緊張高まる朝鮮半島、煽る日本 | 朝鮮問題深掘りすると?

朝鮮問題深掘りすると?

初老の徳さんが考える朝鮮半島関係報道の歪み、評論家、報道人の勉強不足を叱咤し、ステレオタイプを斬る。

報道によれば、北朝鮮の首都平壌で26日、第二次核実験の成功を祝う平壌市市民大会が行われた。平壌体育館で行われた大会には、朝鮮労働党政治局委員候補の、チェ・テボク中央委員会書記が演説したが、そこでは核実験は「アメリカの核先制攻撃の威嚇と制裁圧力がいっそう強化される条件下で、共和国の最高利益を守り、国と民族の尊厳と自主権を守るための一大壮挙だ」と指摘している。核実験を行ったもっとも象徴的な理由を「国家の最高利益」、「国と民族の尊厳と自主権」を守るためだとしていることに注目したい。


他方、米議会が超党派で構成した米「戦略態勢委員会」が6日発表した最終報告書は、核廃絶に向けて「国際秩序の抜本的転換が必要」と強調したが、「世界規模の核兵器廃絶を可能にする環境は整っていない」と指摘。当面は「確実で信頼できる」核抑止力の維持が必要とし、戦略核の3本柱を温存する必要があるとした。また(1)効果的な「核の傘」の維持(2)ミサイル防衛(MD)体制の整備・強化が必要だとしている。
オバマ大統領はプラハ演説で、核兵器の廃絶を訴えたが、それが単なる個人的願望に過ぎず、アメリカとしてはオバマ大統領の言う核廃絶には、国際秩序の抜本的転換が必要であり、いまはまだそのための国際的環境が整ってなく、核抑止力は引き続き強化しなければならないといっているのだ。つまりアメリカ国家の意思は大統領の頭の中にあるのではなく、「核体制戦略報告書」にあるということなのだろう。オバマ大統領はこの報告書を受け入れるであろう。

オバマ大統領のプラハ演説に感激し、新しい時代が来たかのような錯覚に陥っている、どこかの国の政治家たちや、平和運動家たちも頭を冷やして冷静に見たほうが良いであろう。大事なのは大統領が何を言ったかではなく、国家の意思が何処にあり、実際にしていることは何かということである。

その意味でも、平壌市民大会でのチェ・テボク書記の発言は、核実験がそうしたアメリカという国の意思を十分心得たうえでのものであったことを示唆しているようでもある。


その点で韓国のPSI全面参加決定により、アメリカの意図に従った韓国が極めて危険な道に入り込んでいるということを強調しておきたい。

それは北朝鮮人民軍の板門店代表部が27日に発表した声明に明らかだ。北朝鮮は予想通り、韓国のPSI全面参加の決定を受けて、「朝鮮半島を戦争状態に追い詰めた」とし、西海岸での米・韓の軍艦および一般船舶の「安全を保障することは出来ない」との強硬な姿勢を見せた。

27日の朝鮮人民軍板門店代表部の声明は①、PSIへの全面参加決定をわが国に対する宣戦布告と見る。従って「わが「船舶に対する取締り、検索行為を含め、いかなる些細な敵対行為もわが共和国の自主権に対する許されざる侵害であり、即時的で強力な軍事的打撃で対応する」。②、アメリカの現政権が国際法どころか停戦協定自体を否定したばかりか、協定調印当事者としての責任も投げ捨て、韓国をPSIに引き入れた以上、わが軍もこれ以上停戦協定の拘束を受けないであろう。停戦協定が拘束力を失った以上、朝鮮半島は戦争状態に戻ることになり、わが武力はこれにより軍事的行動に移行することになる。③、当面して海上軍事境界線西北側領海にある南側5島(白翎島、テチョン島、ソチョン島、ヨンピョン島、牛島)の法的地位と、その周辺水域で行動する米国と韓国軍の軍艦、および一般船舶の安全航海は保障することができなくなるだろう。声明は 「アメリカと李明博政権が公正な国際法的要求と双方の合意を放棄した条件の下で、わが方だけがそれを履行するというのは話にもならない」と指摘している。


北朝鮮の主張は、韓国のPSI全面参加決定が、「交戦相手に対してはいかなる種類の封鎖も行えない」とした「朝鮮休戦協定の乱暴な蹂躙であり明白な否定」であるからに他ならない。実際に朝鮮休戦協定の第15条にはその旨が規定されている。


これから渡り蟹漁の季節に入るので、NLL(北方限界線)水域での衝突の可能性も否定できない。NLLとは国連軍(米軍)が韓国漁船の北方への立ち入りを禁止して一方的に設定した海上境界線で、停戦協定に依拠したものでは無く、法的根拠もまったく無い。北朝鮮はこれを認めてはおらず、韓国との協議で停戦ラインを海上に延長する形で、海上における停戦ラインの設定を提案し、その延長線上で2000年3月に、北朝鮮海軍司令部が韓国との間で、西海5島に対する韓国の管轄権を認め、南側地域からこの5島に行く海上交通路として2ルートを許すという暫定的な合意に達していた。

北朝鮮板門店代表部の声明は、具体的には2000年3月23日の合意を解消するということだ。さらに休戦協定で定めたこの5島の韓国管轄権も認められず、この5島に向かう国連軍(米軍)と韓国軍の船舶や一般船舶の通行も認めないということになる。
また北朝鮮の祖国平和統一委員会もこの日別の声明を出し、「戦時に相応した実際的行動措置で対応するであろう」とした。北朝鮮は一貫して韓国のPSI参加は「宣戦布告とみなす」と警告しており、今年3月にも同じ内容の警告を発していた。


国連安保理では北朝鮮が核実験を強行したことに対し、「制裁」措置を取る構えで協議が進められているが、北朝鮮が強い覚悟で臨んでいることもあって、時間が掛かるようだ。そんななかでまたもや日本の突出した行動が目立っている。

これと関連して見逃せないのが、いわゆる「敵地攻撃論」の大合唱が始まっていることだ。自民党ではもはや大勢になりつつあるが、こうした動きが朝鮮半島の危機的状況をいっそう煽り、逆に日本に対する国際的不信感を助長する結果をもたらすことになるという点を、忘れてはなるまい。


この問題については改めて書こうと思っているが、結論から言うと、日本政界のこうした動きは北朝鮮をいっそう刺激し、北朝鮮をいっそうの対日強硬策へと誘い、従って現在懸案問題となっている一切の要素が、断ち切られるということを覚悟してのことなのか疑問だ。日本の「敵地攻撃論」が北朝鮮を想定していることは、子供にもわかるほど鮮明であり、北朝鮮の核やミサイル問題への日本の対処や、衛星発射時の日本政府の狂乱的騒動が、何を目的としているかを如実に表しているだけに、それへの北朝鮮の対応も強硬なものになることを覚悟しなければなるまい。「敵地攻撃論」はそのまま「拉致問題放棄」につながると見るべきであろう。


今や日朝間には憎悪のスパイラルが生まれているようだ。このまま行き着くところまで行くのであろうか?北朝鮮は国家・国民ともにその覚悟を決めているようだが、果たして日本の政治家らにその覚悟はあるのか?冷静に考えて見る必要がありそうだ。