大国中心主義では見れない北朝鮮 | 朝鮮問題深掘りすると?

朝鮮問題深掘りすると?

初老の徳さんが考える朝鮮半島関係報道の歪み、評論家、報道人の勉強不足を叱咤し、ステレオタイプを斬る。

昨日、テレビ朝日(CS)の朝日ニューススター、「葉千栄のNIPPONNぶった切り」という時事討論番組を友人宅で見た。

安保理議長声明以後の北朝鮮、中国、アメリカの出方を、各国の主張を下敷きにして占うといった感じの番組だ。参加者は拓殖大學の森本教授、日本赤十字看護大の小池教授、大阪経済法科大の吉田客員教授、それにコリア研究所の朴斗鎮所長である。吉田氏を除く三氏の意見は、結局中国とアメリカがテーブルの下で握手し、中国のイニシャチブで南北朝鮮の管理→統一へと進むのが良いということだった。

やはり大国中心の考え方から抜け切れていないようだ。

例えば米中の合意による朝鮮半島の現状管理→統一(非核)という筋書きを聞いていると、1882年に大国意識を持った清国が自国の国際的地位を維持するために、アメリカと手を組んで朝米条約を結ばせ、結局のところ朝鮮が日本の植民地に陥る道筋を立てたときを思い起こさせる。

それにしても北朝鮮の意中を僅かながら掘り下げようとした吉田氏の話は、もう少し精錬し、補充する必要があるとは思うが、朴斗鎮などよりもより本筋に近かった。朴斗鎮の話は、知っているようで知らない中途半端な知識と本人の勝手な思い込みによるストーリー立てに終始しており、客観的な評価とはとても思えない内容だった。やはり学者ではないと言ったほうがいいようだ。それに比べて森元氏の発言には論理的、客観的であろうとする姿勢が見られた。もっとも出発が、つまり論理の依拠する最初の前提(大国中心主義)が危ういので、全体が危うさを免れていない。小池氏は北朝鮮問題を良くわかっていないようだった。それにしても葉氏の言動は相変わらず直線的で、ときたまうならせる鋭さが見られたりして、人を飽きさせない。とくに中国の考え方を知る上では、参考になる。

討論を聞いていて、腑に落ちないことが三つあった。一つは北朝鮮の意思や、韓国民衆の意思がまったく無視されているということであり、二つには日本の役目(あればの話だが)についてまったく言及が無かったということだ。そして三つめは中国の役割が過大評価されているように思えた点である。

対米関係でこれまでに北朝鮮が主張してきたことを具体的に分析して見ると、言っていることはただ一つのことであり、それが二つの枝に分かれている事がわかる。一つのことというのは、アメリカが北朝鮮の自主権を認め、対等の関係を結ぶべきだということであり、二つの枝の一つは国交樹立であり、もう一つの枝とは核による脅迫を止めよと言う事である。

ここで重要なことは国交の樹立と核武装の問題はつながってはいるが別個の問題だということである。簡単に言えば国交を樹立してもアメリカの核戦力が北朝鮮を対象にしている限り、つまり核による脅迫が続く限り、北朝鮮は核武力を放棄しないということであり、逆に言えばアメリカが核による脅迫を止めることを明確に約束し実行するならば、国交が無くとも北朝鮮は核武装はしないということである。したがって北朝鮮が核を平和利用に限定するかどうかという問題もこれにつながってくるし、ICBMの開発実験もこれにつながってくるということだ。

ところが「葉千栄のNIPPONNをぶった切る」ではここのところが、はっきりとしなかった。つまり、北朝鮮の意図する所がはっきりと掴めていないと言うことだ。意図がはっきりとつかめない以上、次の手を読むことも、対応策を探し出すのも難しいだろう。そのため、討論は想像力を頼りにした机上の話になっている。

しかも北朝鮮と米国の関係を歴史的に把握しているのかどうか極めて疑わしい。少なくとも北朝鮮は、自国が核武装を考えるようになった歴史的要因を何度と無く明らかにしている。そもそも歴史にその根を張った問題を解決するためには、すべからくその歴史的要因を清算しなければならない。それなしの解決とは一時目を瞑るという次元のものであり、根本的解決にはならず、したがって再発生の余地を残すことになる他ない。日本の朝鮮植民地支配の問題がまさにそれである。日韓条約で韓国に対しては解決したといってはいるが、根源の問題については頬かむりをしたままの「解決」だったので、今でも事あるごとに再発し両国政府を悩まし続けているのではないのか。日本の天皇が訪韓するたびに「謝罪」めいた言葉をはかなければならないのはなぜか。それは韓国民がしつこいからではなく、根源的問題を解決していないからであろう。

ところが、討論に参加した諸氏から、そのような発言は無かった。ましてや「コリア研究所」という看板を掲げている朴斗鎮の口からも出なかったのは、非常に残念だ。彼がどのような立場に立っているのか疑問が生まれる。同じ物を見ても見る角度や好み、見る目的などによって対象の何を見るのか違ってくるものだ。コップを見ても絵描きであれば形や色が大事であって、それが衛生的かどうかなどは二の次の問題だが、そのコップで水を飲もうとする者にとっては衛生的か、口にあてて怪我をしないかということが大事であって、色や形は二の次の問題なのだ。料理人が調理包丁を持って、何人ぐらい刺せるかなどと、包丁のよしあしを吟味することがありえない様に、北朝鮮の核開発やミサイル、あるいは宇宙ロケットなども同じなのである。

