理佐side
師走の冷え込んだ風が緩く巻いたマフラーの隙間をすり抜けていく。何度目か分からないそっと吐いた息は白く視覚化されることなくマスクの中に留まった後に消えた。
家から電車で2駅の位置にあるいつもの店までの道を歩きながらすっかり赤と緑に彩られた街並みに目をやる。どことなく浮かれた空気が流れているのは先ほどからちらほら見かける若いカップルたちによるものだろうか──。
見慣れた店の外観が見えてきてふっと頬が緩む。先ほど届いたLINEに添付されていたいつもの席まで進むと、個室ごとに仕切られた格子戸を軽く2度叩いた。
「「「はーい!」」」
元気な声を受けてからそっと戸を横に引くと、どこか懐かしさも感じる面々が朗らかに出迎えてくれる。「遅ーい」だの「どこで道草食ってんの」だの呆れたように掛けられる言葉の奥に優しさが滲んでいるから私もヘラヘラしながら受け答える。
みんな2列に向かい合わせで並んでいるが、両列の1番手前が1人分ほど空けられている。それぞれ誰と誰の分か必然的に分かってしまって少しだけ心が浮かれる。
おぜの隣に腰を下ろしコートを脱いで息をついたところでテーブルの上に乗せたスマホが震えた。明るくなった液晶画面に浮かび上がる名前は──。
もう騙されない。
グッと唇を引き結び、同じように通知を受けたであろうメンバーたちの反応を窺うと案の定みんなスマホに目線を落としていた。
「ゆいぽんもう来るって〜!」
ふーちゃんの明るい声に力を込めたはずの唇の端が無意識にピクっと跳ねた。思ったより早く終わったんだね〜なんて弾んでいく会話をボーッと聞きながら逸る鼓動に気付かないふりを決め込もうとした瞬間、コンコンっと控えめなノックが響いた。
「「どうぞ〜!」」と声を合わせるメンバーの声から逃れるようにお冷に慌てて手を伸ばすと一気に呷る。そのままの勢いでコップをテーブルに戻し、そこに目線を固定する。いや、金縛りにあったように目線を動かせない。ふわっと香るあの頃と何ら変わらない愛おしい匂いと視界の端で揺れているベージュ色のコートとそれを操る白くたおやかな手指は間違いなくこばのものだった。
──さ、りさ、、理佐!!
ハッと視線を上げると斜め向かいに座っていた美波が不思議そうに顔を覗き込んできていた。「気分でも悪いん?」と心配そうな美波に慌てて笑顔を向け、大丈夫と応えるとあまり納得のいっていなそうな顔をつくりながらもまたみんなとの会話に戻っていった。
「ほんとに大丈夫?」
今度は真正面から掛けられた落ち着いた声に釣られて思わず目をやるとこばがいつものちょっと困ったような笑みを浮かべて私を見つめていた。キュルンと音が聞こえてきそうな瞳と微かに歪められた唇に頬がさらに熱くなるのを感じる。