★2017年3月11日に全線運転再開した井川線だが・・・

大井川鐵道井川線は2017年3月11日に接岨峡温泉~井川で運転再開した。同区間では2014年に発生した土砂崩れのため運休が続いていた。
乗ってみるとわかるが、井川線は典型的な観光路線で地元の人による日常的な利用が皆無に等しいのが実態だ。
例えば、千頭~奥泉だと井川線では30分程度かかるが、並行する道路は整備されており同区間は7~8分である。
これが長島ダム、接岨峡温泉、閑蔵だと、もっと開いてきて井川線だとゆうに60分以上かかるのにクルマでは20~30分の世界だ。
井川線は静岡県屈指の絶景路線であるが、それは「自然の厳しさ」との戦いでもある。

井川線は正確に言うと大井川鐵道の路線ではなく同社は委託者の立場。本来の所有者は中部電力で、歴史を見ると大井川流域のダム建設のために必要な物資を運ぶために作られた鉄道で、大井川本線も同様である。
個人的には意外と井川線は未乗車であった。区間にして奥大井湖上~井川。クルマでは何回も言った事があるが、列車では皆無であった。
今回は、大井川鐵道が販売している「大井川周遊きっぷ」(4,400円・2日間有効・大井川鐵道と同社バス全線乗車可能)を活用した。

大井川鐵道 金谷駅

↑しかし、8月11日(金)の朝に金谷駅に行ってみると、閑蔵~井川で台風による落石被害の影響で8月9日から運休していた。
この時点で運再開予定は未定。

大井川鐵道 路線バス 閑蔵にて

↑閑蔵駅周辺はご覧のように何もない。時間を潰す事が出来る所と言えば、駅近くの小さな飲食店だけだ。
急な運休となったので、予定変更に頭を抱えたが、8月11日(金)の井川14:49発の206レから運転再開した事を乗車当日の8月12日(土)朝知った。
と言う事で、井川までの全区間乗車して、井川線の様子を知るべく再び大井川鐵道に乗った。





↑金谷7:48発の千頭行き3レは元近鉄の16000系16002編成。
右側のJR線ホームでは静岡行きのホームライナー5384Mが通過した。
思ったよりも混雑が激しい列車で、大井川本線の普通列車はガラガラの事も多いが、どの駅でも乗り降りがあった。需要は少ないながらも川根地域の重要な公共交通機関であり”足”として機能している事がわかった。お客に紛れて(正確に言うとちゃんとしたお客だが)千頭で開催中のトーマスフェスタの「STAFF」(スタッフ)と書いた名札をぶら下げている人も多数。通勤の足としても機能していた。

★倒木・落石による急停車2連発!

【列車番号】201レ
【時刻】千頭9:12発
【車両】(先頭から)クハ601+スロフ303+スロフ313+スロフ317+スロフ307+DD203

井川線は今や日本では珍しい動力集中方式による運転だ。クハがあるから一見すると動力分散方式(通常の電車や気動車と同じ)と思われがちだが、動力は千頭方に連結したディーゼル機関車から得て、制御はクハで行う。これは井川行きの場合で、千頭行きの場合はディーゼル機関車から直接行う。
また、電化区間である日本で唯一のアプト式のアプトいちしろ~長島ダムの1駅に限り、電気機関車から押してもらう(井川行き)押される(千頭行き)事により進行しているため、同区間ではディーゼル機関は使用しない。







↑千頭駅の井川線ホームに行くと、大井川本線ホームよりも高さが低い。軌間こそは両者同じだが、車両限界・建築限界は極端に異なる。
ドアは手で明ける。お客が乗る客車は1両ずつ独立しているため、ドア付近にブレーキ装置や放送装置が搭載されているが、車内は貫通していないため、車両同士の移動は外から出ないと出来ない。

私は前から数えて3両目のスロフ313に乗車。前側の連結付近がボックス形状となっており、ここに着席。荷棚は特にないため、座席下のスペースに収納。エアコンは存在せず、窓が全開。外から入ってくる風こそが涼しい風で、井川線は「天然クーラー」である。
昼間は心地よい風だが、夕方になってくると寒いくらいで、これが10月上旬に数年前乗った時にそのように感じたのを今でも覚えている。

