20世紀後半のアメリカで、カール・セーガンという著名な天文学者が活躍していました。宇宙分野の研究者の間のみならず、一般の人たちの間でもよく知られた科学者の一人で、天文学の普及に偉大な貢献を果たした人物でもあります。1997年のSF映画「コンタクト」の原作者でもあり、一見すると対立する宗教と科学も突き詰めていくと共通したところに到達するというメッセージが込められた非常に示唆に富む優れた映画でした。そのカール・セーガンが1963年にとても刺激的な科学論文を執筆したことがあるという事実を最近耳にし、さっそく該当の論文を検索してみました。現在はインターネットが発達したおかげで、目的の論文を比較的容易に探し当てることができるので、サイバーオプティクスの発達さまさまです。くだんの科学論文のタイトルは「DIRECT CONTACT AMONG GALACTIC CIVILIZATIONS BY RELATIVISTIC INTERSTELLAR SPACEFLIGHT」。日本語にするなら「相対論的星間宇宙飛行による銀河文明間の直接接触」というところでしょうか。実にカッコいいタイトルです。
内容は、私たちの天の川銀河に存在する人類とコンタクトする可能性のある地球外文明の数Nを推定するドレイク方程式、その方程式の各パラメータに科学的推論から得られた具体的な数値を逐次入力して最終的にNを推定しようという試みです。ドレイク方程式と各パラメータは次の通りです。
ドレイク方程式:
N=R*×fp×ne×fl×fi×fc×L
ドレイク方程式の各パラメータ:
R*:人類がいる銀河系の中で1年間に誕生する星(恒星)の数
fp :ひとつの恒星が惑星系を持つ割合(確率)
ne :ひとつの恒星系が持つ、生命の存在が可能となる状態の惑星の平均数
fl :生命の存在が可能となる状態の惑星において、生命が実際に発生する割合(確率)
fi :発生した生命が知的なレベルまで進化する割合(確率)
fc :知的なレベルになった生命体が星間通信を行う割合
L :知的生命体による技術文明が通信をする状態にある期間(技術文明の存続期間:年)
これらのパラメータに数値を入力して得られた結果によると、通信可能な銀河宇宙文明の数Nは∼10^6(個)。これは、夜空に見える恒星のうち 0.001% 程度が通信可能な高度文明を持つ惑星を伴っているということを意味しています。最も近い銀河宇宙文明との距離は数百光年とのこと。この結果を読んで私は意外と多いなという印象を受けましたが、皆さんはどのように感じられるでしょうか。
論文の中盤では、光速に近いスピードを持つ宇宙船による星間飛行の実現可能性について述べられています。段階的な核融合推進ブースター、大質量比の宇宙船、星間物質や H II領域を利用するラムジェット、それらの組み合せにより今後数世紀の間に私たちの銀河の最も遠いところまで到達する相対論的星間飛行は実現可能な目標だと述べられていました。1963年当時は現在のように宇宙ロケットがバンバン打上げられている時代ではなかった状況で、こういう発想ができるところから推測すると、カール・セーガンという科学者はとても前向きで楽観的な人柄の持ち主だったんじゃないかなと想像しています。
論文の終盤では、ドレイク方程式と星間飛行の現実性をベースに、地球外知的生命体が遠い昔に地球に何度もやってきて人類と接触した可能性について言及しています。接触頻度としては数千年に1回ぐらい。この頻度だと人類の過去の歴史時代(「歴史が記録されはじめた時代」と理解すべきか)に高度な地球外文明と接触していた見込みがある。例えば、シュメール文明の起源を説明するバビロニアの伝承などは、そういう接触を示唆している可能性があるので、現在の文脈で真剣に検討されるべきだという。また、地球外知的生命体によるそうした訪問の痕跡が地球上に存在するばかりか、なんらかの基地が現在でも維持されている可能性がある、それを念頭に地球上だけでなく、とくに月面の裏側を綿密に調査すべきだと述べていました。
えーっ!?これってフォン・デニケンの古代宇宙飛行士説と重なっているんじゃないですか!? というか古代の宇宙人来訪に関するエッセンスはほぼそのまんまですよね。どうするんだろう、コレ・・・。フォン・デニケンは直感で古代宇宙飛行士説に辿り着いたわけですが、カール・セーガンが行なっていたのは科学的論理の積み上げでした。しかし、だいたい同じような結論に到達している。この事実をどのように納得すれば良いのだろうか。それにしてもカール・セーガンが執筆したこの文書は大変刺激的なアイデアで満ちている一流の科学論文であることは間違いない。ウ~ンある意味すごいですよこの論文は!