未だに流れが読めない? | 朝鮮問題深掘りすると?

朝鮮問題深掘りすると?

初老の徳さんが考える朝鮮半島関係報道の歪み、評論家、報道人の勉強不足を叱咤し、ステレオタイプを斬る。

北朝鮮訪問に続き韓国を訪問したセルゲイ・ラブロフロシア外務長官は24日、ロ・韓外務長官会議後の共同記者会見で、何よりも6者会談再開を目標にすべきだとしながら、①「9.19共同声明に明記された義務を全ての関連国が忠実に履行しなければならない」、「さまざまな口実を用いて自己の義務から逃れようとしてはならない」②また現在女性従業員を脱北させようとしたとして北朝鮮当局の取調べを受け抑留中の現代峨山の「社員」問題と関連して「人道主義的問題を6者会談と絡ませるべきではない」と指摘。③さらに14日の安保理議長声明については「制裁とは無関係」だと述べている。

ここで①は「2.13合意」や「10.3合意」に基づく重油保障義務を果たしていない日本と韓国に対し、直接的に非難したものであり、②は拉致問題を6者会談と絡めて6者会談の進展を阻んでいる日本に対する間接的な非難だとも受け取れる。そして③は安保理議長声明の根幹に関わるもので、今回の議長声明に対するロシアの原則的姿勢を明らかにしたもの。ラブロフ外務長官は平壌での会談でも、「制裁に反対する」ことで一致したことを、北朝鮮外務省スポークスマンが記者らの質問に対する回答の形で、明らかにしている。

共同記者会見でのラブロフ長官の発言は、韓国政府の立場とは随分と違っており、韓国の外交通商部当局を慌てさせた。韓国外交当局者はその後、記者室にわざわざ顔を出し、ラブロフ外務長官の発言は、「そのような希望を持って努力しなければならないという意味」だといちいち解釈を示し、ラブロフ発言の意味を矮小化するのに躍起であった。

これらの点と関連して、広島市立大学広島平和研究所所長の浅井基文教授の次の指摘は重要である。「日本にとってもっとも重要なことは、『中国、DPRK、日本、韓国、ロシア連邦及びアメリカにより発出された2005年9月19日の共同声明及びその後のコンセンサスが得られた文書を完全に実施するために努力を強めることをすべての参加国に主張する』とした議長声明の文章です。日本政府はこれまで、拉致問題について前進がない限り、朝鮮に対する20万トンの重油提供の約束を履行しないことについては、朝鮮以外の他の6者協議当事国の理解が得られている、と強弁することによって、9.19共同声明(及びその後のコンセンサス合意)上の義務の履行を無視してきています。しかし、今回の議長声明は、日本政府が言い訳をいう根拠を与えない明快な形で、日本を含む参加国による「文書の完全実施」を求めているわけですから、6者協議再開の暁には、日本に対する国際的批判は強まることを覚悟しなければならないはずです。うがった見方をすれば、朝鮮に対して強硬姿勢一本槍の日本政府に対して、中国とアメリカが今後の朝鮮半島非核化を促進する上での対日アプローチのための布石として、あうんの呼吸で上記の一文を忍び込ませた可能性すら排除できないでしょう。」(http://www.ne.jp/asahi/nd4m-asi/jiwen/thoughts/2009/282.html

他方で、asahi.com(4月26日10時52分)は牧野愛博ソウル特派員の記事「北朝鮮、想定超す強硬ぶり 『核再処理再開』宣言」を載せている。牧野記者はそのなかで「予想以上に強硬な姿勢に、関係国の焦燥感は深い」と書いたが、26日にもなって「想定超す強硬ぶり」とはまったくノー天気な記事である。北朝鮮外務省スポークスマンの、ロケット発射を前にして出された3月26日の談話、安保理議長声明の出た翌日の外務省声明をいったい、どんな読み方をしたというのであろう。きちんと読んでいたら、十分に「想定」出来たはずである。「想定超す」あるいは「予想以上に強硬な」という認識は、北朝鮮の外交というものをまったく理解していない証拠にもなろう。

同じように空気を読めないでいる集団がいる。ロシア外務長官の平壌、ソウル訪問の過程を具体的に分析しているメディアがないのである。また、拉致被害者の家族会と支援組織「救う会」のメンバーらも空気を読めないでいるようだ。彼らは26日午前、米政府高官や議会関係者らに北朝鮮に対するテロ支援国家指定を復活させ、北朝鮮への対応を厳しいものにしてほしいという、これも的外れな要求を持って成田を発った。むろん拉致家族の必死さは理解できないものではない。だが、やっているいことは問題の解決をいっそう難しくしているだけではないのか。この問題を6者会談と絡めるのは良くない、と思っているのは何もロシアだけではない。またアメリカにとっても、中国やロシア、そして韓国にとっても今、焦眉の問題は北朝鮮をいかに説得し、納得させ6者会談を再開にまで持っていくのかという問題であって、そこに日本人拉致問題が入り込む隙間は無い。そんなことは外務省も知っておろう。拉致家族や「救う会」を説得できないだけなのだ。それにしても「救う会」はまったく良くない。拉致家族の気持ちをいたずらに傷つけ、安明進のような麻薬常習者の口車に乗ってうまく利用され、内部では金銭的問題まで引き起こすなど、解決の道を遠ざけているだけだ。本当に解決しようとするのなら、制裁一辺倒で凝り固まり、関係の無い在日朝鮮人をいじめようとするのではなく、さまざまな外交的手法を取り入れ、複数の外交チャンネルを構築したり、様々なクラスの接触を実現したり、それこそ外交の王道を歩むことによって、交渉へと進むべきではないのか。

どう考えても仕切り直しが必要だと思えてならない。現在、6者会談で論議してきた全ての問題が仕切り直しの必要に迫られている。日朝問題、その一つである拉致問題も仕切り直すチャンスだといえないことも無い。日本はみすみすこのチャンスを潰してしまうのであろうか。北朝鮮核問題が新たなステージに移行したいまこそ、日本も対北朝鮮政策を是正すべきではないのか?