Ⅱ-1 日中いずれかの略字に問題がある場合
「仏」と「佛」
「広」と「广」
「芸」と「艺」
「雲」と「云」
「壇」と「坛」
「云」の使われ方

「聴」と「听」
●「聽」チャウ(→チョウ)、tīng→(日)「聴」、(中)「听」
●「廳」チャウ(→チョウ)、tīng→(日)「庁」、(中)「厅」

「話を聴く」の「聽」は、日本では旧字に近い略字「聴」だが、中国では、なぜか耳編でもなく「听」となる。「听」はもともと、「近」jìnのように「斤」jīnを音符として、口をあけて笑う意をあらわす形声文字で、「聽」の略字として使われていたものらしい。

謝世涯『研究』によると、明代では「廳」を「广(摩垂れ)」の中に「听」を書いてあらわす俗字があったという。それで建国から間もないころの「改革草案」には、「廳」を「厂(雁垂れ)」の右下に「听」であらわす字体も提案されていたという。

 『学研漢和』では「听」は現代漢語でyĭnとなるはずで、「聽」の略字としてのtīngも記載されている。ならば、たとえば、耳垢を意味する「耵」dīngの異読としてtīngを採用し、「耵」を「聽」の代用にしてもよかったのにと思う。

「坏」と「环」
●「壞」ヱ(=ゑ)、クワイ、huài→(日)「壊」、(中)「坏」
●「環」クワン、huán→(日)「環」(もとのまま)、(中)「环」

 「懷」huáiと「還」huán、háiも、中国ではそれぞれ「怀」「还」になる。「圜」huán、yuánだけはもとの字体のまま。

「壞」と「環」をそれぞれ「坏」と「环」としたことで、「坏」と「环」が紛らわしくなった。それだけでなく、「坏」は本来、pīという発音で、日干しレンガをあらわす語だったのだが、「壞」の略字に代用されたので、それと区別するために「坯」pīと書かれることになった。

これと似た現象として、「寧」níng、nìngが「宁」に簡体字化されたので「薴」níngが「苧」になり、それと重なるので、もともとの「苧」zhùは「苎」と書かれることになった。それにならって、「貯」zhùや「佇」zhùも同じ運命をたどっている。

謝世涯『研究』によると、「寧」を「宁」にする略字は唐代の刊本に出てくるという。

「円」と「元」
●「圓」ヱン(=ゑん)、yuán→(日)「円」、(中)「圆」

 中国の貨幣単位の「元」yuánは、「圓」yuánと同じ音なので十元札に「拾圆」とある。日本円は「日元」Rìyuánになり、ユーロは「欧元」Ōuyuánになる。¥は、中国元Yuánの記号でもあるので、日本人が中国で買い物をするとき、日本円Yenと間違えやすい。中国元の記号にはRMB(RénMínBì=「人民幣」)も多く使われるが、これなら確実である。

中国人は日本人が書く「円」という漢字をよく「丹」dānと勘違いする。大連では方言化して「丹」dānが「日本円」を意味する場合がある。

「澤」「沢」
「仮」「假」「蝦」
「葉」「叶」