「……ちゃん、お兄ちゃんっ!」
ん、う~ん……
「お兄ちゃんてばっ! もういい加減起きなよ、何時だと思ってるの?」
「……え?」
眠たい目を擦って枕元の時計に目をやると
「……げ、12時35分」
「わかったら早く起きて!」
「……あと、5分、だけ」
「もうっ、お兄ちゃんのバカッ! そっちがその気ならこっちだって……えいっ!」
「うわっ!? やめろ遥っ!」
驚いたことに遥が俺の布団の中に入ってきた。そのうえ後ろから脇をくすぐってきている。
「やめて、欲しかったら、起きなさいっ!」
「ちょ、おま、やめろって!」
「起きるまでやめないんだらねっ!」
「そ、そんなこと言われても……」
俺だって起きたいのはやまやまなんだけど、ほら、アレがさぁ、朝はね……元気なんですよ。もうお昼だけど。
「……アレ、お兄ちゃん? どうしたの、お腹なんて押さえちゃって。もしかしてお腹痛いの?」
「ん、あ、あぁ。まぁ、な」
「大変っ、明日はお祭りなのに。きっとタコ焼き食べ過ぎたせいだよね? ちょっと見せて」
「え、ああ、いや、その…」
「いいから早く見せなさい!」
「いや、大丈夫だから。ほんと、まじで、めちゃくちゃ元気っす!」
ある意味嘘はついてないよな。うん、めちゃくちゃ元気ですとも。今日もハッスルしてます。
「……ほんとに?」
う゛、こいつ、上目遣いなんてどこで覚えやがった。瞳をうるうるさせながらそんな角度で見られたらいくら妹だって、その、アレだよ……か、可愛いじゃないか。
「あっ! それよりお腹すいた。着替えたら降りていくからご飯の用意してくれないか?」
「……んー、わかった。ちゃんと降りて来るんだよ? また寝ちゃってたら許さないよ。お仕置きしちゃうんだからね!」
「わかってるよ。ちゃんと降りていく。じゃあ頼んだ」
「うん」
そういうことで何とか遥には気づかれずにすんだ。はぁ、男はツライぜ……
だがしかし、昨日の疲れは酷く、結局俺は二度寝をしてしまった。
そして再び遥の手によって起こされることになるんだが。
……アレ? 遥がいない?
どこ行ったんだ?俺は今あいつに起こされたばかりなんだが。
そんな疑問が浮かんだのもつかの間、布団の中から聞こえるガサゴソという音。あ、あいつ、まさか!?
「お兄ちゃん、全然起きて来ないと思ったら、こういうことだったんだね……」
「は、はるか、ちがっ。これは」
言いかけたところで俺の言動は封じられた。
「うっ!」
「……大丈夫、私がすぐに楽にしてあげるからね」
「だ、ダメだっ! だって、だって俺たち……」
「言わないでっ!」
「……はるか?」
「それ以上言わないで。わたしは、わたしは、ずっと、お兄ちゃんのことが……」
「お、おい。嘘だろ?」
「嘘でこんなこと言わないよ。私はお兄ちゃんのことが……大好きだった。兄として、家族として。でも、最近気づいたの。これは、この気持ちはそんな感情じゃない。……恋なんだって」
「……遥」
「お兄ちゃん、私の全てをお兄ちゃんにあげる! だから、だから……お願い」
「遥っ!」
「お兄ちゃんっ!」
「と、いう夢を見たんだ」
と言う秋元。
「……あっそ」
別にどうでもいいよ。
「ちょ、おま! もっと感想とかないの!?」
だって眠いもん。
「須らく死ね」
「もはや感想じゃなくて願望!?」
こんなことを言いながら、実は俺もちょっとムフフな夢を見ていたりする。可愛かったなぁ……神無。
おかげで俺の中に潜む大蛇を沈めるのに時間がかかってしまい起きたのは12時すぎ。
それから軽く昼食を取り(やっぱり昨日の夜のタコ焼きが堪えて、あんまり食べることができなかった)、午後は何をしようかなぁとか考えていたんだが。
