★【自由席主体→いきなり全車指定席で利用低迷】特急すずらんガラガラ…客が逃げるに決まっている

 

 

 

 

 

JR北海道の特急すずらん(札幌~室蘭)は2024年3月16日から「全車指定席」に切り替えた。車両は789系1000番台または785系の5両である。それ以前は(3)4号車が普通車指定席でそれ以外は普通車自由席(3~4両)であった。自由席主体の特急であった。出自や歴史をたどると自由席主体の急行を特急に格上げした経緯があり、千歳、沼ノ端、鷲別などの特急北斗(札幌~函館)が止まらない駅にも止まって行くのが特徴だ。

全車指定席とした理由としては、「途中駅からの着席機会の確保」とJR北海道は公表しているがこれは表向きの事情であって、裏向きの事情(本音)は収益アップ(客単価向上)である。同じ特急券でも自由席券よりも指定席券の方が高いのでその分収益が期待出来る。当然「定価」で乗ってもらった方が収益アップにはつながるので、可能であれば割引きっぷは売りたくない。

そこでJR北海道は3月15日をもって割引きっぷの多くを廃止した。従前は乗車当日購入でも定価の半額程度で買える往復割引切符が存在したが、実際にはこのきっぷの存在が特急すずらんの利用を下支えしていたのは、3月16日以降に一般にはわかった事である(社内ではわかっていたはずだが)。

一応は「えきねっと」による割引きっぷもあるが、乗車する数日前までに予約購入を済ませる必要がある。当日急に移動が決まった場合は「定価」で乗る以外選択肢が無くなっている。さらに北海道では札幌都市圏を除けば鉄道利用は極めて少ない。冬ならばまだしも、そうではない時期は自動車があれば間違えなくそれになる。自動車で300キロ、400キロも北の大地を移動するのは北海道では「当たり前」である。E5道央自動車道などの有料道路もあるが、一般国道も街中を除けば70~80キロ走行(正確に言えば交通違反だが法定速度通り走っている自動車はまず無い・100キロ程度の走行もザラにある)が可能な道路条件なので、変に鉄道で行くよりも「安くて速い」のも”内地”にはない特徴となっている。

しかし、客は価格にシビアである。「定価主義」になったJR北海道とはさっさと見切りをつけて、高速バスに移行している。その結果札幌と各地を結ぶ高速バスが満席状態で積み残しも多発している。室蘭市役所のように行政も出張費の計算をJRの価格を基本としていたが、それを高速バスの価格を基本とする自治体も出てきている。

…前置きが長くなったが、自由席主体だった時の特急すずらんに乗って状況を見てみた。

※2022年9月19日(月)乗車・列車編成・時刻・描写などは全て当時のもの

 

【室蘭本線の簡単な歴史と現状】

 

 

↑室蘭本線の支線と言う扱いで終着駅となるのが室蘭駅。ここが室蘭市の中心部と解釈して良い。対外的な入口となるのが東室蘭駅であるが、ここは交通の要所の意味合いが強い。これと似たのが新夕張駅と夕張駅(2019年4月1日廃止)であった。

室蘭に鉄道が敷かれた理由と言うのは「炭鉄港」と言う意味合いが強い。夕張や栗山と言った地域で採掘された石炭を鉄道を使い室蘭港まで運び、そこから船に載せ替えて本州に出荷していた歴史を持つ。

しかし、昭和のエネルギー革命で石炭の採掘が終了。電気やガスにエネルギーが転換されると石炭輸送鉄道としての役割は終えた。いつしか貨物列車主体から旅客列車主体になる。これは九州の筑豊本線等の筑豊地方の路線群と同様の経緯を持つ。

函館本線は函館から森・長万部を経由し内陸へと入り俱知安へと進んで行く。一方で海側を通るのが室蘭本線で長万部~苫小牧(正確には沼ノ端で千歳線に分岐)は函館本線とセットで輸送体系が組み立てられてある。

JR発足後は「山線」経由の特急は臨時列車を除き消滅し、国鉄時代には考える事も出来なかった超ローカル線に埋没している。H100形DECMOの単行電気式機関車が数時間に1本(最大で7時間程度列車の運行が無い所もある)程度で済む客数しかいない。

北海道新幹線札幌開業が2035年頃とされるが(元々は2030年度末であったが工事が難航している等の理由で2024年5月に時期の変更をした)一応長万部~小樽間は鉄道の廃止を決めた。この辺の経緯や問題点については当記事と話が異なるので細かくは述べないが、「山線」は長距離輸送を行う鉄道ではなくなっている。

その代わりとなるのが「海線」の室蘭本線であるが、長万部~苫小牧の通過利用が多いのも特徴。「札幌~函館」と言う北海道の大幹線経路の一部を形成し、本州方面へ行くのであれば(鉄道で)ほぼ確実に通過するルートだ。道中に洞爺、伊達紋別、東室蘭、登別、白老と言った利用が多い駅(北海道では有名な観光地)も目立つ。

