第40場 2017年1月20日 アメリカ東部時間(EST Eastern Standad Time GMT-5)5時 ニューヨーク市 ロッドマンフェリーポイントゴルフ場〜支配人室に隣接する物置
また悪い癖で寝てしまったか、今日は大事な日だ。寝坊はしていられない、段取りがあるのだ。ジャレッドの配慮なのだろう、室温は適切な設定になっているようで何もかけずにそのまま寝たのに風邪を引いていない。それにしてもアーノルド・ロッドマン氏は政治家でもなく、ただの実業家だったのにあれよあれよと世間の予想に反して大統領選挙の各段階を勝ち抜き、最後の総仕上げの本選挙までも僅差で逆転勝利した。豊富な資金力に物を言わせてなんでも買いまくった姿はアマゾン川のピラニアよりもしぶとく、カンディル・ロッドマンとまで評された。しかし、民衆の心まではとてもとても買いきれず敵も多く作って、日常生活においてもボディーガードを雇って警戒を怠らないでいる。
今日はそのロッドマン氏が正式に大統領になる日だ。
わたしは見てしまった。ロッドマン大統領が誕生してからのアメリカ合衆国の没落を!
国民の半数以上を敵に回し、強権政治を国内外で推し進めた。突如沸騰し、暴走する狂犬ロッドマン大統領はアジアやアフリカ、ヨーロッパの小さな紛争にも首を突っ込み、金と人を注ぎ込み、愛情は一部の白人層に注ぎ込み、多民族国家として成立していたアメリカ合衆国は空中分解した。その過程で主犯であるアメリカ合衆国最後の大統領、デーモン(悪霊)・ロッドマンはマサチューセッツ州のプリマスで十字架に磔の刑に処せられた。ボロボロな雑巾と化した北米大陸は結局、イギリスがカナダ、メキシコをも含めて面倒を見ることとなり新生大英帝国が誕生した。
同じ光景を既にあの人も見て知っていたはずだ。
前局長、ティモシー・カーマイケル新副大統領・・・。
結局、すべてはティモシー・カーマイケル氏が計算した通りに進んでいる。わたしもその歯車の一員でしかない。それはとうの昔にわかっていることだ。悪霊退治には猛毒を持った別な悪霊が必要なのだ。
手を下すのはわたしだ。ただ、それにはジャレッドとマイルスの協力が不可欠だ。
さて、具体的に・・・。
「ジョン・スコットさん、お久しぶりです。」
とジャレッドが穏やかな口調で声を掛けてきだが、わたしは体の芯から凍ってしまった。わたしの顔が曇っていくのがわかったようでジャレッドはこう続けてきた。
「さすがにお察しがいいようで・・・ジョン・スコットさん。この世界に導いていただいて大変感謝しています。報告事項がいくつかございまして、まず本日2017年1月20日付けで特別業務監査局局長には副局長のダグラス・ホワイト大佐が昇格して少将待遇となり、ジョン・スコット前局長は罷免され、無役となります。それからそのダグラス・ホワイト新局長の指令により、このロッドマンフェリーポイントゴルフ場という閉鎖的空間に於いて暫定措置として本日一日限りジョン・スコットさんは特別業務監査局局長という肩書きのまま行動していただくということになっております。」
言葉が出なかった。金縛りにでもあったように体が動かない。ジャレッドは沈着冷静に状況説明を続けてきた。
「本日2017年1月20日はご承知の通り、アーノルド・ロッドマン氏の大統領就任式が
首都ワシントンD.C.のアメリカ合衆国議会議事堂前で執り行われます。新大統領の任期は1月20日の12時からと決められていますのでおそらく11時50分過ぎあたりからティモシー・カーマイケル氏の副大統領就任宣誓からはじまり、続いてアーノルド・ロッドマン氏の大統領就任宣誓と続きます。その後引き続いて新大統領が就任演説をして祝賀昼食会を経て、パレードをして式典が終了するのが通例となっております。夜は祝賀晩餐会と舞踏会が行われますので束の間の休息をこのロッドマンフェリーポイントゴルフ場でとるというのが大まかな流れです。」
わたしの耳には・・・なっております、なっております・・・これしか残らなかったがひとつだけ質問事項があった。
「質問してもいいかね・・・ジャレッド・・・支配人。」
「ジョン・スコットさん、周りに人がいる場合はジャレッド支配人で結構です。今はふたりだけですのでジャレッドと呼び捨てでかまいません、長年お世話になった方ですので。」
「いや、呼び捨てというわけにはいかないな、ジャレッド支配人。聞きたいのは、ここにティモシー・カーマイケル新副大統領も来るのかね、それからアーノルド・ロッドマン新大統領と一緒にゴルフをするメンバー、キャディーを教えてくれないか?」
「新副大統領はここには来ません。ゴルフをするメンバーは新大統領、特別業務監査局局長、特別業務監査局局長夫人の三人は決まっています。この三人で回るかあと一人マイルスがメンバーに加わるかもしれません。キャディーはこのゴルフ場の男性スタッフが付くことになっています。マイルスがブレーに参加しない場合は彼が大統領のキャディーを務めます。」
「そうか、やはりジャクリーヌも来るのか。気が重いな。」
「ジョン・スコットさん、そう言わないで無の状態で気楽にゴルフを楽しんでください、なるようになるだけですから。それから時間がまだありますので別室で休憩していてください。このゴルフ場には高級ホテル並のスイートルームが何部屋もありますので。時間になりましたら連絡しますのでそれまで室内で自由にお過ごしください。ただ、これから時間を増して当ゴルフ場全体の警備は厳しくなっていきますのでくれぐれも室内からは出られぬようお願いします。」
またまた、ジャレッドの落ち着きすぎた口調の゛あります節゛に押し切られて案内されるまま「wisteria」という名前が付いている部屋へ幽閉された。もう、無役の身なのでどういう扱いをされても仕方がない。軟禁状態を体験するのも楽しそうだと割り切って室内をくまなく探索しようとしたがいつもの悪い癖ですぐに寝てしまった。