今年初となるバレエ鑑賞のため、

土曜日は埼玉県にある「彩の国 さいたま芸術劇場」

まで、出かけてきました電車



この劇場は、コンテ寄りの優れた作品を上演することが多く、

いつも「次は何の公演をやるかしら」と楽しみにしています。



今回観た作品はこちらです↓



ブベニチェクと

ドレスデン国立歌劇場バレエ団の俊英たち



元ハンブルク・バレエ団(ノイマイヤーが芸術監督のところ)の

プリンシパルであり、

現在はドレスデン国立歌劇場バレエ団のプリンシパルである


イリ・ブベニチェク

きいのバレエとゴハン帳


彼は近年、若手振付家としても活躍しており、

おととしの「エトワール・ガラ」にて、

その作品の一部に触れ、心をつかまれたことから

「いつかイリの作品をきちんと観たい」と思い続けてきました。


それがようやく叶ったのが、今回のガラ公演。

イリの振付作品を2つを上演するガラ公演であり、

そのうちのひとつが「エトワール・ガラ」の際に感動した作品の

全幕であると知り、即決でチケットを求めたのでした。



イリの双子の兄弟であり、

現在もハンブルク・バレエ団のプリンシパルとして

活躍しているのが、


オットー・ブベニチェク



きいのバレエとゴハン帳


「エトワール・ガラ」に参加して拝見した際に、

男性らしい強靭なカラダつきながらも

ふくよかで甘みがある優しい踊りに目を見張り、

これまた「ちゃんと観たい」と思っていたダンサーです。


ちなみにオットーのほうは、

作曲家としても活動していて、

イリの作品のいくつかに曲を提供しています。



イリとオットーは双子の兄弟ですが

その見分け方はいくつかあります。

単なる見た目の話でいくと

■神経質そうで痩せこけている=イリ

■穏やかそうでお顔がふっくら=オットー

なのですが、踊りもなんとなく上記の性質を反映していて

まったく別物のキャラクターを持っています。



今年初のバレエ鑑賞なのに、

今年観に行く予定のバレエ公演のなかで

もしかしたら一番楽しみかもしれない!という

100%の期待度で、公演を拝見しましたが……



心を揺さぶられっぱなしでした祈る



ひどく残念なことに、客席がかなり空いていたのですが

それでも観客は(私も含めて)大いに興奮させられ、

全員が「誰よりも大きな拍手を」という願いをこめて

手をたたいていたように思えるほど、

とてもハッピーな舞台でした。



未見の方も多いかと思いますが

レポートを書いていこうと思います。

すこし硬い内容になるかもしれませんが、あしからず…。



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【辿り着かない場所】(日本初演)

原題:Unerreichbare Orte


振付:イリ・ブベニチェク

音楽:オットー・ブベニチェク



イリがまだ、ハンブルク・バレエ団に所属していたころ、

ノイマイヤーからの依頼で振付けた作品だそうです。


大きくいえば、主題は


愛についての考察



全部で4組のカップルに焦点が当てられます。

彼・彼女らはお互いに愛し合っているのだけれど、

その「愛し方」「愛の状況」がそれぞれ異なります。



ロビーにて、この作品のためにオットーが振付けた

音楽のCDが売られていましたので購入したのですが、

曲目につけられたタイトルが、

それぞれの「愛の状況」を明確にあらわしています。



① love 2 love u

(愛し愛され、まさに愛の絶頂にいて

お互いの存在に何の疑問も感じていないカップル)


② love 2 hate u

(愛してるのに、時々わけもなく相手にイラつき、

憎しみを感じていることに気づいてしまったカップル)


③ hate 2 hate u

(もはや憎しみ以外は何も感じなくなり、

お互いを傷つけあうことで、相手の存在を確認するカップル)


④ hate 2 love u

(果てしなく憎みあい、ののしりあったあと、

疲れ果ててようやく、底にある相手への愛を見出すカップル)