しかしそれを取り上げてしまえば、多くても1日に数百人の利用に満たない小駅が多い。流石に東室蘭~苫小牧では「1両ワンマン」と言う普通列車は現存しないはずだが、「2両ワンマン」は標準である。この区間は電化しているにも関わらず気動車による運行であった。こうなったのは2010年頃からであるが、その前は711系電車による運転だった。2023年5月20日から新型電車737系を投入し電車運転を再開した(但し一部はH100形による気動車運転もある)。

JR北海道はKitacaと言うICカードがある。全国交通系ICカードとされ北海道以外でも使う事は出来るが、北海道における利用可能区間は極めて小さい。ザックリ言って「札幌圏だけ」である。具体的には函館本線小樽~岩見沢(~旭川)、学園都市線、千歳線、室蘭本線(沼ノ端~苫小牧)だけである。岩見沢~旭川は使えない時期が長かったが、2024年3月16日から使えるようになった。函館本線函館~新函館北斗も同日から使えるようになっている。一方で道内では比較的利用が多いはずの苫小牧~室蘭については未だに使えない。使えるようにする計画すら出ていない。

私が思うには737系やH100形に車載器を搭載して対応すれば良い。要はJR西日本の七尾線や境線などと同じやり方だ。だがそれも設置費・維持費・費用対効果の面から考えると「分に会わない」ので出来ないのだろう。車載器タイプだったら北海道全域で可能なようにも見える。改札機は特急停車駅だけに置いておけば良いのである。それも許さない状況化なのはJR北海道の財務状況が深刻と受け止めるしかない。

 

【列車別改札の室蘭駅。Kitacaは使えず】

 

↑室蘭駅の改札口。自動改札機は導入されていない。なお東室蘭駅には自動改札機が導入されているがKitacaには対応していない。先ほど述べたように室蘭ではKitacaは使えない。乗車券は「紙のきっぷ」しか選択肢が無い。「チケットレス」と言う言葉は程遠い。JR北海道にもチケットレス特急券は一応存在する。「えきねっと」のシステムを使っている(要は特急あずさ等の首都圏の特急と同じ)。しかし使えるのは「札幌圏」だけ。2024年3月16日から特急ライラック・特急カムイの岩見沢~旭川でも使えるようになった。割引は存在しない(定価)。

これをヨシとするか?悪しとするか?首都圏ではチケットレス特急券は100円引き(えきねっと)だし、関西でも200円引き(e5489)である。これが私鉄特急の場合はやはり定価が多い。考え方が違っていて常連さんに対してはポイント制度を設けてポイントが溜まったらポイント(つまりタダ)で特急に乗せるというものだ。JRグループでは「エクスプレス予約」等で一部あるが、「えきねっと」(JREポイントと提携云々の話があるがその辺の事は述べない)や「e5489」(同左)でもあるようだが、基本的には「無いに等しい」。

この当時「話せる券売機」なるものは室蘭駅には設置されていない。指定席特急券を買う場合は「みどりの窓口」でとなる。券売機も一応1台あるがこれは近距離乗車券用である。

室蘭駅の特徴が「列車別改札」。発車の10分前にならないと改札口は開かない。それまでは駅舎内の待合室(ジュース自販機あり・トイレあり・待ちイスあり)で待たないといけない。このスタイル北海道では標準的である。冬の寒いときに長時間ホームで待ってもらうよりも発車直前まで暖かい室内で待ってもらった方が良いに決まっているのだ。

「北海道フリーパス」を使っていたので、改札口が開くとこれを駅員に見せるだけで改札は終了。長い通路を歩き島式1面2線ホームへ進む。

 

【特急すずらん=自由席特急のブランドイメージ。「いきなり指定席」ならば”客が逃げるに決まっている”】

 

↑ホームは1面2線のシンプルな構造。昔は無数に線路があったようだが(鉄道と港が直結していた時代)現状は大幅に整理されている。線路の隣には駐車場、パチンコ店、スーパーが並ぶ。

 

 

↑室蘭16時30分発の1009М特急すずらん9号札幌行きに乗る。車両は789系1000番台・HL1007編成であった。特急カムイと同じ車両である。車両運用は特急すずらん・特急カムイで一体なのか、分けてあるのかはわからない。所属は札幌運転所(札サウ)なので札幌で担当列車を入れ替える事は可能である。

この当時はまだあった自由席。先頭5号車クハ789-2007に乗る。一応「すずらん」と言うヘッドマークがあるが、東室蘭駅までは普通列車扱いである。東室蘭駅で種別変更し特急に変わる。これも2024年3月16日から変更になり、全区間特急として運行される。但し室蘭~東室蘭間に関しては従来通り乗車券だけで乗れる(特急券不要)。

 

 

↑車内はこんな感じである。電源コンセントは搭載されていない。これは他のJR北海道の特急でも言える。グリーン車やUシートの一部には電源コンセント搭載車もあるが、「ええ席」に座らないと使う事が出来ない。新幹線では当たり前なのに北海道では「オプションサービス」となるのは何か腑に落ちる。電源コンセントが欲しいならば確実に搭載されている高速バスにする…理由が十分わかる。だから鉄道を選ぶ理由は他に無いのだ。JRを選ぶメリット?…北海道では高速バスや自動車・飛行機と比べるとメリットが乏しいと思う。車両改造で設置するほどの余裕がなかろう。

