~未来か…。
潤伍は夏を亡くして以来、考えたこともなかった。いつもその場の判断だけで動いてきた自分の未来は、一体どこへ向かっているのだろうかと思う。
池川は、早速案を練り上げる為に仕事に取りかかっていたので、潤伍達は静かに部屋を後にした。
「驚きましたよ、いきなり街のトップに会わせるなんて」
「悪かったな。池川さんは俺の学生時代の先輩でな、今までそれなりに今の世を憂いていたんだ。俺もな」
「…凄いですね…俺は自分のことで手一杯ですよ」
「なぁ!今夜空けとけよ!お前とは一度酒を酌み交わしたかったんだ」
藤田は強引な誘い方をしたが、潤伍は悪い気はしなかった。
そのままその足で勾留中の黒狼の2人に会いに行く。
3日間の勾留は賊にしては破格の待遇だった。事の終着を報告したところ、2人ともポカンと口を開けていた。
「あ…あのよ~…何か難しい話になってるけど…」
「大きくはあるが、難しくはない。今まで泣き寝入りしてきた被害者が、加害者をしっかりと裁けるようになるんだ。たぶん、以前の日本に比べて面倒な手続きは減って時間もかからなくなると思う」
これはあくまでも池川の印象と、潤伍の期待が大きく入っていたのは否めない。
2人は事の大きさにまだついていけないようだった。
「とにかく、あいつらは結構な期間勾留されることになる。その後で裁判が待ってる。お前達は3日後に出れるし、奴等は個人的にも社会的にも制裁を受けるんだから、黒狼としても十分じゃないのか?」
「お、おぅ…たぶん…でも、沖本さんに報告するまでは、どうなるか分からんぞ」
「分かってる。それまでは榛名に居るようにしよう」
どうせ急ぐ旅でもない。勾留されてしまった2人には申し訳なかったが、潤伍には沖本の仕切る黒狼に殺人をさせる気は初めからなかった。
とりあえず上手く行き過ぎた結果に潤伍は満足していた。
その夜、こじんまりとした居酒屋で、客も数人、いかにも潤伍の好みの店だった。
7時と言われ、6時50分に着いたのに、藤田はすでに出来上がっていた。
~早い…何時から居たんだ。
「お~!小幡!お疲れ!」
大ジョッキを挙げて1人で乾杯している。長い夜になりそうな予感を覚えた。
初めはポストマンになった経緯や、警備員のあり方等を語っていたが、唐突に藤田は切り出した。
「お前、今の世の中どう思う?」
顔面を赤くしているのに、この饒舌さはどうだろうか。
「どうって何がです?」
「…俺はな…思うんだ。…地球が怒ってるんだってな」
「地球が…怒る?」
「知り合いの元学者がな、言ったんだ。あんなスーパーフレアが前触れもなく起こるはずねぇってな」
「どういう事です?」
「大規模なフレアが発生するのは、惑星とこれに近接する大型惑星の磁場が捻れあって、ある点まで達すると爆発するらしい。ただこの銀河系でいうと、太陽に最も近いのが水星だが、木星のような巨大なガス惑星磁場とは比べ物にならないほど弱い。木星が水星の内側の軌道に入ってくるようなら可能だそうだ」
「でも、木星がそんな動きを見せれば事前の観測で発見出来るでしょうし、地球や他の惑星にも影響が」
「あぁ、影響がない訳がない」
「じゃあ…何で…」
「だからぁ、地球が怒ってるんだよ」
科学的な話から、いきなり子供のような発想に潤伍は首を捻るしかない。
「はぁ…」
「やれ収賄だ偽造だ、捏造、隠蔽、内紛、テロ。人間は人間同士だけじゃなく、動植物までも壊す。地球にとっちゃあ害虫だ」
「…害虫駆除ですか…」
「俺はそう思ってる。だから、今までみたいな生活は望んじゃいけないんだよ。俺は、今の現状は自業自得だと思ってるがな」
潤伍は、羽鳥も似たような事を言っていたことを思い出した。
(俺はさぁ、今の方が好きだなぁ。そりゃ、亡くなった方は本当に残念だと思うよ。俺の家族も居なくなったしなぁ…でも、生活のほとんどが農作業で、物欲は小さくなって、質素な生活に馴染んできてる。セレブとか爆買いとか訳のわからん奴等も居なくなった)
「おぅ!アイツとは話が合うと思ったんだ!」
「それを聞いたとき、これが人間の本来の姿なのかも知れないって思ったんです」
「かもな。下手に進化した世界よりは、今の方が自然との共存は可能かもしれん」
皆、いろんな事を考えて今を生きていた。
~俺はどうだ。何も考えてなかったような気がする。ただ息をしていただけじゃないのか…。夏が居ない、そこに逃げ込んでいただけじゃないのか。
「俺には…よく分かりません…ただ」
藤田はジョッキを傾けながら、潤伍の二の句を待った。
「ただ、自分には何が出来るだろうかと、考えたいと思います」
藤田はどんな答えを期待していたのか、素っ頓狂な表情の後、ニカッと笑う。
「それでいいと思うぞ。人のため、自分のため、世のため、それぞれが考えて楽しく暮らせればいいな」
何だかとんでもない難題を自分に課してしまったような、少し恐怖さえ感じた夜だった。
夏が居ないという事実を完全に認め、次の1歩を踏み出さなければならない。彼女の全てを想い出として受け止めなければならない事が、潤伍には酷く重い事のように感じていた。