この4つのカップルが、

舞台に据えられた扉の前で踊り、

この感情を表現していきます。



①のカップルは官能的に、

②のカップルはおかしみを感じさせる動きで、

③のカップルは刃物のように鋭く、

④のカップルは諦めと穏やかさをもって、

全身を使って、この状況、それに伴う感情をあらわします。



もっとも難しい④を踊るのは、

オットー・ブベニチェクとエレナ・ヴォストロティナ。



憎みあうことにも疲れた彼らは、

静かで穏やかで、達観した様子。

時に、歩み寄ろうとする姿勢が見られるものの、

そのタイミングはすれ違い、決定的な破局を迎えます。



でも最後に彼らは、

手を取り合いながら、歩を進めることになります。

諦めきったあとに見えてくる、相手への愛情。



おそらく④のカップルもまた、

①②③いずれかの状況に遭遇することになり、

また④の状況に舞い戻り、そしてまた立ち上がり…と

繰り返していくことでしょう。

だって、誰かを完全に理解し、分かり合うことは

絶対にできないから。



愛とはそういうもの。

どうしても互いを分かり合うことができず、

どこかに辿り着くことを願いながら、

いつまでも辿り着けないもの。


そんなことを、この作品から感じました。



同様に、イリの振付作品に対して

とてもドラマティックであると感じます。


この「ドラマティック」は情熱的であるということではなく、

ひとつの感情(思想、思考)を伝えるために、

「ストーリー」に乗せて描いていくということです。



いわゆる物語バレエのような、

明確なストーリーがあるわけではないのですが

完全なプロットレスというわけでもありません。



さきほど書いた①~④のことは

とくにパンフレットに書いてあったわけでもないのですが、

観ていれば、大体のことは分かるものになっています。



このタイプは、すごく好きです。



「好きな振付家」に関して書こうとすると長くなるので

またの機会にいたしますが…

イリがもともとノイマイヤーのもとで踊っていたことが

影響しているのだろう、と

パンフレットにて三浦雅士さんが指摘していたのも

十分にうなずけます。



イリの舞踊言語は完全に近代的なものですが、

その根底に流れるのは、

あくまで「ストーリーありき」であると感じ、

その発見はとても嬉しいものでした。



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【ステップテクスト】

 原題:Steptext


振付:ウィリアム・フォーサイス

出演:エレナ・ヴォストロティナ、イリ・ブベニチェク、

オレグ・クリィミュク、クラウディオ・カンジアロッシ



出演者は上記4名のみ。

全身黒い衣装に身を包んだ3人の男と、

全身赤い衣装に身を包んだ1人の女が、

細切れになったバッハの楽曲に乗って踊ります。



フォーサイスが84年に振付けた作品

「アーティファクト」の一部パートです。


フォーサイスといえば

ギエムがよく踊る「イン・ザ・ミドル・サムホワット・エレヴェイテッド」

がとても有名なのではないかと思います。

「イン・ザ・ミドル~」を振付けたのは87年なので、

その少し前の作品。


そして、84年はフォーサイスが

フランクフルト・バレエ団の芸術監督に就任した年で、

パンフレットによると

「『アーティファクト』は所謂“フォーサイス・スタイル”の

幕開けを象徴する傑作」とされているそうです。



突き刺すように鋭いポワント・ワーク、

軸をオフラインにするような超越的な体の使い方、

過酷なほどの運動量を強いる緊張感あふれるムード、

そして、音の構造を崩壊させる前衛的な楽曲の使用



…というあたりが、いわゆるフォーサイスの特徴でしょうか。

物語は一切ない、コンテンポラリー・ダンスです。



私自身は、いくつかのガラでフォーサイス作品に接していますが、

毎回、観ている間に「感じ方」に変化があるように思っています。



最初に感じるのは

憎しみ、怒り、激しさ、刹那さ


次に感じるのが

悲しみ、せつなさ、憂い、儚さ


最後にわずかに感じるのが

優しさ、愛しさ、むなしさ、切なさ



作品により程度の差はありますが、

「観始めたときと、観終わるときでは、

心のなかに残っている感情が違う」というのは

たいてい同じです。



実はあまりフォーサイスについて学べておらず、

とても感覚的で恐縮なのですが…

身を切られるように辛い愛情

のような気分になります。



ダンサーに極限までの無理難題(時に痛み)を強いて、

そこから何を生み出すか? 何が出てくるか?

を問うているような振付です。

だからこそ、「どんなダンサーが踊るのか」によって

生まれ出る感情は、大きく異なる部分が多いです。



エレナはドレスデン国立歌劇場バレエ団のファースト・ソリストで

今回初めて拝見しましたが、

ザハロワにも似た長身&柔軟さ&美しい脚の持ち主。

(ちなみに、これまたザハロワ同様にワガノワ出身の方でした)


上記の「辿り着かない場所」でもそうでしたが、

まだ若いと思うのですが、かなり達観した雰囲気があります。



イリはこの作品にぴったりの個性であるように感じます。

というか…フォーサイス作品が合うのかもしれません。

彼自身の複雑で多面性を持つ個性が

フォーサイスの無機質な踊りを通して浮き彫りになるような、

そんな感覚を味わいました。



フォーサイス、そしてキリアンに関しては

集中して観て考えたいと思っているのですが…

なにかこう、観終わったあとの感情が複雑になりすぎて、

いまだに飲み込めていない部分が多いです。



ただ、今回の上演作品は

壊れきったあとのカタルシスのようなものを感じて

不思議とすがすがしい気持ちになりました。



この作品に関しては、

You-tubeに動画がありましたので

興味あれば以下ご覧ください↓

http://www.youtube.com/watch?v=cwQoEjv8f4E



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【ル・スフル・ドゥ・レスプリ―魂のため息】(日本初演)

