1月15日(金)1時55分ごろ、群馬・長野県境の国道18号線碓氷バイパスでお客13人が死亡したスキーバス事故。

「【運行管理ずさん・安全軽視の実態】軽井沢スキーバス事故について」(2016年1月16日当ブログ)

「【運行指示書不備】軽井沢スキーバス事故について2」(2016年1月17日当ブログ)


↑今回は、先日の続きと続報的な事として書きたいと思う。
かなりいろいろな事が明らかになっている。
偶然だと思うがバスの事故が多発している。
天気等の自然災害が原因によるもの(福井県あわら市の事故)を除けば、バスの運行側の責任や問題によるものが目立つ。
バス運転士は典型的な労働集約産業。
つまり、コストの多くが人件費で、バス会社が利益を出すには以下に人件費カットするかが至上命題。その”しわ寄せ”は現場の運転士に来るもので、「低賃金高労働」の典型で、休日や給料が少ないと言う”ブラック企業化”になっているのだ。
広く見れば、日本社会の底辺と言うか、現実の全てがバス運転士と言う職業に詰まっているものだと実感した。これはタクシーでも同様である。
同じ運転士でも鉄道や航空機とは大違いだ。
いくら素晴らしい安全対策が出来ても、社会がバス業界が全体的に、働きやすい環境にしない限りこのような事故はなくならない。

お亡くなりになったみなさんには改めてお悔やみを申し上げたい。
また、事故の被害に遭われたみなさんついては、1日も早く快復され元通りの生活が出来る事を願いたい。

★ギヤがニュートラルで急坂を下がった?と言う事は制動装置未使用か?

阪急高速バス・大阪ナンバー3088

↑事故を起こしたバスと同一車種の三菱エアロクイーンの新しいタイプ。(この写真の運行会社等とは直接関係ない。イメージ写真)

三菱エアロクイーンはスーパーハイデッカーのバスとして有名だ。
「欠陥車」と言う事は聞いた事がなく、制動装置(ブレーキ)やエンジン等に故障は認められなかった。
三菱ふそうの整備工場に事故車を持って行き、調査したらギヤがニュートラル(以下、「N」と略)だった。
バスの制動方法は3つ。
①フットブレーキ(足元のブレーキペダルを踏む)
②エンジンブレーキ(ギヤの段数を下げる)
③排気ブレーキ(補助ブレーキが正式名称。エンジンブレーキの力を強めるために使用するもので、大型車特有の制動装置)
バスの止め方としては、上記の②や③を使用し減速し、最後に①を使用して完全停止。
普通のクルマ(オートマ車)だと②を使用せず、①だけで減速するドライバーが極めて多いが、大型車では低速でない限りそれはありえないこと。

仮にギヤNのまま現場に突入した事になると、十分減速していなかったことが明白だ。そうなると制動方法は①に頼るしかない。
現場付近は急な下り坂。①に頼ると制動装置が故障し止まれなくなるリスクが高くなる。これは運転免許を持っている人ならば全員わかる基本中の基本的な事だ。
ギヤがNになったのは、故意によるもの、ギヤが故障した、急病で操作出来なくなった、ガードレールに衝突する時点では何らかのギヤが投入されていたが、衝突の衝撃でギヤがNに戻ってしまった事も考えられる。
この点は現時点では不明である。

大型バスの運転不慣れな運転士とは言え、いくらなんでもギヤの投入方法がわからない、排気ブレーキの使用方法がわからない、①だけでしか制動しない事は一般的に考えてありえないはずだ。
個人的な仮説を1つ立てる。
何らかの原因でギヤ投入出来なくなり、しかも急な下り坂だったので①での制御やハンドルコントロールでも困難になり、がけ下に転落したのではないか。
マニュアル車ではギヤ投入出来なくなる事もよくある話で、その場合ギヤはNにして①だけで停止する事もある。私もやった事がある。

★国交省による抜き打ち監査は効果があるか疑問

国交省や警察は東京・新宿で、スキーバスを中心に抜き打ちで監査した。
監査内容は、運行指示書の有無や適切な記入がなされているか、運転免許の保有、車両の状態検査等である。
1月21日(木)の夜に実施したバスは6台。そのうちの5台で運行指示書に不備があった。中小零細バス会社では、しっかりそれを使用しているとは言えない実態が丸見えだ。
いかに「安全は約束しない」バスが多いことがわかった。
運行指示書や車両状態等に不備があれば、国交省や警察は権限的に、その場で「運行停止」を命令する事も可能なはずだ。
それくらいの事はやっていただきたい。
そうなると、お客が困るので代行の交通機関や宿泊場所等の救済策を国交省や警察は用意するべきである。

