──毎年美容関連各社が打ち出す「夏に向けて痩せよう!」キャンペーン。今年も中澤裕子のプロティンダイエットを筆頭に、積極的なPRが繰り広げられている。しかし、先日摘発された品川美容外科の脂肪吸引による死亡事故や、ダイエットサプリ「野茶果」の副作用問題など、その裏に危険も多々あるようで……?
今年6月23日、厚生労働省は、インターネットを通じて個人輸入できる中国製のダイエットサプリ「野茶果」について、「健康被害の恐れがある」との注意喚起を促した。愛知県岡崎市の発表によると、市内で同商品を服用した20代女性から頭痛や下痢などの症状を訴える報告があり、成分検査を実施してみたところ、国内では医薬品として承認されていない成分「シブトラミン」が検出されたという。また、その1週間後、今度は兵庫県加古川市でブラジル製のダイエット用健康食品「減肥珈琲 Slimming COFFEE」を服用した30代女性に幻覚などの症状が現れ、調べてみると同成分が検出されたため、こちらも厚労省より注意が呼びかけられている。
これ以外にも、昨今、シブトラミンを含有した製品を摂取したことによる有害事象の例が、後を絶たない。そもそもシブトラミンとは、どのような作用を持つ成分なのか? 『あぶない科学実験』(彩図社)などの著書を持ち、薬品に詳しいサイエンスライターの川口友万氏は、次のように語る。
「わかりやすく言うと、シブトラミンには交感神経を活発化させて、副交感神経の働きをダウンさせることで、脳を興奮状態にさせる作用があります。ものすごく怒りを覚えて、異様に興奮している時って、空腹にならなかったりするでしょ? シブトラミンを摂取すると脳が同様の状態になるので、必然的に食欲が抑制されるんですよ」
もともとシブトラミンは抗うつ剤の医薬品成分としてドイツで開発されたもの。しかし、肝心のうつ病に対する効果があまり見込めず、代わりに食欲抑制効果のほうに注目が集まり、“ダイエットに効く成分”として世界的に扱われるようになったという。しかし、次第に心筋梗塞や脳卒中、高血圧などを引き起こすリスクがあることが明らかになり、それによって死亡する例も多発したため、現在は同成分を含有した製品の製造・販売を停止する国が相次いでいるのだ。日本では製薬会社のエーザイ社が、国内における同剤の独占的な製造・販売権を有するために製造元の米アボット社と契約し、2007年11月に製造・販売の承認を審議会に申請していたが、10年10月に、それらの申請を取り下げている。
こうしてシブトラミン系製品を入手する手立てはなくなった……と思いきや、冒頭で紹介したサプリや健康食品のようにこっそりとシブトラミンが含有されている製品や、諸外国で停止命令が下る前に製造されていたシブトラミン系製品なら、“個人輸入”という手法を使えば今でもやすやすと購入できてしまう。実は筆者も、今年3月にシブトラミンが含有された食欲抑制薬、その名も「シブトラミン」をインドからインターネットを介して個人輸入した、経験者のひとり。空輸代込みで20錠(1錠15mg)が3210円という、食欲抑制薬にしては破格ともいえる安さに惹かれて購入し、1日1錠ずつ服用していたのだが、目の焦点が定まらなくなるなどの症状に危機感を覚え、早々と3日で服用を中止した。しかし、被害はそれだけで終わらず、2カ月後に受けた血液検査で、肝機能数値が病的なほど高くなっていることが発覚。投薬による肝臓の異常は、シブトラミンに限らず、どんな薬でも体に合わなければ起こり得る事象らしいが、それでもシブトラミンに対する恐怖心が一層高まったことは言うまでもない。もしなんの支障もなく服用し続けていたとしたら、果たしてどれくらいの減量が見込めたのだろうか?
