米国防長官のノー天気さ | 朝鮮問題深掘りすると?

朝鮮問題深掘りすると?

初老の徳さんが考える朝鮮半島関係報道の歪み、評論家、報道人の勉強不足を叱咤し、ステレオタイプを斬る。

韓国からの報道によると、ロバート・ゲイツ米国防長官は11日、韓国の大量破壊兵器拡散防止構想(PSI)参加方針を「戦争行為として受け取る」とした北朝鮮の威嚇発言は修飾語に過ぎないと発言したという。
彼はこの日の国防総省ブリーフィングで、「最近数週間にわたって北朝鮮から出ている、このような修飾語について、率直に言って驚いており、当惑している」と明かし、韓国のPSI参加に対する北朝鮮の威嚇を「私の考えでは修飾語である」と述べた。

正直に言って、ゲイツ国防長官の発言は、無責任極まると言いたい。北朝鮮の歴史を見て、北朝鮮が一度公式に表明したことを実行しなかったことが果たしてあったか。少なくとも第一次核危機以来の北朝鮮の態度を見れば、ゲイツの発言があまりにも安易で、無責任だとしか言いようが無いのだ。

6者会談にしても、北朝鮮は約束したことを、先に翻意したことは一度も無い。日朝関係でもそうだ。巷では、日米の当該政府の事なかれ主義と、政権維持のための嘘、言い逃れによって、そしてそれに組したマスコミの歪曲や偏向報道によって、つねに北朝鮮が約束を破ったことになっているが、編年できちっと整理して見ると、証拠も満足に提示できない、ほとんどでっち上げに近い得体の知れない「情報」を根拠に、難癖を付けて、北朝鮮をして約束を守りようの無い状況に追い詰めたのは米日であった。今だからこそスーパーKなる偽ドル札もCIAの自作自演であったことが確実視されており、ウラン濃縮による原爆製造云々もでっち上げであったことが明らかになっているが、このような謀略劇を正面突破せんとした北朝鮮の外交は、いわゆる「瀬戸際外交」として、意図的な危機醸成による脅迫のように歪曲されて伝えられてきたことがわかる。

個別的人間の犯した犯罪までが、国家政策として歪曲され、事実がはっきりした後も、それが是正されないままの状態が続く。拉致問題でも、日本政府が4度に渡って北朝鮮を騙したことが(蓮池透氏がはっきりとそう言っている)、北朝鮮をして日本政府への不信感を持たせ、それが解決を遅らせている本当の原因であることが、隠し通されている。

だが、このようなことが日本のメディアできちっと整理されたことは無い。そのために多くの日本人が、北朝鮮は信じられない国であり、圧力でしか事態は打開できないという幻想に囚われたままだ。

だが実際のところ、いかに圧力を加えても北朝鮮は言ったことを自ら翻意したことは無く、間違いなく実践してきた。


それでも日韓の場合は、力不足という口実が使えるので、まだ言い逃れが出来よう。しかしゲイツ国防長官の発言は始末が悪い。なぜなら失敗しているとはいえ、少なくとも一極支配を狙った大国の国防長官ともあろうものが、あまりにもノー天気だということを見せ付けたからである。いや、もしかしたら北朝鮮のペースに巻き込まれないように気を付けた計算づくの発言かもしれない。つまり「われ関せず、動じず」と言いたいのだと見れないことも無い。率直に言って、そういった面もあろう。いやそれが本当の狙いかも知れない。だがだとしたら、残念ながら不成功に終わったとしか言いようが無い。

最近の北朝鮮外務省や軍部などから出てくる強硬発言の頻度を考えただけでも、修飾語として片付けられる性質のものではないことは誰しも感じていよう。そうでなければクリントン国務長官や、他の閣僚や当事者らの口から「冷静」に、あるいは「相応の罰」、「対話」などの言葉が、脈絡の無いままにでてきたり、中ロの最高指導者らの口から「冷静に」という言葉が立て続けに出ているのを、どう評価すれば良いのか。ボズワース北朝鮮問題特別代表が「(第二次核実験について)残念だが、思いとどまらせる方法は無い。やらないことを切に望む」などといった言葉は何故出てきたのか。ゲイツは自分の発言と、これらの発言との調和を考えるべきだったのだ。

北朝鮮は幾度と無く韓国のPSI参加は戦争行為」だと通告してきた。未だに朝鮮戦争が終結しておらず、法的には「一時撃ち方止め」の交戦状態にあることから、北朝鮮が韓国のPSI参加を「戦争行為」と見るのは至極当然である。それはすでに無きに等しい休戦協定に、最後の止めを刺すのと同じである。それは修飾語などではなく、法的意味からも、実際的意味からも、「戦争行為」としか受け取れないものなのである。

ハングルに「まさかまさかが人を殺す」という諺があるが、ぜひゲイツ国防長官に教えてあげたいものだ。貴方のそのノー天気な楽天性が戦争の危機を生むのだと。

もっとも同じ事を日本や韓国の指導者らにも言いたいところだ。日本では安倍元首相が相変わらずの、イケイケ無責任発言をして気勢を上げているが、これから最終的段階を迎えることになろう対北朝鮮政策の、総仕上げの時期にいるオバマ政権にとっては煩わしいだけであろう。ゴルゴ13の漫画から国際政治を学んでいると言われている麻生首相は問題外である。

韓国の李明博政権の強硬一辺倒の対北朝鮮外交も、緊張を激化させ、南北関係を悪化させるだけで、米朝対話の側面をになうべき役割を放棄することになり、やはりオバマ政権にとっては煩わしいだけであろう。日韓とも今の対北朝鮮外交は、米朝関係で側面的役割を担えない状況に自らを追いやっているものだ。それはアメリカが、北朝鮮に対し対日、対韓問題を言わばカードとして使えなくなることを意味している。このままではアメリカは単身で北朝鮮と対峙しなければならない。ゲイツの発言は、こうした事態が迫りつつあることが、彼の目には映っていないということを教えている。

実にオバマ政権は北朝鮮との外交戦で、苦難にまみえることになるのではないか。しかも北朝鮮はすでに手持ちのカードを見せているにも拘らずだ。北朝鮮の自主外交、正面突破外交の威力を感じないわけには行かない。