SUN FOREVER | 鱗粉転写
Kとの出会いの続き。


石橋楽器横浜店の前での待ち合わせのこと。

KとBassのあっちゃん、GuitarのMZKの三人が現れた。
人の良さそうなあっちゃんに今時っぽいアッシュカラーの髪のMZK。
でもやっぱり一際Kは印象に残っている。
キャップを深く被って、チェックのシャツの胸元から覗く刺青。
(当時はそんなに沢山は入っていなかったからね。)
首にはドッグタグ。
茶色いクセのある髪の毛。

ま、印象的だったのはこの後、Kが運転するGundogの機材車の助手席に僕は座らせてもらったからだとは思うけれど。

白い日産ホーミーで、後部座席は取っ払われ毛布が敷いてあった。
バンドの機材車にありがちな、ボディには沢山のボコボコの傷。
ガラスは当然のようにスモークが張り巡されていて、外からは中が見えない。

僕は初対面の人の車に乗るのは抵抗がある。
勿論、今でも。
しかも、直前のバンドが崩壊したきっかけを作った人物と初対面の時に
その人の車に乗せられたこともあって、普段の僕だったら断っていただろう。

でも何故か
「ちょっとイヤだなぁ」
と思いつつ乗ったんだよね。

一緒にスタジオに入るようになって何かの折に
「実はあの時車に乗りたくなかったんだ」
ってKに言ったら大笑いされたよ。

そりゃ初対面で出てきた相手がKみたいなイカツイ人だったら普通なら倦厭するでしょ。

話は戻して、とりあえず車に乗り込み話しながら適当に走り出した。

先ずは僕がDTMでプログラミングした楽曲のテープをカーステレオで流した。
「こんな感じのをやりたいのだけれど...」

その時の曲、そのうちやりたいね。

当時の僕はヘヴィメタル、特にスピードメタルのドラムばかり叩いていた。
どういうのか分からない人は、X JapanのBlueBloodとかSilentJealousyが正にソレです。
というか、僕はあのテの曲はモロにYOSHIKIに影響を受けているので....。

次にKが
「とりあえず今度のバンドでやる曲のデモ」
と言って聴かせてくれた。
僕の記憶が正しければ
「Sun For Ever」
という題名の曲。

割と緩いテンポでヘヴィロックの基本とも言えるリズムの組み方をしていた曲。

イントロから良い感じで歌が入った瞬間、虜になった。
Aメロから良いんだよね。
しかもKの歌声だし。
曲としてもほぼ完成という感じで、ヴォーカルコーラスも完璧だった。

彼の歌と言うのはその頃から素晴らしかった。
「この曲で世間に通用しなかったら、どんな曲も通用しないだろうね」
僕はそう彼に言った。

鳥肌がたったもん。
僕は回想していて思った。
あれは彼の曲が良かったのか、歌が良かったのか。

勿論、両方良かったんだよ。

今まで出会った人から貰った音源で未だにダントツの作品。
それ以前に人の歌で心を鷲掴みにされたのは今のところこれが最初で最後。

僕は確信した。
絶対にこのバンドは世の中の陽の当たる場所に出られるってね。
数年後、その予感は見事的中。
メジャーレーベルと契約したのを知った時は自分のことのように嬉しかったし、
「はっきり言って当然だよね。」
とも思った。
僕がどれだけ彼らのことを買っていたことを分かって貰えるだろうか?

素直にKに伝えた。
「自分のやりたい音楽ではないけれど、凄い素晴らしいと思う」

普通ならこれで
「それは残念、お互いに頑張りましょう」
という感じで終わってしまいそうなところなのだけれど

Kはぶっきらぼうに
「それじゃ一度スタジオに入ってみようよ」

僕は久しくドラムを叩いていなかったこともあって快諾したよ。
「無責任に遊ぶ感じでも良いのなら。」

楽器屋の前から走り出して、結局行くアテがなく横浜駅東口のバスターミナルに車を止めて
曲を聴かせあってそんなやり取りをしていた。
案外時間があってしまっていた。

バスにクラクションを鳴らされ、運転手さんに怒鳴られた。
「さっきからずっと止まっていてジャマだからどいて」
Kは平然と
「わりぃ、すぐどきます」
そのバス、どうやら二周して戻ってきたらしい。

皆さん、バスターミナルに車を止めちゃいけませんよ。

スタジオに入る日だけ決めて時間は追って連絡くれることになった。
そしてウチの近くまで送ってくれたのでした。

続く。