榛名を発つのに8日を要した。上野と本間は約束通り3日後に釈放されたが、沖本良太への報告と、その結果を待つのにその日数が必要だった。
「オバッちゃん!良かったな!」
本間は大声で潤伍を呼ぶ。
~恥ずかしいだろ…。
「法整備が敷かれるのは、こっちも動きにくくなるだろうが、証拠を上げれば今まで泣き寝入りしてきた件で、俺達にも権利があることが保証された事は大きな収穫だ。あの野郎どもは一度ぶちのめしただけじゃあ気が済まねぇ所だったが、年単位の勾留だ。警備員との抗争も予想してたが、その心配も必要なさそうだ」
「って言ってたぜ」
上野は良太の台詞をそのまま潤伍に伝えた。胸を張って。
「それは良かった。で?俺の処分はどうなったんだ?」
「そんなモン決まってるじゃねぇか!俺達もう兄弟みたいなモンじゃねぇか!」
「今後、俺達のシマで猫を連れたポストマンに手ぇ出すヤツァ居ねぇよ!」
~兄弟になったつもりは…。
不意に潤伍は聞きたくなった。
「…お前達はどうして黒狼に入ったんだ?街に行こうとは思わなかったのか?」
本間は、鼻の頭をコリコリと掻きながら7年前に想いを馳せた。
「俺達ゃよ、前科持ちが多いんだ。俺や上野は収監中にあれが起こってよ、俺達は餓死寸前まで放置されてたんだよ。沖本さんが助けてくれたんだ」
「街も良いかも知れないが、合う合わないってのがあってよ、俺達には鍬よりこっちよ」
上野は銃を打つ真似をした。
それぞれの過去と現在がある。当たり前のようでいて、今まで何故気が付かなかったのか。
自分だけが過去に縛り付けられてるような、疎外感よりも羞恥心の方が強かった。
潤伍はいたたまれない気持ちになり、何気ないふりをして澄みきった青空を見上げた。
その目に映ったのは、遠くまで見渡せる緑とその鮮やかさだった。
オゾン層及びネットワークの破壊。地獄に落ちたと思っていた。
常に死と隣り合わせの生活に、当然人々は怯えて肩を寄せ合って生活してると思い込んでいたのに…。
世界は美しかった。
排気ガスの存在しなくなった大気は、遥か彼方の山々を見透かし、空の蒼は何処までも澄んだコバルトブルーが、飛ぶ小鳥を包んでいる。
「どうした?オバッちゃん」
「…綺麗だな」
「あ?」
「…いや」
潤伍はその大気を思い切り胸に吸い込んだ。今夜、星を観てみようなど考えていた。
「今を生きるか…」
潤伍はスッキリとした笑顔を、身を丸くする2人に向けた。
「…笑った」
「…笑ったな」
自分の中のいろんな感情が渦巻いていたが、少し心の軽くなった潤伍は、その日のうちに榛名を後にした。