 

室蘭駅での乗車は少なかったが、東室蘭駅からは乗車が急に増える。自由席も窓側がほぼ埋まる状況だ。実質的には次の幌別駅まで各駅停車だ。貨物列車の車庫(幌別機関区)が跡地を見るのが恒例となっている。登別駅でも乗車がありさらに座席が埋まる。この日は9月のシルバーウイーク1回目の最終日だったので、札幌へ帰る客もそれなりに見られる。

登別発車後に車掌が出て来て検札。自由席の場合客1人ずつにきっぷの提示を求めないと本当に乗車券と特急券があるのかわからない。指定席ならば指定の座席に座っていれば検札は実施しない。車掌が持っている機械(正確には「車載器」と言うようだ)で指定席券の発売状況と実際の着席状況を照合し、未発売の場所に客が座っていれば「もしもし」である。

トイレに行くついでに4号車指定席Uシートの様子を見るとたったの3人しか乗っていなかった。特急すずらん=自由席特急なのだ。そういうブランドイメージが付いた以上、それを”かき消す”事は並大抵ではない。「段階を追って」ならば客も付いて行けたと思うが、それをやらずに「いきなり全車指定席」ならば客が逃げるに決まっている。

素人考えでもわかる事がJR北海道の上層部にはわからないのか?あまりにも「現場を知らなすぎ」である。

 

【「安くて速い」が無いと客は乗らない】

苫小牧駅は17時24分の発車。5人程度が乗って来る。ここからは「札幌圏」なのでKitacaも使える。但しそれは乗車券として…である。券売機で自由席特急券を買ってしまえばKitacaの残高で支払う事が出来るが、クレジットカードで払いたいならば「話せる券売機」か「みどりの窓口」でとなる。バーコード決済(スマホ決済)には対応していない。支払い方法は現金かクレジットカードの二択である。

苫小牧~札幌だと自由席特急券は1150円であった。これが全車指定席に伴い1680円に値上げした。座席未指定券(空席に着席可能)も存在するが同額である。えきねっとチケットレス特急券もあるが、前に述べた通り割引は無い(定価)。この区間だと普通列車のみ・普通列車+快速エアポート(南千歳駅等で乗り換え)と言う「特急非課金コース」も現実味を増す。時間がかかって良いのであれば…だが、後者の場合はそれなりに速達性があるので前者に比べれば断然速い。

 

沼ノ端駅にも停車。17時31分。2人乗る。この駅は無人駅のはずである。現地調査していないので詳細は不明だが、券売機はあるのか?あったとしても近距離乗車券用で「話せる券売機」は存在しないと思う。こういう駅から全車指定席特急に乗車させる…というのはいくら何でも無茶な政策と言わざるを得ない。最低でも「話せる券売機」の1台程度は設置するべきである。特急停車駅でしかも全車指定席の特急しか止まらないのに、駅では指定席特急券(+乗車券)が買えないのであれば、営業体制に大いに問題がある。これは最初から自ら乗らないでくれと言っているのと同じである。

 

南千歳駅には17時43分着。多少の下車。新千歳空港・石勝線(根室本線・十勝・道東)方面への乗り換え駅だが、この駅は流石に有人駅で「話せる券売機」もある(比較的初期に導入した)。札幌までは自由席特急券が630円。大して快速エアポート指定席Uシートは840円…。快速の方が高い。10年前は300円だったが、530円に値上げした後、840円に再値上げ。10年で3倍も値上がりは酷いものである。これならば「たまの旅行」だったら乗れそうだが、「普段使い」の人が乗るには間違えなく敬遠される。だから快速エアポートの自由席(一般車)は終日混雑が激しい。インバウンド+野球輸送も加わったので混雑はより一層激しくなっているはずだ。3分後に快速エアポート177号が追いかけてくるが、流石に特急なので快速エアポートに抜かれる事は無い(札幌まで逃げ切る)。

 

 

↑特急すずらん9号は札幌到着後(18時16分着)は回送になる。この後の車両運用が気になる。

室蘭本線から特急すずらんに乗った客は、南千歳、千歳、新札幌、札幌までの乗車が多い。これは他の特急でも言える話だが「札幌圏」以外からJRを使う場合「札幌圏」までの利用が前提となっている。それでも厳しい所があり結局は「安くて速い」高速バスや自動車に客を奪われているのが現状だ。2024年3月16日以降「全車指定席」と言う”オウンゴール”で特急すずらんガラガラの状況を自ら生み出した。

JR北海道は「客が2割減っている」と言う事は認めている。しかし値段が安いきっぷ(えきねっとに頼らず駅購入可能なきっぷ)を新たに販売する動きは今の所(2024年6月9日現在)無い。あくまでも「えきねっと普及促進」が基本方針だが、そもそも道民は「えきねっと」なんか使っていないし、会員登録も必要でたまにしか乗らないJRのためにわざわざネット購入に移行するか?と言ったらそれは無理ゲーである。

「安くて速い」

がないと北海道の交通機関は”内地”以上に生き残っていけない感じがした。