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《「・・・ジョットの『聖誕』とノートル=ダムのそれを比べてみたまえ。前者ではマリアの身体は、彼女を見つめる子供のほうに全面的に向けられているが、後者ではお互いに見つめ合っている人物など一人もいない。ジョットの演出家としての天分は、人物たち自身のドラマに人物たちを組みこむことに発揮されているのだ。」

(Les Voix du silence, 二六〇-二六一)

 

「・・・ジョットは、ひょっとすると、その信仰によってすべてのキリスト者に尊厳への権利を認めた最初の西欧芸術家であったかもしれない。」 (Les Voix du silence, 二六四-二六五)

 

ジョットにおいても芸術が人間の条件の超克の努力であることに変りはないが、しかしそれを前提としたうえで、ジョットはかくて、「人間」の、「個人」の、栄光と名誉を主張しはじめた最初の画家であり、マルローがこの芸術家に多くの論述の頁を捧げた理由もおそらくここにあった。》 

 

 

中田光雄 『諸文明の対話 マルロー美術論研究』 262-263頁