「そこの君、何だか暇そうじゃないか。うん、暇なんだろ? 暇だよな?」
秋元っぽいやつが話しかけてきた。
「……なんだよ」
「ふっ、やはり君は暇と見える。僕は今忙しくてたまらない。だがしかし、僕は暇そうな子供をほうっておけるような人間じゃないんだ。」
「……あっそ」
「仕方なく僕が遊んであげようじゃないか。今日はと・く・べ・つ・だ・ぞッ、エヘッ!」
訂正、秋元だった。
「NO,Thank You!」
即答する俺。
「ほわい!? あいあむ暇人アルヨ! あんど、ゆーあー暇人ネ!? そぅ、うぃーあー暇人でござる!! ぶぶぜら!!?」
言ってることはだいたいわかるけど、こいつ、いったい何語を使ってるんだ。少なくとも三ヶ国語以上は混ざってるし、ござるに至っては時代を大きく遡っている。
ていうかこいつ、一体ぶぶぜらを何だと思っているのだろうか。付加疑問文みたいな使い方しやがって。
「ざっつらいとアル!! うぃーあー暇人、びこーずうぃーあー非リア充orz そぅ、れっつぷれいギャルゲ! れっつえんじょいエロゲ! うぃーはう゛わいふいんざパソコン!!」
「っ!?」
「Oh! Mr.KEITA!? ひーいずエロゲますたー!! あんど、ひぃらぶロリ!! ひぃいず廃人!!!! いぇー!」
ま、まさかこのタイミングで啓太が出てくるだと!? その発想はなかった。「めんどくさいやつ×めんどくさいやつ」で、めんどくささが倍増しやがった!
くそっ、何て戦闘力だ……スカウターが振り切られただとっ!? く、化け物が……っ!
啓太は人差し指を立てて「ちっちっち」と。
「のんのんのん、Mr.AKIMOTO……ソレイジョウホメルデナイジェ~リア。テレルジャマイカ~//」
……こ、こいつっ!?英語さえほとんど使ってないのに、文体をカタカナにして無理矢理外国の名前を語尾に付けるだけでそれになりきりやがっただと……
……啓太、恐ろしい子。
つーか、こいつ何しに来たんだよ。出来そこないのアニメキャラみたいな台詞ばっかりしゃべりやがって。
「で、その、お前らは……何しに来たの?」
「ふふふ。よくぞ聞いてくれた」
と啓太。普通に話せるのかよ。
「優音にはまだ早いかもしれないが、僕たち二人が一緒なら問題ないだろう」
今度は秋元。最初からそうしろ。
「これを見ろっ!」
そう言って啓太が懐からおもむろに取り出したもの。それは何かのゲームのパッケージだった。
「……智○アフター?」
「そう、この名前と絵に見覚えがあるだろう……」
「……はっ! まさか、智○なのか!? この子は、坂上○代なのか!?」
「よく気づいたな、そうこれはあのCLA○NADの坂上智○と主人公のその後を描いたアフターストーリー。智○アフターだっ!!」
「ま、まさか、そんなものがあるだなんて……」
「甘いな、優音。アフターなんて人気キャラなら当たり前の話だぜ。ちなみにこの作品は高校卒業後の主人公と智○の同棲生活をモチーフにしたひと夏の感動の物語だ」
「……ど、同棲!? こいつらまだ未成年じゃないかっ! お、お、俺は許さんぞ!?」
「……優音」
秋元がガンの告知をする医者のような真面目な顔をしてこう言った。
「二次元には年齢の壁なんてないんだ!」
「……っ!?」
「百聞は一見に如かず。啓太」
「御意」
秋元が啓太に耳打ちすると、啓太がケースからパソコンを取り出し起動させた。
「何も言わずにまずはやってみろ。お前もついに大人の階段を上るときが来たんだよ……」
やけに大人びた顔でそんなことを言う啓太に俺は少し緊張を覚えた。喉が渇いてからからする。
とりあえずやってみよう。まずは、えっと……これか、New Gameと。
おお、BGMが流れ出した! 画面下に文章が現れる。主人公の一人称はキャラボイス無しか。俺が少し前にやった前作のCLA○NADとほとんど変わらないみたいだ。
