2020年を目指すインドから学ぶ
- インド2020―世界大国へのビジョン/A.P.J.アブドゥル カラム
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■インドの成長は10年以上前に決まっていた
“インドは先進国になれるか”
本書は、2020年までにインドを先進国にするために必要な技術開発について提言し、そのロードマップを示したものである。主導したのは、1980年代前半に国産誘導ミサイルの開発に成功し、「ミサイルの父」と呼ばれるA.P.J.アブドゥル・カラム氏。2002年には、大統領となった。
国産ミサイル開発後の1988年、カラム氏は、インド国内産業の発展を目的に、TIFAC(情報技術予測評価委員会)を設立した。役割は、科学技術開発を主導することである。
1998年、カラム氏は、幅広い産業分野から500人に上る専門家を官民双方から動員し、冒頭の問いを投げかけた。
“インドは先進国になれるか”
国中から集まった頭脳たちの回答は、もちろん“Yes”だった。
■国家版クロスファンクショナルアプローチ
このロードマップが優れているのは、選択と集中の概念が盛り込まれていることだ。それは、本書の構成をみると明瞭だ。おおまかには、以下の様になっている。
1、仮説の提示(インドは先進国になれるか)
2、競合ベンチマーキング(成功国の国家ビジョンの分析と比較)
3、ビジョンの明示(将来の環境予測と強みを発揮できる中核技術の抽出)
4、各論の展開(抽出した技術の強化策提言)
5、提言の実現に必要な支援(インフラ整備と地道な啓蒙活動)
本書を貫いているのは、「先進国になる」という明確なゴールである。このゴールを全員が共有できたからこそ、500人もの最高の頭脳が集結し、同じベクトルを向いたのであろう。もちろんそこに、後進国のままでは国民を幸福にできないという危機感と、カラム氏というカリスマ的科学者のリーダーシップが存在したことを忘れてはならない。所属や面子を超えて多様な人材が大義の実現に一丸となった事実を考えると、彼らが成したことは、カルロス・ゴーン日産CEOが用いたクロスファンクショナルアプローチの国家版とも言えるかもしれない。
■国民主導のクロスファンクショナルチームを結成すべき
我が国においてもクロスファンクショナル的な改革アプローチは試みられてきたし、今もそれを求める声は大きい。自民党時代においては経済財政諮問会議、そして民主党が政権を握ってからは、国家戦略室から局になれず、今は政調会である。これらの仕組みを巧く用いたのは小泉純一郎元首相であるが、現在は誰も使いこなせていない。また、結局これらの仕組みと誰を選出するかは政治家が中心となり決めるのであって、彼らに都合の良い仕組みや人間が選出されてしまう危険性が常にある。しかし、コンセプトは間違っていない。
大義に賛同した有識者を集め、国家戦略を捻りだす、それ自体は間違っていないし、インドや日産だけではなく成功事例は世界中に沢山ある。
問題は、誰が音頭を取り、誰をメンバーとして選出するかであり、それを私たち国民が主導できるかどうかにある。なぜなら、今回の政権交代で政治家には期待できないことが明らかになったからだ。もう誰にも頼れない。私たちに国を、子供たちが生きる時代を憂う心があるならば、自分たちで行わなければならないのだ。
“誰が音頭を取り、誰を選出するか”この点について、今後の記事で取り上げてゆきたい。