 原題:Le Souffle de l'Esprit


振付:イリ・ブベニチェク

音楽:パッヘルベル「カノン ニ長調」、バッハ「G線上のアリア」、

ホフステッター「弦楽四重奏 ヘ長調5番」

オットー・ブベニチェク「天使の到着」、「サイレンス」、「天使の出発」



この作品は、イリの亡くなった2人の祖母に、

「さよならの代わりに」と作られたものです。


「エトワール・ガラ」の際には

「カノン」にのせて踊る部分のみ一部抜粋されました。


そのときは、オットーやマチュー・ガニオらが踊りましたが、

これを観たとき、不覚にも涙が出て、

心のなかがすーっと洗われるような感覚になったのです。



もともとパッヘルベルの「カノン」は

中学生のころから大好きな楽曲だから…

ということもあったかもしれませんが、

なにひとつ音の美しさを壊すことない

切なくて優しい踊りに見とれてしまいました。

(このマチューは、今まで観たどのマチューより良かったです)





全幕とはいえ、トータルで27分間と短い作品です。


私はこの作品に登場するダンサーたちは

すべて「天使」なのだと思って観ていますが、

この作品が果たして「天使」をあらわしているかは不明です。



ただ、全編とおして、イリが2人の祖母たちに

「こんな場所へ行ってほしい」と願いながら

振付けた作品であることは確かだと思います。



大きく分けると3部構成になっています。


イリが率いる(彼だけこのときは衣装が異なります)

おそらく天使たちであろう数人の男性が踊るなかに、

ひとりの女性が投げ込まれます。

これはたぶん、天国にやってきた女性。

(曲は、G線上のアリアです)


その女性はいつしか数人の女性に代わり、

何人もの男女が入り混じって踊ります。


「カノン」が踊られるのは最後のパート。



ここで3人の男性(イリ、オットー、イシュトヴァン・シモン)が

上半身は裸、下に白いパンツを履いた装いで、

「カノン」のように、お互いの動きをトレースしながら舞います。



しかも、笑顔でドワーッ



振付だけ取れば、かなりダイナミックなもので、

大きなジャンプや、4回転くらいのピルエットも多く、

かなり男性的でハードなものです。



でも、どこまでも笑顔で、幸せそうに踊るのです。



祈るような、優しい表情。

でも踊りは、生命力に満ち溢れており、

その場所は快活で、すこやかな場所に違いないという、

イリの願いがこめられているのでしょうか…祈る



次第に重なり合っていく、彼らの踊るさまが

まさに天使たちの羽ばたきのようで、

この曲のもつ、昇天するような音の高まりに

ぴたりとハマっていて、涙が出てきてしまいます。



イリが作った世界に、

今でも亡くなった人を見守る

美しい天使たちが存在しているのかもしれません。

そして観ている私たちもまた、

大切な人には、こんな場所で笑っていてほしいと

感じ、願ってしまうのです。




終わった瞬間に、爆発的な拍手。

ふとまわりを見回すと、ダンサーも観客も

同じように優しい笑顔をしていて、

この優れた作品が、また近いうちに日本で上演されることを

願ってやみません。



なお、繰り返し行われたカーテンコールの後に幕が閉まったとたん、

幕の向こう側から、ダンサーたちの歓声が聞こえました。

「ひゃっほう!」とでもいうような、大歓声。



最初に書いたとおり、

ものすごく残念なことに、空席が目立った舞台でした。

私は前のほうの列でしたが、いちばん端っこで、

でも私の前数列はすべて空いており、

実質的には最前列のような感じ。



だけど、多くの人たちが思わず声を上げるほどに

張り切って拍手をしていて、

たぶん、自分たちの踊りが伝わったことに、

彼らも気づいたのではないかと思います。



素晴らしい舞台に感謝。




「物語」という枠組みありきで考える振付は

キリアンやフォーサイスが狙った「伝え方」ではないけれど、

ある物語性を通して、いまたくさんの若い振付家が葛藤しています。

三浦雅士さんも指摘されていましたが、

ジャン・クリストフ・マイヨー(モンテカルロ・バレエ)もその筆頭にいます。



そのなかにイリ・ブベニチェクはいて、

バレエの振付を通して、現代の「世界のあり方」から考え、

それをひとつの物語(ストーリー)に置き換えたうえで、

その世界における生き方とは何か?を伝えようとしています。



だから空席がすごくもったいなくて…


次に来日した際は、

ぜひみんなで観にいきましょう!



今回も長いレポートで失礼しました。



最後に、これを読んで「カノン」を聴きたくなった方へ、

You-tubeにあった音のURLをつけておきます。

http://www.youtube.com/watch?v=S1QPAVwE0Wc



熱心にこれを書いていたら、もう3時半です。

ひとまず眠ります…おやすみなさい。



きいのバレエとゴハン帳


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