「東京逓信病院の宮崎滋医師が発表した研究結果によると、シブトラミン10mgを半年間服用し続けたことで生じる体重減少率は5.5%、15mgだと7%。つまり、体重が60kgの人だと半年かけておよそ3kg、最大で4kg程度しか痩せられない。しかも、その後、大体2kg戻るらしいので、結果的に1~2kgの減量しか見込めないことになる。効果がないわけじゃないけど、1~2kgの減量と引き換えに心筋梗塞や脳卒中のリスクを背負い込むことを考えたら……やめておいたほうが無難といえるのでは。体に何かしらの異変が起きて、病院にかかることになっても、シブトラミンは日本で承認されていないので、治療に保険が適用されませんし。どうしても薬に頼りたいなら、食欲抑制薬として日本で唯一承認されている『マジンドール』のほうがいいと思いますよ。あれは覚せい剤の原料となる『エフェドリン』が含まれていたダイエットサプリ『エフェドラ』の代用品として作られたものなので、食欲を抑える作用も強い」(川口氏)
マジンドールは現在、医療機関にて「サノレックス」という製品名で処方されている。筆者も約6年前に1カ月間ほど服用し続けたことがあるのだが、確かに食欲は抑えられ、大幅な減量にも成功した。ただ、それに至るまでの道のりは決して楽なものではなく、栄養不足に陥って立ち上がることもままならなくなったり、不眠の症状に悩まされたり……と、想像以上につらかったことを記憶している。
ちなみにサノレックスの処方には保険が適用されるケースもあるというが、具体的にはどのような条件の際に適用されるのだろう? 実際に処方を行っている美容整形外科「タカナシクリニック」の高梨真教院長に伺ってみた。
「健康保険が適用されるのは、肥満指数を表すBMIの数値が35以上の人。BMIは体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)で算出するのですが、正常といわれる範囲は大体19~23くらい。BMIが35の人の身長を160cmと仮定すると、体重は90kgくらいあることになります。ただ、あくまでこれは“保険が適用される条件”であって、ものすごく太っている人にしかサノレックスは処方しない、ということではないんですよ。痩せている人でも過食症の気があれば、食べる量を整えるために処方することもありますし。むしろ、処方する際に重要視しているのは見た目よりも内面、それと生活スタイル。副作用として情緒不安定になったり、不眠が生じる場合があるので、もともと気分のムラが激しい人や寝付きの悪い人には向いていないんです」
服用中に不眠になってしまった筆者は、もともとサノレックスに不向きなタイプだったのだろう。しかし、とある病院で処方してもらった際は、医師からそのような説明は一言もなかった。価格は大体1錠500円~1000円と、決して安くはないのだから、“病院選び”にも慎重を期したい。
■たった1杯で1260円 ボロ儲けVLCD治療
ところで、価格といえば、食事を低カロリーなドリンクやスープなどに置き換える、いわゆるVLCD(=Very Low Calory Diet)療法を目的とした健康食品も気になるところ。代表的なサニーヘルス社の「マイクロダイエット」では、14食分のドリンクが1万7640円で販売されているのだが、たかがドリンク1杯が1260円って高すぎやしないだろうか……。
「外食すれば1食分の費用はそれくらいになるから、金額的にも置き換えているってことなのでは? ただ、VLCDの製品は原価が安いのは事実。実は僕、10年くらい前にサニーヘルス社で顧問医師を務めていたんですけど、その当時で社長は『一生では使えないくらいの財産は築いた』とおっしゃっていて、飛行機もいっぱい持っていました(笑)。でも、VLCD療法の健康食品を選ぶなら、マイクロダイエットにしておいたほうが無難だと思うな。原価は安いけど、1日に必要な栄養摂取量などをきちんと計算した上で作られているので。以前、雑誌の企画でVLCD療法の健康食品を10種類以上集めてきて、表記されている成分が本当に含まれているかを検証したことがあったんですが、ちゃんと表記通りに含まれていたのは1~2種類しかなかった。そのうちのひとつが、マイクロダイエットです」(高梨院長)
さらに高梨院長いわく、「確実に痩せるには、消費カロリーよりも摂取カロリーを抑えるのが一番。その原理で行くなら、VLCD療法の健康食品が最適。“食品”なので、副作用もないし」とのこと。しかし、1食をドリンクだけでしのぐ自信がないから、食欲抑制薬に手を出してしまうわけで……そんな不安を前出の川口氏にぶつけてみたところ、こんな答えが返ってきた。
「人間って面白いもので、自分の意思で食わないことを選ぶと、逆に体が元気になるんですよ。断食で健康になるのは、そのため。バテないように体中の栄養分を総動員させてエネルギーに変えるから、その反動で血管にたまったコレステロールなんかもキレイに排出されちゃうんです。一方、薬で食欲を抑えるのは、“食わない”ではなく“食えない”状態にするっていうことだから、体は栄養分が入ってくることを期待して、あまりエネルギーを使おうとしなくなる。だから、栄養不足になるんです。健康的に痩せたいなら、僕は断食をお薦めしますね」
なるほど、ダイエット薬よりも断食。当然のご回答です!
(文/アボンヌ安田)
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