驕ったんだな② | Keyaki

驕ったんだな②

本番当日、迎えの車に乗って現場に到着。

広い広い庭と大きなプール、豪華な建物と高級車。

一流のミュージシャンのように扱われ、ステージをみて興奮した。



早速機材をSetしてPAさんに音をつくってもらい、リハーサル。

音出しはきわめて良好で、新しいピカピカのギア達もいい表情でおさまっている。



一通り音をCheckして問題なかったので(というかむしろ最高だったので)、

一時場を離れて増えていくお客さんにまぎれた。



日もすっかりおちて夜も更けてきたころ、紳士が目で合図してきた。

そろそろ出番だ。



紳士がステージの前にお客さんを集める。

マイクで挨拶をし、沢山の冗談でお客さんを盛り上げている。


そして自分が紹介された。



ステージに出て行き、Setに座り自己紹介をした。


大勢が興味深そうに注目している。


大丈夫だこの日のためにイメトレもばっちりだし、新しいギアも光ってる。


最高の演奏する、それだけだ。




自己紹介のあと、一曲目をスタート。


演奏は静かなイントロから始まり、徐々にテンポをUPしていく。


一番メインのおいしいパートに近づいた。


さぁ、ここがお客さんが驚くところだ。キメてやる。




ところが、

そのサビの直前で、

新品ギアのキックペダルが突然動かなくなった。



演奏はそのまま続け、もういちどAメロをはじめから演奏して再度サビへいこうとした。

ところが今度はキックペダルが全く動かなくなってしまった。


即興で曲調をアレンジしてしのげるレベルじゃない。


楽器がひとつ、まったく使えなくなったんだ。





血の気が引いた。



何度踏んでも動かない。



しかたなく演奏を止めた。



急いでペダルを治そうとした。



しかし、いくらいじっても元にもどってくれない。



でもこれが治らないと演奏ができない。治さないといけない。



5分たっても一向に治る気配がない。



そのうち10分が過ぎた。

お客さんはざわつき、あの紳士は不安そうにみてる。







うごかない、治らない。





15分程が過ぎた。


お客さは完全に飽き始め、会場にしらけた雰囲気が流れ始めた。



仕方ない、あきらめるしかない。



残りの2つでやるんだ。演奏に戻ろう。




結局カホンはあきらめて、ディジュとザイロフォンだけで演奏をはじめた。



しかしKickの音がないので貧相に聞こえる(ような気がした)。

自分が全然のらない。



そのうちお客さんが少しづつ離れていくのを感じた(そう思い込んだだけかもしれない)。



動かないギアと全く使いこなせてないHiHatが、余計に自分の気持ちを貧相にしていた。



心が折れそうになりながらも集中して演奏しようとした。



しかしすぐ横に不安が並走してくる。



紳士がうつむいたように見えた。



その時、演奏に勢いがなくなってしまった。



そして、実際に半分以上のお客さんがステージの前からいなくなった。



地獄だった。





最後の曲をおえ、紳士が少なくなったお客さんにむけて何かをしゃべっていた。


大失敗だった。。。


恥ずかしくて顔をあげることもできない。


招待してくれた紳士の顔を見ることもできなかった。


はずかしい、みっともない、ださい。



お客さんたちが2次会の建物へ消えた後の広い広いガーデンで、一人で楽器を片付けながら、自分が情けなくて恥ずかしくて。きっと顔は真っ赤だったろう。



演奏前の“やってやるぜ顔”
演奏中の“トラブルのときの焦り方”“不安顔しながらの演奏”

結果的にお客さんを満足させられなかった“自分の足りなさ”。

あぁ恥ずかしい。

穴があったら入りたかった。





そもそも俺は技術的な事はまだまだなレベルだ。

ディジュも初心者だし、ジャンベだってまだまだだ。カホンキックのレベルも。

だとしたら自分ができるのは、今できる事を丁寧に、そして最大限のクオリティで演奏することだけだったはずだ。

それなのに練習もしたことない新しいギアで本番に挑むなんて。。。


「やったことなくても俺ならできる」という驕りが今回の結果を招いたんだ。
「すごいの見せてやる」っていう傲慢が招いたんだ。


練習も重ねていない楽器でStageにあがるという最低なことをしたんだ。



これは完全にプロフェッショナルとして失格だ。

練習してないものを人前で見せているんだから。

ただのエゴ以外のなんでもない。




若いころからいつもそうだた。少しうまくいきはじめるとすぐ調子にのる。

そして驕った結果、大事な場面でやらかす。エゴや驕りや傲慢さで。




今回もまた同じ失敗をしてしまった。




また驕ったんだ。





そのせいで、この夏、大事なチャンスを一つ逃したんだ。




(終わり)