REAL はじめの一歩
今夜のダブル世界戦は興奮した。
http://www.jiji.com/jc/c?g=spo&k=2011013101052
いずれも烈しい打ち合い、しかし単なる殴り合いではなく、スポーツ漫画で描かれるような才能の煌めき、高度な技術、そして勇気と言う名の覚悟が見られた試合だった。
両試合に漫画「はじめの一歩」に通ずるものをいくつか感じた。
【1試合目】
WBAバンダム級タイトルマッチ 王者 李冽理 VS 挑戦者 下田昭文
下田選手が判定で勝利した。前半から中盤は足を使って頻繁にチャンピオンの間合いに出入りし、後半はより近い距離でチャンピオンを中心に円を描いていた。ハンドスピードが速い上に相手の出鼻を取ってカウンターを当てるのが巧い。少々無理な体勢からでもしっかりと当てていた。
まるで、漫画「はじめの一歩」の板垣学のようだった。
速い足と手に天才的なボクシングセンスを武器に相手を翻弄するのが板垣のスタイルだが、距離を取って相手をコントロールするアウトボクシングという範疇には収まらない(ボクシングセンスというのはパンチを当てる・よけるのが巧いということ。実はこれが難しい。素人同士の喧嘩だと、大体お互いにパンチが当たらずに揉み合いになってしまう。パンチを当てるのもよけるのも距離感と身のこなしが揃わないとできない。訓練を積めば素人でもある程度できるようになるけど、それをあっさりと出来てしまうのが天才。これは学生の頃、某ジムに通った経験からの私論)。
柔軟な身体を前後左右上下に素早く動かしながら、思いもよらぬところからパンチを当て、相手が打ち返した時にはもうそこにいない。遥か遠くに居たり、真横に居たりと相手との間合いを自在に操る。
今日の下田選手に。板垣学に近いものをみた。ディフェンスに関して時折油断してパンチをもらうのも似ている。今26歳だそうで、今後が非常に楽しみだ。
【2試合目】
WBAスーパーフェザー級タイトルマッチ 王者 内山高志 VS 挑戦者 三浦隆司
この試合は「はじめの一歩」で将来描かれるかもしれない、
リカルド・マルチネス VS 幕の内一歩
を具現化したような内容だった。
内山選手はオリンピックを狙うようなアマチュアエリートからのプロ転向で、技術レベルが非常に高い。板垣学のような派手な巧さではなく、いかなる場合でも体幹が全く乱れないのが内山選手の凄さ。軸が乱れないから相手の動きが良く見えて、攻撃も防御も力強い。軸がぶれている、つまり身体が泳いでいる体勢からのパンチは腰が入ってないから効かないし、相手のパンチも連続してよけられない。当然スピードも伴わない。そう、内山選手に変則という要素は無い。いわば磨きあげられた基本で世界を獲ったのが内山選手で、「はじめの一歩」作中において精密機械と称される完全王者リカルド・マルチネスと同じカテゴリーにいる選手だと思う。
その内山選手が今夜はダウンを取られた。三浦選手渾身の左ストレートが風穴をあけたのだ。
両者の技術に大きな差があるのは一目瞭然で、事実結果は、内山選手の左ジャブ、フックが三浦選手の右目から視界を奪い、8R終了TKOで内山選手が勝利した。しかし、三浦選手が内山選手には恐怖を、観戦する我々には番狂わせを予感させたのは、単にダウンを奪ったからではない。相打ち覚悟で繰り出す左ストレートと右フックに勇気が籠っていたからだ。それは「はじめの一歩」の主人公幕の内一歩最大の武器である。
やはり、失う覚悟を持って何かを獲りにくる人間は怖い。一歩をKO寸前に追い込みながら、最後は逆転されてしまうライバル達がやけに身近に思えた、そんな試合だった。
今日は内山選手が勝利したが、漫画の方ではどのような展開が待っているのであろうか。改めてボクシングの魅力を実感させてくれた4人の選手に感謝しながら、先を待ちたい。

