昨日の夜、知り合いの彼女と駅で待ち合わせをしていた。車の中で、知り合いの彼女を待っていたら、雪が降ってきた。寒くてヒーターの温度をあげた。
ふと見ると、タクシー乗り場の向こう側にある24時間開いているオリジン弁当の明かりが目に入ってきた。
人気もない。タクシーのおじさん達が車の中で待っている暗くて寒い夜だった。
そこに、寒そうな格好でガラス窓を拭いている一人の女性を見かけた。その女性は雪が散らつく寒い夜に、バケツの中で雑巾を洗いながら、小さい背を伸ばしてガラス窓を拭いていた。
俺は、知り合いの彼女、いわば友達の彼女と待ち合わせをしていた。
高校の時、駅伝の虜になり、大学へ駅伝で進学した。学部は担任の先生に憧れていたから、教員コースだった。しかし、実習でつまづいてしまった。授業が終わった後、職員室で会議が行われる。議題は尽きない。父兄達のクレーム攻撃対処についてだった。俺はうんざりした。そして、クレームと付き合うのに面倒臭くなった。
大学を卒業し就職先も内定していたのに、俺は突然母親に内緒で、福島の復興支援のボランティア活動に参加した。
母と父に授業料のローンと奨学金支払いを残して。半年程して家に帰った。しかし、弟が生意気な口を聞くようになっていた。俺の中では、まだ、小学生の弟だったのに、一般論を 述べる高校生になっていた。俺は兄として恥ずかしくなり、家を飛び出した。今は友達と暮らしている。仕事はフリーターという自由業だが、金銭的には不自由業だ。

あんな雪が舞い散る寒い夜に、一生懸命ガラスを拭いているなんて・・・・・・。母さん、そんなに頑張ると、俺情けなくなるよ。
母さんごめんね。苦労をかけすぎちゃったね。俺は時々、虚しくなる時がある。そんな時、母さんの作ってくれた茶碗蒸しを食べたくなる。

俺は、小さくて冷たいその手を温めてあげたかった。
俺は、知り合いの彼女との待ち合わせをすっぽかし、車を駐車場に止めて、母さんの働いている店に顔を出した。
母さんは一瞬びっくりした顔をしていた。そして親不孝の俺にこう言った。
「今まで大変だったね。苦しんだね。もう、逃げられるね。自分の弱さから」
俺は、母さんの偉大さに完敗した。