今後全国的に抜き打ち監査をする方針だ。しかし、バス会社・バス台数は監査員に対して圧倒的に多いので、全てを国交省自らが出来ない。そのため、業務を民間委託する方向で検討する。
私は抜き打ち監査自体に効果があるのか疑問だ。
「抜き打ち」とは称しているものの、バス業界内部ではウワサで、「○日に○×バス停で監査が来るかも。問題ないように準備しておけ」と言う情報は絶対にある。
監査がある時だけ問題ないように準備しておき、それがない時は何もやらない。つまり、実質的に法令違反状態のままにする、悪質なバス会社もあるだろう。
パフォーマンス的に、しかも長期ではなく一時的にやっている感が強い。これは単に調査に過ぎず、是正させる所まで至っていないと思う。
「この運行指示書ではダメだね。今度から気を付けてね」的な甘い対応で終わっているのではないか。
現場ではどんな監査をしているか不明だが、監査の時点で不備が指摘されたら、バス会社の運行管理者や社長を現場に呼び出して、現場で現実を見るべきである。そこまでやらないならば、なんとも中途半端なパフォーマンス的な監査と言わざるを得ない。
ならば、やらなくても良い。

★日本バス協会認定の「貸切バス安全性認定評価制度」


しずてつジャストライン・西久保 652

↑開いている前ドアの右側に、「NBA」と書いた緑色のマークが貼ってある。
これは、公益社団法人の「日本バス協会」(以下、「NBAと略)に加盟しているバス会社の車両に付ける事が出来るマーク。
加盟はあくまでも任意で、約2,200社が入っている。バス会社は全国で約4,500と言われているので、約半数が入っている計算になる。
加盟資格としては、各都道府県のバス協会に入っている事で、セットで入会となるようだ。
路線バス会社のほとんどが加盟しており、JRバスも含まれる。
逆に言えば、中小零細のバス会社はNBA非加盟が多く、軽井沢スキーバス事故を起こした(株)イーエスピーもそうだったに違いない。

「貸切バス安全性評価認定制度」(NBAホームページ)

↑NBAの加入の有無は、バスのドアにマークが貼られており、簡単にわかる。
これは貸切・路線関係なく付いているが、貸切(観光バス)については、星のマークが付いたものも貼ってある。
これが、「貸切バス安全性評価認定制度」と言うもの。
「★」(一ツ星)「★★」(二ツ星)「★★★」(三ツ星)の3種類。
星の数が多いほど、安全に対する意識が高い事を証明する。
勘違いしてほしくないのが、「星マークが多いから事故は絶対におこなさない」と約束しているものではない。
詳しい説明は上記リンクに譲るが、三ツ星認定はかなり大変で、名の知れたバス会社でも一ツ星や二ツ星の所も少なくない。
当然事故が多いと星の数を増やす事は出来ない。元々三ツ星だったのに重大事故を起こしたり法令違反をした場合、星の数が減る格下げもありうる。九州の某有名バス会社がこれに該当する。
つまり、我々がバスを選ぶ際には、以前も申し上げた通り、JR・私鉄系の会社である事。
状況等によりそれが難しい場合、「NBA加盟・星の数が多い」事を重視するべきだ。

★免許制に戻せ

バスを運行出来る条件は、特定の要件を満たせばどんな法人でもなれる「許可制」「資格制」となっている。
これは規制緩和に伴うもので、以前は「免許制」だったのでバス会社になる事自体が大変だった。
(株)イーエスピーのように異業種からバス事業を始めた会社も少なくない。こういう会社に限って、安全に対する考え方が希薄、旅客バス運行で求められる最も基本的な事を知らない。
そんなバス会社に命を預けて良いのか?
素人的な会社が旅客運送のバスを動かしているのが現状だ。
それならば、以前のように免許制に戻し、バス会社になるための審査等ももっと厳しくしないといけない。そうでないと安全は守れない。