Book Review 感情の地政学 | Man is what he reads.

Book Review 感情の地政学

「感情」の地政学――恐怖・屈辱・希望はいかにして世界を創り変えるか/ドミニク・モイジ
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このところ、いわゆる”地政学本”を書店店頭で見かけることが多くなっている。
ソ連崩壊、金融バブル、新たなテロの脅威、インターネットによる世界変化を予測してきたと言われる、フランスの作家ジャック・アタリの「21世紀の歴史」がヒットしたのが発端であろう。
ご多分にもれず、その影響を受け、「21世紀の歴史」とジョージ・フリードマンの「100年予測」を読んだが、その将来予測はフィクションのように思えた。
また、その将来予測の元となる歴史認識の段においても、司馬史観に覚えた共感は無かった。

島国の子孫と、国境を他国と接し、侵略行為が隣人であった国の子孫、及び冷戦というイデオロギー戦争に勝利する為に世界戦略を練ってきた国の子孫とでは、歴史から刻み込まれたものが異なる。
これは仕方の無いことだが、消化不良感が残っていた。

本書「感情の地政学」は、その消化不良への良薬となった。
著者ドミニク・モイジの主張は、シンプルだ。
訳者あとがきより抜粋する。

・(ポスト冷戦時代においては)アイデンティティを模索する人々の営みが歴史を動かす原動力である。
・アイデンティティの拠り所は、「自信」である。
・人々は、この「自信」を得る為に行動する。
・その行動には各種あるが、その多様性の背景には、積み重ねた歴史からもたらされた、三つの感情がある。
・三つの感情とは、「希望」「恐れ」「屈辱」である。
・感情は、意識の持ちようで変えられる。

というものである。
この主張に基づき、2025年の世界について、「恐れ」が支配した悲観シナリオと「希望」が満ち溢れた楽観シナリオを提示している。
残念ながら、私にとっては、これらのシナリオは、やはりフィクションに思えた。

しかし、先述の作品と異なり、
”歴史の文脈から推察される感情に着目せよ”との主張は、正論だ。
個人間の人間関係に置き換えれば、もっと分りやすい。
我々個人の行動は、必ずしも合理的では無い。
感情に左右される。
そして、希望・恐れ・屈辱は、感情の中でも、個人の行動に対して、強い影響力を持っているものたちである。
よって、モイジは、極めて常識的な視点を提示していると言えるだろう。

個人的考えとしては、「希望」の元に人々が集うには、情報化社会の進展と、持続的かつ世界各地で同時多発的な経済発展の継続が必要十分条件であると思う。

情報の流通は、制約を抱えた人々に経済成長がいかに生活を変えるかを伝え、制約を撤廃する動機を創り出す。
そして、経済成長は、多くの不都合を忘れさせる。

2025年、世界を支配しているのは、「希望」か「恐れ」か。
私は、前者だと信じたい。