各車両15人位が乗った所で発車。ワンマン運転ではなく車掌が乗務。千頭発車前に進行方向右側が良い景色が見られると言うアナウンスがあったので、右側の座席を確保。千頭を発車すると主な駅の時刻、特有の注意点として窓から顔を出さない事、車内のブレーキ装置を扱わない事、ドアは手で明ける事、走行中はドアを開けない事、落石や倒木で急停車する事があると知らされる。

後ろに機関車があって、前に客車があるので起動までに時間がかかる事、独特の乗り心地があって、車掌が運転士に乗降終了の合図を笛で出すと運転士が発車する汽笛で応えた上で、ゆっくりとディーゼルが起動すると言った流れだ。車掌から運転士への合図には電鈴や無線は存在しない。

大井川鐵道井川線 川根両国~沢間

↑川根両国~沢間
車両区がある川根両国を発車。基本的に昼間は千頭の留置線に留め置きしておくことが多い。両国車両区に止まっていた車両はほとんどなかった。
大井川に沿った線形で、曲線がキツく地形も急に険しくなる。「森林鉄道」が由来の井川線は、昼間でも陽が当たりにくい山の中を通るため、自然がむき出しだ。
すると、何の予告なく急停車した。

大井川鐵道井川線 川根両国~沢間(倒木で急停車)

↑運転士と車掌の連絡は車内電話で実施。電鈴が存在しないため、「業務放送」の形で一旦お客も聴く事が出来る車内放送で車掌に「電話を取るように」と伝えられて、細かくやり取り。その後お客に対しての放送と言う流れ。
急停車した理由は、倒木。運転士(女性だったが)線路上を確認した上で倒木を除去。2分後に運転再開となった。
手で除去出来るレベルならば、すぐに運転再開できるがそうでない大規模倒木となれば、その時点で運行中止するしかない。
クルマが満足に近づけない場所も多い井川線なので、来た道を列車で戻るしかない。機関車+客車と言っても機関車の機回しは不要なので、進行エンドを変えるだけで可能。この辺は普通の電車や気動車と変わらない。
周辺を見ればわかるが、誰が見ても倒木・落石が発生してもおかしくない場所で、遅れても文句を言う人なんかいない。

大井川鐵道井川線 沢間~土本

↑沢間~土本
沢間はその昔「千頭森林鉄道」があったと言う。その廃線跡が健在だ。
写真の部分は大井川や寸又川等の複数の川が合流する地点である。結構山の険しい部分だ。

大井川鐵道井川線 土本駅

大井川鐵道井川線 土本駅

↑土本駅は秘境駅としても知られている。集落には4軒の住宅があるが全て「土本」姓である。井川線の駅が出来るまでは道路もなく、まさに陸の孤島。駅が出来てからは重要な交通手段で、井川線で生活物資も輸送していた。今は道路もある。クルマで通った事があるが、かなり山奥で車幅も狭く、落石や倒木した跡も多く走りにくい。

大井川鐵道井川線 土本~川根小山(落石で急停車)

↑土本を発車して少しして、再び急停車。今度は落石。車掌も線路上に降りて安全を確認した。このような場所ならば、落石、倒木が起きておかしくなく、これを防止しろと言っても限界があるのではないか?
川根小山は列車交換が可能な構造だが、201レでは交換列車なくそのまま発車。交換可能駅でも決して優雅な街ではなく、土本と同じレベルの秘境である。
奥泉では30人以上が乗ってきた。寸又峡からのアクセスが良くてクルマやバスで来た人がほとんど。「井川線お試し乗車」のような面々で、空席は完全に消えた。

大井川鐵道井川線 奥泉~アプトいちしろ

大井川鐵道井川線 奥泉~アプトいちしろ

↑奥泉~アプトいちしろ
写真の赤い橋は静岡県道388号線。千頭から道なりに寸又峡方面に向かって、奥泉駅を過ぎて少し登ると同県道と分岐。そのまま直進すれば寸又峡に行けるが、分岐した同県道に入れば長島ダムや接岨峡温泉、井川に行く事が可能だ。ここもクルマでよくとおるが、やはり川の水面に近い井川線から見るのは格別だ。

2回目に続く。