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駐日ロシア大使インタビュー後半 露日関係発展における安倍元首相の功績、広島平和記念式典へのロシア不招待、制裁の真の意味について
© AP Photo / Eugene Hoshiko
エレオノラ シュミロワ
独占記事
今回は、「スプートニク」によるミハイル・ガルージン駐日ロシア大使へのロングインタビューの後半をお届けする。前半では、特別軍事作戦の目的と動機、キャンセル・カルチャー、ロシアの立場に対する日本の反応などについてお話を伺ったが、後半では、安倍元首相の死が露日関係の今後の発展にいかなる影響を与えるのか、なぜ広島の平和記念式典へのロシアの不招待が軍縮における大きな損失となるのか、また対露制裁はロシアを孤立させているのかどうかについて語っていただいた。
インタビュー前半はこちらから。
露日関係の発展における安倍元首相の功績
スプートニク:「安倍元首相の死は露日関係にとって大きな打撃となりました。この悲劇的な事件を受けて、露日関係の発展の展望は変化したとお考えでしょうか?」
ガルージン:「当然のことながら、我々は、2012年から2020年にかけての露日関係発展におけるきわめて肯定的な段階と深いつながりのある安倍晋三氏の悲劇的な死に対し、深い悲しみを感じております。それは、信頼のある建設的かつ定期的な両国首脳―プーチン大統領と安倍首相との対話が、露日関係において、双方にとって有益な複数の分野における進歩的な関係発展に向けた、質的に新しい創造的な相互協力の雰囲気を作り出すことができた段階でした。そしてそれは、多くの点において、両国にとっての突破期だったと感じています。そして、そのことは具体的な事実によっても証明されています。我々は日本との間で、政治問題についても、安全保障問題についても、きわめて深い、複合的な対話を行うことができました。そしてそれによって、両国の信頼を深化させることができました。というのも、首脳の口から説明がなされる機会を得ることによって、日本の戦略について、よりよく、より広く、より詳細に理解することが可能となったからです。また日本人にとっては、政治や安全保障分野におけるロシアというものをよりよく理解できるようになったことで、全体的な雰囲気がきわめて大きく改善されることとなりました。次に、我々は共同の努力によって、非常に大規模な一連の経済事業に着手することができました。それらは露日協力、露日関係の代名詞となりました。その最たるものは、北極圏で共同で開発した天然ガス田から液化天然ガスを日本に輸送するプロジェクト「アークティックLNG2」を始めとするエネルギー分野の事業ですが、そうした例はこれ以外にも数多くあります」。
こう述べたガルージン大使は、文化・人道的協力の分野でも、2018年から2019年にかけて露日関係にとってきわめてユニークな「ロシアにおける日本年」、「日本におけるロシア年」が開催されたことについても言及した。
さらに両国は、地域・姉妹都市交流年という、また別の、ユニークで大規模なプロジェクトを開催することで合意した。これについてガルージン大使は次のように述べている。
2019年1月1日, 20:13
ガルージン:「ご存知のように新型コロナウイルスの制限があったにもかかわらず、我々は1月29日にその交流年のオープニング・セレモニーを実施することができました。しかし、残念ながら、ロシアによる特別作戦に対する日本の不適切な反応によって、この交流年を継続することはできなくなってしまいました。つまり、露日関係のあらゆる分野において、当時はきわめて画期的な発展があったということです。そして多くの点においてその発展は、真に戦略的で、先見の明のある政治家であり、愛国者であった安倍晋三氏が、日本にとって、広大な隣国であるロシアとの間で建設的な善隣関係を築くことの重要性を理解していたことに起因していると考えます」。
さらに大使は、「米国や英国、その他のG7諸国の制裁政策を完全にまた絶対的に追従している現在の日本政府の破壊的な努力の結果」、露日関係において達成された非常に多くの肯定的なものが崩壊したと強調し、遺憾の意を表した。
