滋賀県は日本一の湖、琵琶湖に街を構えている。何処も水辺に街を建設するのは、水源確保の為だ。
しかし、潤伍はここには長居するつもりはなかった。
と言うのも、彼は熊谷へ急ぎたい気持ちでいっぱいだった。
気になりだしたら即行動に移したいのが、彼の性分だった。
大地を旅に連れて行くかどうかは未だに悩みの最中ではあったが、話をしっかりと聞いていなかった事が気がかりで仕方なかった。
探し物の件もあるが、今はあの2人にもう一度逢うことが彼の心を占めている。
琵琶湖といっても広大で、街は長浜市の一角にひっそりと佇んでいるとのことだった。
突然の銃撃が前輪を掠める。前につんのめる前に、ハギを抱えて横に転んだ。
久々のお出ましは何人だろうか。
潤伍は自転車を無視して近くの木立に身を隠す。
音からしてかなり遠くからの狙撃だろうに、危うくハギに当たりそうだった。
胸の中の毛玉を確認する。彼に被害は無さそうだ。
そっと草むらに下ろすと、その場で身を屈めている。
「ハギ、動くなよ」
潤伍は静かに木立から覗き込む。その木立にもう一発の銃弾が撃ち込まれた。
~やはりスナイパーが居るのか…面倒だな。
おそらく賊は3人以上。1人が狙撃で援護して、残りで物資を強奪する手口だろう。
潤伍は自分の立ち位置を確認する。先ずは狙撃を何とかしないと打つ手がない。自転車の後方にはライフルが積んである。
もう一度ハギを見てから、潤伍は動き出した。
一度、木立の右に姿を見せてから素早く左から自転車に向かう。木立を掠めた銃撃の後、数秒の間がライフルの確保を成功させた。
潤伍は身を低めに別の木立に身を寄せる。
ハギが隠れて居るはずの場所を見るが、彼の姿は確認出来ない。
木立から茂みへ転がり込み、葉の隙間からライフルを構えた。弾は8発。
暫くの静寂。道を挟んで荒れた田んぼ跡の更に向こうから、人影が2つ。
潤伍は迷わず引き金を引き、1人の足を撃ち抜いた。
圧倒的不利な立場から、手加減をしている余裕はない。
相手の人数が分からない以上、全力で排除するのが定石だ。
雲が動いて天使のトンネルが一筋降りてくる。
2時方向、キラリと光を放って銃声が響く。
潤伍は光に向けて1発。反応がないのは外した証拠だ。きっと狙撃者は位置を変えただろう。
~次は外さない…。
弾を銃身に装填して引き金に指をかける。再びの沈黙。
潤伍は重い漆黒のコートを脱ぐと、枝を使って茂みの外に囮を作った。
銃声と共に光の場所を確認する。
息を吐き指を引き絞ると、銃声の余韻の中で悲鳴が聞こえてきた。
潤伍はライフルを構えたままでゆっくりと茂みから立ち上がると、声を張り上げた。
「こちらに交戦の意思はない!このまま引くなら良し!でなければ覚悟しろよ!」
数秒後、男が2人手を挙げて出てきた。賊は4人居たらしい。
「撃つな!引くから怪我人だけ回収させてくれ!」
賊が田んぼで転がっている男を引きずり姿が見えなくなってから、漸くレンズから瞳を離した。
良識があると言ったら語弊があるだろうか。戦力半減で撤退を決めてくれた敵に感謝したい気分だった。
自転車の前輪はパンクしている。
「ハギ、おいで」
何回か声をかけると、辺りを見回しながらゆっくりと出てきた茶トラは、潤伍を確認しても身を低くしながらそろそろと近づく。
小さな音も聴き逃さないその耳は、前後左右に警戒を続けていた。
「ハギ、おいで。もう大丈夫だから」
彼にとっては突然起こった大音量の撃ち合いだ。銃を使ったのは始めてではないが、よく逃げずにじっとしていてくれた。
ハギは潤伍の傍に来ると、擦り寄るわけでもなく横に腰を下ろし、赤いカッパが煩わしそうに顔の毛繕いを始めた。
休憩がてら、ハギには煮干しを少し、潤伍もジャーキーをくわえながらパンク修理をする。
強い日差しを避け、日陰での作業でも汗が滲む。今日は少し暑い。
あれから7度目の秋はもう深かった。
何とか四季を保っていてくれているおかげで、夏以外は人々もある程度は活動出来る。
ポストマンも流石に夏の炎天下では配達も出来ず、夜のみの行動となる。秋とはいえ、本来ならまだ夜の移動が通例であるが、探し物の為に時間を費やす彼らは、少しでも日が陰ると移動を繰り返していた。
さわさわとそよぐ秋風が気持ちの良い午後、赤いカッパの茶トラが何度も位置を確認しながら漸く寝転んだので、潤伍も仮眠を取ることにした。
琵琶湖に着いたのは夜も更けた頃だ。
潤伍は受付に手紙を託すと、受け取りは榛名行きのみを注文した。
岐阜と長野を挟んでるので、群馬行きの手紙などたった4通のみであったが、1時間ほど食事休憩を取ると、その脚でそのまま引き返す事を選択する。
気になりだすと即行動に移したくなるのは彼の気性。ポストマンになろうと決めてから警備員を離職するまでも1ヶ月とかからなかった。
ただ、途中の休憩所は利用し、緑の蓋のマタタビ粉をお願いすることは忘れなかった。
勿論、彼がいくら体力があろうとも、休憩無しでは自転車の旅はとてももたない。
ハギの体力やストレスも心配だった。
時には休憩所で、時には空の元で、彼らは自然や賊と戦いながら、それでも半月で榛名に戻って来た。
