第19場 1993年5月16日 アメリカ山岳部時間(MST Mountain Standad Time GMT-7)9時 ロッキー山脈地下基地司令部支所~秘密時空保安局職員居住区

 

最近、毎日が同じようなことばかりしている日々で曜日感覚どころか季節感もない。そもそも地下基地のそれも場末の室内に閉じこもって味気ない機械の中に映る世界だけが外の様子を知る手段とあっては地下基地ならぬ地下墓場勤務に飛ばされたも同然で生霊だか死霊だかわからない自分にとって相応なポジションなのだろう。ここは局長の意のままに忠実に事務的仕事をこなしていくしかない。

 

時系列がバラバラにひとりの人物を追って観察するのは変なものだが、これもいい分岐点探しには必要に作業なので平凡な日常生活の一見つまらなそうな定時連絡にも気を抜けない。しかし、1996年のニューヨークに派遣しているマライヤからの報告だけは毎回なぜか笑ってしまう。不謹慎と叱られてしまいそうだが幸い周りには霊魂以外は誰もまとわりついていないのでだいじょうぶだろう。各時代に派遣している他の四人には口が酸っぱくなるほどひたすら地味に、目立たぬように確実にその環境に馴染んで与えられた仕事をこなすよう指示を出しているが、マライヤだけには真逆で派手に目立つ行動を常にとるように言ってある。


マライヤはこの任務の前は1991年のスロベニア、当時はまだユーゴスラビアという名前で呼ばれていたはずだがその首都のリュブリャナの大学(University of Ljubljana)の建築学科の学生をしていた。学生とはいえその特異な美しさから単なる学内のマドンナにとどまらず、テレビ局のレポーター役に抜擢され大活躍していた。そう、マライヤの任務はいつも脚光を浴びるように有名人として活動することにあるのだ。それにしても女性の変幻自在さには驚くしかない。髪型やメイクアップの仕方で別人に見えてしまう。マライヤの場合は必要とあれば鼻やあごのラインなど整形手術をしてでもいろいろな女性に成りすますことができる特技があり、声色を変えるのもうまい。語学も堪能でさすがに黒人にはなれないが西洋白人系であればスロベニア人でも、スウェーデン人にでも"遠い祖先に異民族の人が混じっていて顔立ちが少し違うのがチャームポイントなの"という決め台詞で成りきってしまう。

 

マライヤからの今回の定時連絡はいつもどおりのパターンで女性ファッション雑誌の写真取りやテレビ番組への出演とかばかりで大物俳優ドナルド・マクレランド氏は実際に会ってみると意外と小心者で見掛け倒しだったとか言われてもわたしが今いる時代(1993年)より三年後の未来のことなのでなんとも言いようがない。ドナルド・マクレランドという名前をわたしの目の前にあるパソコンの検索機能を使って調べてみると確かに俳優ではあるがそんな大物には感じない。三年後には大物として認識される存在になっているということなのか? ただ、今回のマライヤの派遣年代が未来なのである意味わたしは助かっている。1993年より古い時代、たとえば前任地の1991年のことであれば例によってパソコンの検索機能を使って調べてみるとマライヤがその時代で使っている名前を正確に入力すれば画像も検索できて、見たくもない水着の写真とか裸体に近いようなものまで目にしてしまい、父親のような立場で送り出している手前、恥ずかしいという気持ちでどうしようもない。ただ、有名人として活動している特権としていろいろな人物に会うチャンスが増えること、このことが最重要なのだ。1996年でアーノルド・ロッドマン氏と接触する機会を掴むこと、そのためにこの任務に最適なマライヤを急遽1991年より呼び戻したという次第、ただ1991年のスロベニアでの活動も中途半端なため時折戻って一区切りをつける必要がある。

 

マライヤへは指示は今回は特に出すつもりはなかったので、俺も小心者で見掛け倒しかもしれんぞと短い返信を送った。見掛けというより見て呉れにはバーテンダー時代から自信などない。バーテンダーの中にはパリッとした超男前を売りにしている者もいるようだがそれよりも親身になって相手の話しを聞いてあげることにわたしは長年全力を注いできた。昨今は高齢者に対して傾聴ボランティア活動という呼び名のものがあるそうだが、お役御免となればボランティアでもホラ吹きでも口三味線でも何か他人に役に立つことに携われるのであればそれでいい。もうみて呉れはもうどうでもいい。それよりもどうせなら現在の局長見習いから早く卒業して形ばかりの昇進を手に入れたいというのが小心者の本音だ。局長になればもう少し自由になれるのだろうか? それとも今以上にがんじがらめに制約だらけのどん底に落ちてしまうのだろうか? 自由な度合いが増えるのであれば報告を受けているだけではなく重要なポイントにはわたしが飛んでいって直接アドバイスをしたい。やはり現場が好きな性分なのだ。負け試合になるのを覚悟でアーノルド・ロッドマン氏やドナルド・マクレランド氏と実際に肩を並べてホラ吹き合戦をしてみたい。