加えてガルージン氏は、現段階の露日関係の悪化は、少なくとも、露日関係史における過去40年に前例のないものだと評価している。
ガルージン:「しかし、残念なことに、これは日本側の選択です。ロシアは、両国がこの数年で共に積み上げてきた肯定的なものを破壊しようとする、あるいはそれにわずかの損失を与えるようなことは何もしていません。残念ながら、我々の関係を意識的に破壊しようとする日本側の行動によって、現在、両国関係は過去に例のないほど低いレベルにまで低下してしまいました。わたしが日本と関わってきた過去40年の間、ソ連と日本の関係においても、ロシアと日本の関係においても、今のような状況になったことは記憶にありません。そして、もちろん、これによって、いま我々は、外国からの助言ではなく、自らの国益に合致した行動をとる真に独立した国家との関係を積極的に発展していくことについて考える必要に迫られています。残念ながら、日本は現在、そうした国のリストには含まれていません。しかし、我々は依然として、両国の利益に適うような分野で日本との実用的かつ互恵的な協力について話し合う用意があります。我々は今も日本との対話の用意があり、結局のところ、何を選択するかという決定権は日本側にあるのです。つまり、日本は自らの国益に沿って行動するのか、あるいはG7という枠内でのいわゆる西側の連帯に合致するよう行動するのかということです。それは日本自身が決めることです」。
広島記念式典へのロシア不招待について
スプートニク:「米国が投下した原爆の犠牲者を悼む広島と長崎の平和記念式典に日本政府がロシアを招待しなかったことについては、どう思われますか?」
「広島、長崎の悲劇は繰り返されてはならない」ロシア大使が原爆犠牲者を慰霊し、欧米の煽動による悲劇的結末を明言
8月4日, 13:30
ガルージン:「今回の決定には、当然ながら、控えめに言って、当惑しました。なぜなら、何よりもこれは、核兵器の管理、不拡散、核を含む軍縮に対する国際的な努力において主導的な役割を果たす国と認められているロシアに対する尊敬のなさを証明するものだからです。ロシアは何より、米国との間で現在も効力を持っている新戦略兵器削減条約の期限延長を発案し、核軍縮に向けた動きに貴重な貢献を果たしています。しかもこの条約は現在、核軍縮の分野における唯一の法的文書です。これらはすべてロシア外交が達成したものであり、それが見えないというのは、控えめに言って、近視眼的で偏向した立場だと言えます」。
ガルージン氏はまた、とりわけ、核軍縮の分野における米国の態度と比較しても、ロシアの代表を式典に招かないというのは理解できないことだと指摘し、次のように述べている。
ガルージン:「核軍縮の分野における米国の無責任な行動―米国が核兵器を自国領外に配備する唯一の国であり、米国が核不拡散条約を破り、いわゆるNATOの非核保有国といわゆるニュークリア・シェアリングを行い、米国がNATOの軍人に核兵器の扱いや使用法について訓練し、また米国が主権国家に対し攻撃を厭わず、こうした攻撃の中で、たとえば1999年にユーゴスラビアで行われたような劣化ウラン弾を使用するのを躊躇わないということと比較すれば、これはなおさらです。しかし、どうやら、広島と長崎の平和記念式典の開催者らはこれらのことを気にもかけていないようです。その代わりに、まったく真実でない、まったく馬鹿げたこじつけの口実を理由に、ロシアの代表者の参加を拒否したのです。これは憤慨と遺憾を呼び起こす以外の何ものでもありません。そしてもちろん、核軍縮の分野における実情への懸念に関するこれら2都市の指導者らの発言の信憑性に疑念を抱かせるものです」。
8月9日, 14:30
スプートニク: 「しかも、あらゆることから判断して、日本政府は9月27日に行われる安倍晋三氏の国葬にロシアのウラジーミル・プーチン大統領を招待しないという決定を下すようですが・・・」。