そんなに遠い過去でもないのに、随分と懐かしく感じた。
しかし、潤伍はここには長居するつもりはなかった。
と言うのも、彼は熊谷へ急ぎたい気持ちでいっぱいだった。
気になりだしたら即行動に移したいのが、彼の性分だった。
大地を旅に連れて行くかどうかは未だに悩みの最中ではあったが、話をしっかりと聞いていなかった事が気がかりで仕方なかった。
探し物の件もあるが、今はあの2人にもう一度逢うことが彼の心を占めている。
琵琶湖といっても広大で、街は長浜市の一角にひっそりと佇んでいるとのことだった。
突然の銃撃が前輪を掠める。前につんのめる前に、ハギを抱えて横に転んだ。
久々のお出ましは何人だろうか。
潤伍は自転車を無視して近くの木立に身を隠す。
音からしてかなり遠くからの狙撃だろうに、危うくハギに当たりそうだった。
胸の中の毛玉を確認する。彼に被害は無さそうだ。
そっと草むらに下ろすと、その場で身を屈めている。
「ハギ、動くなよ」
潤伍は静かに木立から覗き込む。その木立にもう一発の銃弾が撃ち込まれた。
~やはりスナイパーが居るのか…面倒だな。
おそらく賊は3人以上。1人が狙撃で援護して、残りで物資を強奪する手口だろう。
潤伍は自分の立ち位置を確認する。先ずは狙撃を何とかしないと打つ手がない。自転車の後方にはライフルが積んである。
もう一度ハギを見てから、潤伍は動き出した。
一度、木立の右に姿を見せてから素早く左から自転車に向かう。木立を掠めた銃撃の後、数秒の間がライフルの確保を成功させた。
潤伍は身を低めに別の木立に身を寄せる。
ハギが隠れて居るはずの場所を見るが、彼の姿は確認出来ない。
木立から茂みへ転がり込み、葉の隙間からライフルを構えた。弾は8発。
暫くの静寂。道を挟んで荒れた田んぼ跡の更に向こうから、人影が2つ。
潤伍は迷わず引き金を引き、1人の足を撃ち抜いた。
圧倒的不利な立場から、手加減をしている余裕はない。
相手の人数が分からない以上、全力で排除するのが定石だ。
雲が動いて天使のトンネルが一筋降りてくる。
2時方向、キラリと光を放って銃声が響く。
潤伍は光に向けて1発。反応がないのは外した証拠だ。きっと狙撃者は位置を変えただろう。
~次は外さない…。
弾を銃身に装填して引き金に指をかける。再びの沈黙。
潤伍は重い漆黒のコートを脱ぐと、枝を使って茂みの外に囮を作った。
銃声と共に光の場所を確認する。
息を吐き指を引き絞ると、銃声の余韻の中で悲鳴が聞こえてきた。
潤伍はライフルを構えたままでゆっくりと茂みから立ち上がると、声を張り上げた。
「こちらに交戦の意思はない!このまま引くなら良し!でなければ覚悟しろよ!」
数秒後、男が2人手を挙げて出てきた。賊は4人居たらしい。
「撃つな!引くから怪我人だけ回収させてくれ!」
賊が田んぼで転がっている男を引きずり姿が見えなくなってから、漸くレンズから瞳を離した。
良識があると言ったら語弊があるだろうか。戦力半減で撤退を決めてくれた敵に感謝したい気分だった。
自転車の前輪はパンクしている。
「ハギ、おいで」
何回か声をかけると、辺りを見回しながらゆっくりと出てきた茶トラは、潤伍を確認しても身を低くしながらそろそろと近づく。
小さな音も聴き逃さないその耳は、前後左右に警戒を続けていた。
「ハギ、おいで。もう大丈夫だから」
彼にとっては突然起こった大音量の撃ち合いだ。銃を使ったのは始めてではないが、よく逃げずにじっとしていてくれた。
ハギは潤伍の傍に来ると、擦り寄るわけでもなく横に腰を下ろし、赤いカッパが煩わしそうに顔の毛繕いを始めた。
休憩がてら、ハギには煮干しを少し、潤伍もジャーキーをくわえながらパンク修理をする。
強い日差しを避け、日陰での作業でも汗が滲む。今日は少し暑い。
あれから7度目の秋はもう深かった。
何とか四季を保っていてくれているおかげで、夏以外は人々もある程度は活動出来る。
ポストマンも流石に夏の炎天下では配達も出来ず、夜のみの行動となる。秋とはいえ、本来ならまだ夜の移動が通例であるが、探し物の為に時間を費やす彼らは、少しでも日が陰ると移動を繰り返していた。
さわさわとそよぐ秋風が気持ちの良い午後、赤いカッパの茶トラが何度も位置を確認しながら漸く寝転んだので、潤伍も仮眠を取ることにした。
琵琶湖に着いたのは夜も更けた頃だ。
潤伍は受付に手紙を託すと、受け取りは榛名行きのみを注文した。
岐阜と長野を挟んでるので、群馬行きの手紙などたった4通のみであったが、1時間ほど食事休憩を取ると、その脚でそのまま引き返す事を選択する。
気になりだすと即行動に移したくなるのは彼の気性。ポストマンになろうと決めてから警備員を離職するまでも1ヶ月とかからなかった。
ただ、途中の休憩所は利用し、緑の蓋のマタタビ粉をお願いすることは忘れなかった。
勿論、彼がいくら体力があろうとも、休憩無しでは自転車の旅はとてももたない。
ハギの体力やストレスも心配だった。
時には休憩所で、時には空の元で、彼らは自然や賊と戦いながら、それでも半月で榛名に戻って来た。
そんなに遠い過去でもないのに、随分と懐かしく感じた。