動くかはまだ定かではない。が、予断を許さない状況であることは確かだ。

それにしても安保理決議案の草案は、極めて危険な内容だ。それは一触即発の戦争の危険を醸し出す。そうなった場合、日本は間違いなくそれに巻き込まれよう。国民の意思とはまったく関係なくである。

北朝鮮は一昨日、韓国のPSI全面参加公式発表と関連して、もはや停戦協定は存在しないと警告している。今回の外務省代弁人の談話も流れは同じだ。つまり、最初の一発が撃たれた時点で、朝鮮戦争が再発するのである。それは北朝鮮を一方とし、米・韓を他方とした全面戦争であるが、日米安保条約下の日本も、否応なく巻き込まれることになる。そうした情勢の下で、草案のような安保理「制裁」となれば、北朝鮮はそれをアメリカがイラクのように、自国を武力で侵略するための、宣戦布告だとみなす可能性は十分にある。まして国連は停戦協定の当事者であり、したがって北朝鮮の対戦相手でもある。


問題は、アメリカの一方的な北朝鮮敵視政策が安保理の名で、合法化され実行されているということだ。衛星発射にしろ、核実験にしろなぜアメリカや大国は例外とされ、その責任を追及されないのか。なぜアメリカのダブルスタンダードが安保理でも採用されるのか、なぜ安保理はイスラエルを制裁しようとはせず、インドやパキスタンを制裁しようとはしないのか。北朝鮮の怒りは、安保理のこうした偏向した姿勢に起因しているとも言えよう。外務相代弁人の談話が、「全核実験の99.99%を国連安全保障理事会の5常任理事国が行った」と指摘しているのもその表れであろう。


北朝鮮の核実験はもはや対話では、アメリカとの問題を解決することができないと、判断したということを示したものだ。実際オバマ政権は、そうでは無いということを示すことが出来なかった。北朝鮮が打ち上げたのが衛星であったことを知りながら、それを認めようとしなかったのは最大の間違いであった。核実験再開の発端はここにある。それを認めず「制裁」を求めるのであるから、北朝鮮が黙っているわけが無い。ボタンはアメリカがかけ違いをしたにも拘らず、安保理がその結果責任を、北朝鮮に取らせようとしたことが問題なのである。


いずれにしても朝鮮半島を漂う暗雲はいっそう濃くなっている。そしてアメリカだけでなく、日本に対する北朝鮮国民の恨み、怒りは頂点に達している。それを忘れてはなるまい。日本政府も自身のおかれた立場をわきまえる必要があるのではないか。拉致問題で北朝鮮の風上に立てたかのような錯覚から早く冷めて、互いの敵対感情をどうすれば解消していけるのかを考えるべきではないだろうか。