ガルージン:「正確に言えば、我々は、他の国の在日大使館と同様、国葬が行われるという通知は受け取っており、それによれば、希望があれば、代表者を出席させることができるとのことでした。しかし、その後、日本政府に近い匿名の関係者らから、日本側はロシア大統領が訪問することになったとしても、それを受け入れないという発言がなされました。しかしまず、ロシア側からも、ドミトリー・セルゲーヴィチ・ペスコフ大統領公式報道官が、すでに明確に、大統領がその行事に参加する計画はないと述べています。次に、もし日本政府にそのような(プーチン大統領を招待しないという)考えがあるとしたら、それは現段階で、対露関係における日本政府の非友好的な態度、そして世界最大の大国の指導者に対してそのような態度を取る人々の先見の明のなさを今一度、証明するものです」。
制裁、そしてかつての関係が回復される可能性について
スプートニク: 「もし、制裁が解除されることがあるとしたら、露日関係の回復のプロセスにはどのくらいの時間がかかると思われますか?」
ガルージン:「正直申し上げて、これは非常に難しい質問です。第一に、我々は現段階で、日本が、露日関係において、少なくともウクライナをめぐる現在の情勢を適切に理解した上で、理性と責任のある路線に戻ろうという意志があるのかどうかということを知りません。我々は日本側の考えを知らないのです。しかし、最近行われた日米経済版2+2の会合での日本側の発言や、その会合の結果、採択された文書に記載された文言から判断すると、残念ながら、それらは日本政府が近々、ロシアとの関係において先見の明を持った戦略的に検証された立場を取ろうとしているとは思われません」。
さらに大使は、ロシアは制裁が解除されることを期待しておらず、しかしロシアには現在の制裁による圧力を克服するための十分な資源があると思うと強調した。
ガルージン:「この記事を読んでくださっている方々がわたしの言葉を正しく理解してくださることを願っています。我々は制裁を解除してほしいと誰にも頼んでいません。そしてこれからもそうすることはないでしょう。制裁を今後どうするのかについては、それを発動した側が決めることです。制裁を発動した国々が、対露制裁という政策に盲目的に従った結果ますます明らかになってきた自国民に対する損害、自国の経済に対する損害に耐えるつもりであるならば、その国々はなぜか、それが自分の国にとって有益だと考えているということなのでしょう。第二に、ロシアには独自の経済、独自の科学技術、教育、文化、人的潜在力があり、いかなる制限をも克服することができるのです」。
欧州市民の半数以上が新たな対露制裁に反対 生活水準の低下を危惧 世論調査
8月9日, 04:27
ガルージン氏はまた、実際、ロシアは孤立しているわけではなく、ロシアに対し、制限を設けていない国々とは協力していく意向であるとし、国際社会にはそのような国がたくさんあるとし、次のように述べている。
ガルージン:「繰り返しになりますが、ロシアには、国際舞台における自国の長期的な国益に基づいて行動する真に独立した重要な国際的なパートナーが存在します。そしてそのような国はたくさんあります。いわゆる制裁を発動した国の数を見ると、全体で40ほどですが、国連加盟国は193カ国あるのです。大多数の国はロシアに対し制裁を発動していません。大多数の国―つまり150以上の国が、ロシアとの間で、国連憲章で謳われている重要な原則である主権平等の原則に基づいた、相互に尊敬する相互に有益な正しい協力関係を発展させるべきだと考えているのです。ですから、ロシアが国際舞台で孤立していると感じていると言うことはまったくできません。いわゆるロシアの孤立というのは、きわめて無知な西側諸国の多くの指導者の頭の中にのみ存在しているのであって、国連加盟国の大半の指導者の意識の中には存在しないのです」。
6月29日, 23:23
最後に、大使は、崩壊した関係が短期間で回復するかどうかは疑わしいと述べ、次のように語った。
ガルージン:「正直に申し上げて、ここで時間的な指標を述べることはできませんが、『上り一日下り一時』(物事を作り上げるのには多くの時間と労力が必要だが、壊すのは簡単だという意味)という古いロシアの諺を例にとって挙げることができます。露日の関係が崩壊し、日本政府によって、過去40年で最低のレベルにまで悪化するのは時間的にはあっという間のことだったからです。それはわずか数週間の出来事でした。では、果たして、その壊れてしまったものを数週間で回復させることは可能なのでしょうか?わたしは無理だと思います」。