潤伍は夏を亡くして以来、考えたこともなかった。いつもその場の判断だけで動いてきた自分の未来は、一体どこへ向かっているのだろうかと思う。
池川は、早速案を練り上げる為に仕事に取りかかっていたので、潤伍達は静かに部屋を後にした。
「驚きましたよ、いきなり街のトップに会わせるなんて」
「悪かったな。池川さんは俺の学生時代の先輩でな、今までそれなりに今の世を憂いていたんだ。俺もな」
「…凄いですね…俺は自分のことで手一杯ですよ」
「なぁ!今夜空けとけよ!お前とは一度酒を酌み交わしたかったんだ」
藤田は強引な誘い方をしたが、潤伍は悪い気はしなかった。
そのままその足で勾留中の黒狼の2人に会いに行く。
3日間の勾留は賊にしては破格の待遇だった。事の終着を報告したところ、2人ともポカンと口を開けていた。
「あ…あのよ~…何か難しい話になってるけど…」
「大きくはあるが、難しくはない。今まで泣き寝入りしてきた被害者が、加害者をしっかりと裁けるようになるんだ。たぶん、以前の日本に比べて面倒な手続きは減って時間もかからなくなると思う」
これはあくまでも池川の印象と、潤伍の期待が大きく入っていたのは否めない。
2人は事の大きさにまだついていけないようだった。
「とにかく、あいつらは結構な期間勾留されることになる。その後で裁判が待ってる。お前達は3日後に出れるし、奴等は個人的にも社会的にも制裁を受けるんだから、黒狼としても十分じゃないのか?」
「お、おぅ…たぶん…でも、沖本さんに報告するまでは、どうなるか分からんぞ」
「分かってる。それまでは榛名に居るようにしよう」
どうせ急ぐ旅でもない。勾留されてしまった2人には申し訳なかったが、潤伍には沖本の仕切る黒狼に殺人をさせる気は初めからなかった。
とりあえず上手く行き過ぎた結果に潤伍は満足していた。
その夜、こじんまりとした居酒屋で、客も数人、いかにも潤伍の好みの店だった。
7時と言われ、6時50分に着いたのに、藤田はすでに出来上がっていた。
~早い…何時から居たんだ。
「お~!小幡!お疲れ!」
大ジョッキを挙げて1人で乾杯している。長い夜になりそうな予感を覚えた。
初めはポストマンになった経緯や、警備員のあり方等を語っていたが、唐突に藤田は切り出した。
「お前、今の世の中どう思う?」
顔面を赤くしているのに、この饒舌さはどうだろうか。
「どうって何がです?」
「…俺はな…思うんだ。…地球が怒ってるんだってな」
「地球が…怒る?」
「知り合いの元学者がな、言ったんだ。あんなスーパーフレアが前触れもなく起こるはずねぇってな」
「どういう事です?」
「大規模なフレアが発生するのは、惑星とこれに近接する大型惑星の磁場が捻れあって、ある点まで達すると爆発するらしい。ただこの銀河系でいうと、太陽に最も近いのが水星だが、木星のような巨大なガス惑星磁場とは比べ物にならないほど弱い。木星が水星の内側の軌道に入ってくるようなら可能だそうだ」
「でも、木星がそんな動きを見せれば事前の観測で発見出来るでしょうし、地球や他の惑星にも影響が」
「あぁ、影響がない訳がない」
「じゃあ…何で…」
「だからぁ、地球が怒ってるんだよ」
科学的な話から、いきなり子供のような発想に潤伍は首を捻るしかない。
「はぁ…」
「やれ収賄だ偽造だ、捏造、隠蔽、内紛、テロ。人間は人間同士だけじゃなく、動植物までも壊す。地球にとっちゃあ害虫だ」
「…害虫駆除ですか…」
「俺はそう思ってる。だから、今までみたいな生活は望んじゃいけないんだよ。俺は、今の現状は自業自得だと思ってるがな」
潤伍は、羽鳥も似たような事を言っていたことを思い出した。
(俺はさぁ、今の方が好きだなぁ。そりゃ、亡くなった方は本当に残念だと思うよ。俺の家族も居なくなったしなぁ…でも、生活のほとんどが農作業で、物欲は小さくなって、質素な生活に馴染んできてる。セレブとか爆買いとか訳のわからん奴等も居なくなった)
「おぅ!アイツとは話が合うと思ったんだ!」
「それを聞いたとき、これが人間の本来の姿なのかも知れないって思ったんです」
「かもな。下手に進化した世界よりは、今の方が自然との共存は可能かもしれん」
皆、いろんな事を考えて今を生きていた。
~俺はどうだ。何も考えてなかったような気がする。ただ息をしていただけじゃないのか…。夏が居ない、そこに逃げ込んでいただけじゃないのか。
「俺には…よく分かりません…ただ」
藤田はジョッキを傾けながら、潤伍の二の句を待った。
「ただ、自分には何が出来るだろうかと、考えたいと思います」
藤田はどんな答えを期待していたのか、素っ頓狂な表情の後、ニカッと笑う。
「それでいいと思うぞ。人のため、自分のため、世のため、それぞれが考えて楽しく暮らせればいいな」
何だかとんでもない難題を自分に課してしまったような、少し恐怖さえ感じた夜だった。
夏が居ないという事実を完全に認め、次の1歩を踏み出さなければならない。彼女の全てを想い出として受け止めなければならない事が、潤伍には酷く重い事のように感じていた。