お、ここが主人公と智○が暮らすアパートか。意外と小さいな。いや、まぁこんなもんか。
しばらく文章を進めると
『ただいま』
と、女の子の声がした。
「お、これは智○が帰ってきたのか!? ど、どうしよう、何だか緊張してきた……」
「落ち着け優音」
と啓太。
「お前ならできる」
さらに秋元。
「あ、あぁ! やってやるぜ!」
しかし智○ってこんな声だったっけ? 疑問に思って秋元に聞いてみたらギャルゲとエロゲでは声優さんが違うということを教えてくれた。なるほど、奥が深いぜエロゲ……
「……ん、エロゲ?」
「「エロゲ」」
二人揃ってそう答えた。
そこで画面に目をやると、何やらおかしな展開になっている。
何と智○が主人公のアレを、その……ナニしようとしているのだ。
そこでやっと選択肢が登場。
『靴下でしてくれ』
『パンツがいい』
「……おい。俺は何も知らされずにエロゲをさせられてたのか!? お前らふざけんなよっ!」
さすがに俺も二次元にエロを求めるつもりはない。そんなの変態的であるとさえ思う。
やつらは顔を見合わせ、そしてこちらを向いて、優しくふっと微笑み、そしてこう言った。
「「エロは嫌いか?」」
「……っ!?」
そ、そんなの好きか嫌いかと聞かれたら好きに決まっている。だがしかし……
「「感動、したくないのか?」」
し、したくないわけがない! しかし、しかしこれは……
「大丈夫、本能に身を委ねろ」
「お前ならできるさ」
啓太と秋元が口をそろえてそういう。あくまで優しく、小さい子供をあやすように。まるで菩薩のようなその笑みに、俺の怒気はあっさりと消し去られていた。
「……俺、にも、できるのか?」
二人は無言のままうなづいた。
そして俺もただただ無言のまま、本能の赴くままにハジメテのエロゲをプレイしていた。
そして数時間語。無事にエンディングを迎えてL○aの曲が流れ出した。
「……と、智○ぉおおおお! ぐすっ。何でだよ! 何でこんなに悲しい物語なんだよ! 誰か○代を幸せにしてやってくれよ! 主人公俺と変われ! お前はよくやった。だがもう十分だ。あとは俺に任せるんだっ!」
すっかりはまっていた俺。つーか号泣していた。何ていうか、エロゲのエロ要素って物凄く少なかった。全体の5%くらい。
あとは普通のギャルゲと変わらない。むしろストーリーは深く作り込まれ、前作とは違う世界観が不思議な感覚を与えてくれた。
「いっつあわんだふるらいふっ! 人生はこんなにも素晴らしい! 俺、間違えてた。秋元、啓太っ!」
「わかってくれたか優音!」
「お前を信じてたぜ!」
3人で熱い抱擁を交わす俺達、そこには今までに得たことのない連帯感のようなものが感じられた。
俺、もう変態でもいいや。
時計を見ると夜の7時半。ほとんど7時間くらいゲームをしていたみたいだ。
「啓太、もう結構遅い時間だし、お前晩御飯食べて行けよ」
「え、いいのか?」
「そうしろよ啓太。僕も泊めてもらってるから偉そうなことは言えないけどさ」
「そうだ、もうむしろお前も今晩は泊まっていけよ!」
「いいねぇ!」
「まじでいいのか?」
「「俺達の3人の仲だろ!」」
そして3人でまた熱い抱擁を交わしたのであった。その日、俺達は夜遅くまで智○アフターについて語り合った。
そんなこんなで俺達はついに祭の日を迎えることになったのである。
ん、アレ?
何だか、読者の視線が痛い気がするんだが……
き、気のせいだよな?
(お、俺が靴下を選んだことは内緒にしておこう。……うん、そうしよう)
そんなこんなで遅くまで語り合った俺達は、まるで遊び疲れた子供のように深い眠りについたのであった。