私の口から言うのも何だが、朴斗鎮の発言を聞いていると、分断国家の当事者でもある韓国人としての立ち位置が、完全に間違っているような気がしてならない。

朴斗鎮はまた、「北朝鮮はすでに3枚のカードを同時に切ってしまった。最近の北朝鮮の指導者は合理的判断が出来ないようだ」といった内容の発言もしているが、まったくわかっていないようだ。北朝鮮はカードを見せたのであって、切ったのではない。当ブログでも書いたが、これから状況に応じて、もっとも効果的な時期を選んで、アメリカや周辺諸国の動きを見極めながら、一枚ずつ切っていくのであって、三枚(それが全てとは思えないが)のカードを同時に見せたのは自信の表れだと見たほうが、より正解に近いであろう。それを見抜けない朴斗鎮の能力の限界が見えてくる。

討論では、仮にどのような状況が生まれた場合に、北朝鮮が第二次核実験を強行すると思うかについても話し合われた。結局、米国との交渉の結果によるという意見がほとんどだったが、その交渉の中身についての意見はとても希薄であった。吉田氏以外は、結局は「経済支援」の問題に行き着いているが、それは朝米交渉での北朝鮮の一貫した主張を見抜けないでいることの証拠である。討論者は、朝米交渉のその都度の内容は知ってはいるが、それは主にアメリカの発表(あるいはアメリカの見方)に基づいたものであり、北朝鮮の主張を正しく正確に捉えておらず、なおかつ北朝鮮の主張が首尾一貫しており、その主張が交渉の進展と進み方次第で形を変え、言葉を変えて表れているだけだということがわからないのである。

つまり交渉の一つ一つについてはそれなりに理解しているが、交渉の流れ全体を論理的に把握し、全過程を貫いている北朝鮮の主張を見抜くことが出来ていないのだ。それは天下のアメリカでさえも犯している間違いなのだから、大目に見ても良いという意見が出そうだが、本当は逆なのだ。アメリカは交渉の当事者だから、交渉のたびに目標を定め、その目標を達成しなければならない。そして前回交渉の流れを踏んで新たな目標を設定して、それを達成するために邁進していく他ないのであるから、自然と流れのようなものが生じ、そこから抜けきれなくなることがある。途中で設定した目標を変えざるを得なくなったとしても、それを「合理的」に説明するために嘘、こじつけが必要になることも出てくる。そのために交渉全体を把握するのはそう簡単なことではない。

だが、傍で見ているものたちは、第3者であるがゆえに冷静さを保ち、交渉過程の全体を客観的に分析し評価することができる。だがその場合、主観や、思い込み、希望的欲求、自分が作った論理的枠組み、アメリカに対する幻想が生むアメリカ発情報への偏重などが絡むと、そうでなくなる。討論の参加者ら全員が、そのような落とし穴に落ちていたようだった。

討論ではまた、無許可越境して捕らえられている米国籍の、二人の女性ジャーナリストの問題も俎上に載った。だが、これも北朝鮮にとっては、対米交渉のカードになるといったようなことが話されただけで、この問題に対する北朝鮮の基本的スタンスについての言及は無かった。マスコミが嬉しがる題材だが、北朝鮮がこの問題を対米交渉に利用するようなそぶりは、一度たりとも見せていないことを知るべきだ。

北朝鮮の朝鮮中央通信は二人の裁判を6月4日に行うとだけ公表した。それ以外のことは何一つ言っていない。もちろんこの問題で米朝交渉はあろう。問題は北朝鮮が、それを核やミサイルをめぐる、あるいは6者会談をめぐる米朝交渉に、リンクさせるようなそぶりはまったく見せていないということだ。二つの問題はまったく別物だと見たほうが良い。少なくとも今現在、北朝鮮はリンクさせるようなそぶりを見せてはいないし、はっきり言ってリンクさせて北朝鮮が得することは無い。スウェーデンがアメリカに代わり介在しているので、かりに北朝鮮にそうした意図があれば、すでに漏れてきてもいいはずだが、そのような情報はまったく無い。この問題をリンクさせるかどうかは、アメリカの行動に掛かっていると見るのが自然である。例えばこの問題で交渉に臨んだアメリカ側が、これを利用しようとするかどうかということに掛かっていると見たほうが良いであろう。

ちなみに参考にして欲しいニュースを一つ紹介する。

5月14日の連合ニュースが外交消息筋の話として、アメリカが今月中に沖縄の嘉手納基地にF22を12機、グアムのヘンだーソン空軍基地にもF22を12機、それぞれ配備(装備、兵士など500余人も)し、今後4ヶ月間、作戦を遂行する計画だと伝えた。

アメリカは去る1月から嘉手納基地にF22を12機、ヘンダーソン基地に同14機を前進配備していたが、4月中旬に全て撤収していた。また7日から15日まで、韓国空軍と駐韓米空軍に嘉手納、三沢の駐日米空軍と「マックス・サンダー」米韓合同演習を行っていた。その演習にF22が参加したのかどうかは確認が取れていない。
F22はステルス機能を持つ最先端戦闘機で世界最強の「夢の戦闘機」と呼ばれ、日本がその購入を申し出て簡単にあしらわれたこともある。F22だと嘉手納基地からなら離陸後わずか30分以内に北朝鮮のヨンビョンの核施設に到達することができるなど、1時間以内に北朝鮮全域での作戦が可能である。
北朝鮮による第二の核実験を牽制し、また核実験が実行された場合の、オプションとしての機能も与えられていると見たほうが良いだろう。つまり、一方では「対話」を執拗に強調すると同時に、他方では裏で強硬策も準備しているということだ。