あなたは運命を信じますか?
「風邪ですか?」
その一言から始まる恋が、
こんなにも苦しくて、切なくて、
こんなにも愛おしくてたまらなくなるなんて
その時はまだ知る由もなかった。
会社のエレベーターに乗り込んだ私は、
その出会いに一瞬息を飲んだ。
目の前にめちゃくちゃタイプな人がいる。
少しの間二人きりになるかと思うと
恥ずかしくて、目を逸らすしかなかった。
「風邪ですか?」
「いえ、違います。」
「違うんすか?」
と不思議そうにそして含み笑いをしながら私を見て来た。
コロナ禍の今、当たり前となったマスク。
でも、私達が出会ったあの頃は、夏にマスクは似合わない時代だった。
「予防です。」
「そうっすか。」
これがこの恋の始まり。
所属部署に戻るや否や、
私はさっき出会ったあの人が気になってしまい、
同じ部署の事務の子にリサーチを頼んだ。
きっと年齢は私と同じくらいかな〜、
名前何て言うんだろう?
どこに住んでるんだろう?
その日は一日、仕事が手に付かなかった。
一つ気がかりだったのは、
左手の薬指に指輪をしてたこと。
イケメンだし、彼女くらいいるよね…
数日後、
名前と年齢を知った。
そして、離婚をしてシングルファーザーになると聞いた。
結婚してたんだ…子供もいるんだ…
でも何故かショックは受けなかった。
「ねぇ、お願い!飲み会セッティングして!」
ただただあの人に近付きたかった。
数日後、男女3人ずつで飲み会をした。
もちろん、私の為の飲み会。
みんなが協力してくれて、何とか連絡先を聞くことができた。
お互いシャイなせいか、飲み会ではほとんど会話は出来ず、そのままカラオケへ。
彼は飲み過ぎたせいか、カラオケで寝てしまった。しかも私の近くで…。きっと彼は覚えていないだろうけど、寝ていた彼の手が私の手に触れた瞬間があった。
初めて触れた彼の手は、温かく、とても心地の良いものだった。
朝までのフリータイムを終え、それぞれ駅に向かう。私と彼は反対方面だったけど、同じ路線だったので駅まで一緒に歩いた。どうしても言いたかった一言がなかなか言えず、どんな会話をしたのかさえも思い出せない程緊張していた。
反対の電車に乗るはずの彼は、私の電車が来るのを一緒に待ってくれた。本当は、次の約束をしたかった。それなのに断られるのが怖くて出来なかった。電車を待つ時間がやけに長く感じた。
きっと数分の事だったけど、ようやく電車が来た。やっぱり言えない。どうしよう…このまま何事もなく何も始まらないのは嫌だ。でも、私にそんな勇気は無かった。
電車に乗り込んだ後、私は直ぐに彼にLINEをしようと文章を作り始めた。
今度2人でご飯行きませんか?
この文章を送っていいものか…。
でも、せっかく連絡先交換したし、送ってみよう!勇気を出して送ってみた。
今度ご飯行こう!
私が送ったと同時くらいに、彼からLINEが届いた。もしかして…同じタイミングで送ってた?
彼も同じことを思ってくれていたと思うと嬉しくて笑みがこぼれた。
2日後に2人で会う約束をしてからも、LINEのやり取りは続く。
他愛もない会話。返事を待つ時間がとてつもなく楽しくて、私はもう既に彼を好きになっていた。
次の日に会う約束をしていたのに、彼と話したくて電話もした。
彼との電話は、本当に楽しくて、気付けば朝の4時を回っていた。彼との会話は、私の睡魔さえ奪っていった。
約束の日。
初めての食事に私達が選んだのはもんじゃだった。昨日あれ程長電話をした相手だと言うのに、いざ目の前にいると思うと、緊張のあまり、私はなかなか箸が進まず、そこでの会話は未だに思い出すことが出来ない。
でもひとつ言えることは、その時間がとても楽しかったという事。
食事を終え、このまま帰るものだと思っていた私に、彼はこう言った。
「この後どうする?」
えっ!?お子さん預けて来てるし、帰るんじゃないの?
まだ一緒にいていいの?
「まだ一緒にいたい。」
照れくさかったけど、そう伝えた。