世界経済が回復するなか、なぜ日本だけが取り残されるのか
- 世界経済が回復するなか、なぜ日本だけが取り残されるのか/野口 悠紀雄
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世界経済の雲行きがすっかり怪しくなってしまった。ユーロに続き、アメリカが発表する経済指標も明るくない。ユーロにおいては、既に経済対策がとられており、アメリカも先日約30兆円の追加経済対策を発表したばかりだ。
一方新興国に目を転じると、中国をはじめ活況の報道がなされている。しかし各国の内需が伸びているとは言え、未だ先進国への輸出がその経済の中心を担っているという基本構造に変わりはない。よって中国や韓国は自国通貨を安い水準に留めるべく対策を講じている。中国を例に取れば、日本国債の買い越しにそれが表れている。膨大な安い労働力で稼いだドルで円を買う。円の価値は上がり、ドルと元の価値は下がる。内需主導経済に移行するまで輸出競争力を維持する為の国家戦略であろう。アメリカにも恩を売るつもりかもしれない。
新興国だけではない、今や世界中で自国通貨安を狙った対策が積極的に行われている。株安でゼロ金利、さらに借金まみれの国であるにも関わらず、その通貨が高騰している理由はこのあたりにあるのだろう。つまり日本は、需要の減った先進国市場においても、需要が増えている新興国市場においても輸出競争力を失っているのだ。そんな中でものづくり企業が収益をあげるには、生産の移転しかないだろう。もはや製造業を日本に留めるのは不可能だ。団塊世代の分以上の雇用が失われる可能性が高い。
ではどうすればよいのか。本書の第8章に一つの答えがある。既に多くの識者が述べていることであるが、著者も内需拡大が鍵であると主張している。具体的には、介護、都市基盤整備に財源を投入し、加えて新しい産業を興すべきだと提案されている。介護分野においては、具体的な提案が為されている。例えば介護職の賃金水準をさらに引き上げ、沢山の介護関連施設を造る。そうすれば、介護それ自体の雇用増加のみならず建設業の雇用も維持できる、というようなふうである。しかし、都市基盤整備と新しい産業については具体案が無い。おそらくこの二つはセットで考えるべきものであろう。「将来はこの産業で食っていくから、こういう都市機能が必要」というのでなければならない。
本来であれば、今は速やかに経済対策が採られていなければならない時だ。単なる一時的バラ撒きではなく、著者が提案しているような「次の成長」に繋がる分野への投資にしっかりと財源を注入すべき時である。呑気に与党内で内乱などしている場合ではない。内乱をするにしても、この点のみが争点として取り上げられ、徹底的に掘り下げられていいはずである。ところがマスコミを通じて流れてくるのは抽象的なスローガンとあげ足とりの切り抜きばかりである。
「移ろいやすい世論」とは日本国民を風刺するものとしてよく用いられる表現だ。しかしながら具体案のないスローガンのみの政治ショーとそれをお笑い番組のように編集するマスコミ報道の中で一体どこに行けというのか。