その濃密さに圧倒される文章である。これが高田博厚の世界なのだ。こういう文章、ほかにだれも書けない。高田さんは前代未聞の文学の神様になっただろう。 


 


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薔薇窓 第二部 V (II.104)

 

 

 

今晩あなたを相手に私は不思議な独白(モノローグ)を書こうとおもう。

 十年の間を置いてゆくりなくもあなたに再会してから、私達は会う度に古い愛情について語りあった。もはや年齢(よわい)の影がほのかにさす顔を私の腕に委せながら、あなたは、昔はお互いにもっと若く、愛人であることをもっと喜び、愛情にもっと夢中であったことをおもい、今またこんなふうに会うことがかつていっしょに逍遙した古い庭園の奥に隠れ家を求めに戻るような気がしないであろうか? 再び見出された現在が突きとめられぬ影像(イマージュ)のように思われ、それに確かに触れてみ、私達の手でその容相(ヴィザージュ)を形づくろうとする時には、過ぎ去ったもろもろが肉付(モドレ)をする。あなたもまた「全存在が失われてしまう……」と言うのであった。愛情を焼きつくして、青ざめた顔で臥っているあなたをのぞき込みながら、私は私達の露(あら)わな魂が何かに、多分時と運命に裏切られているように感じる。あまりにも見知らぬ現在の中で、なおもそれを愛するが故に、私は自分の知恵の計算(スペキュラシオン)に疲れて、眼を閉じる。そして私達の体を通って行く一刻一刻を、岸辺に坐って眺めている河の流れのように感じる……