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key-nagiさんのブログ

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「……ちゃん、お兄ちゃんっ!」

ん、う~ん……

「お兄ちゃんてばっ! もういい加減起きなよ、何時だと思ってるの?」

「……え?」

眠たい目を擦って枕元の時計に目をやると

「……げ、12時35分」

「わかったら早く起きて!」

「……あと、5分、だけ」

「もうっ、お兄ちゃんのバカッ! そっちがその気ならこっちだって……えいっ!」

「うわっ!? やめろ遥っ!」

驚いたことに遥が俺の布団の中に入ってきた。そのうえ後ろから脇をくすぐってきている。

「やめて、欲しかったら、起きなさいっ!」

「ちょ、おま、やめろって!」

「起きるまでやめないんだらねっ!」

「そ、そんなこと言われても……」

俺だって起きたいのはやまやまなんだけど、ほら、アレがさぁ、朝はね……元気なんですよ。もうお昼だけど。

「……アレ、お兄ちゃん? どうしたの、お腹なんて押さえちゃって。もしかしてお腹痛いの?」

「ん、あ、あぁ。まぁ、な」

「大変っ、明日はお祭りなのに。きっとタコ焼き食べ過ぎたせいだよね? ちょっと見せて」

「え、ああ、いや、その…」

「いいから早く見せなさい!」

「いや、大丈夫だから。ほんと、まじで、めちゃくちゃ元気っす!」

ある意味嘘はついてないよな。うん、めちゃくちゃ元気ですとも。今日もハッスルしてます。

「……ほんとに?」

う゛、こいつ、上目遣いなんてどこで覚えやがった。瞳をうるうるさせながらそんな角度で見られたらいくら妹だって、その、アレだよ……か、可愛いじゃないか。

「あっ! それよりお腹すいた。着替えたら降りていくからご飯の用意してくれないか?」

「……んー、わかった。ちゃんと降りて来るんだよ? また寝ちゃってたら許さないよ。お仕置きしちゃうんだからね!」

「わかってるよ。ちゃんと降りていく。じゃあ頼んだ」

「うん」

そういうことで何とか遥には気づかれずにすんだ。はぁ、男はツライぜ……

だがしかし、昨日の疲れは酷く、結局俺は二度寝をしてしまった。

そして再び遥の手によって起こされることになるんだが。

……アレ? 遥がいない?

どこ行ったんだ?俺は今あいつに起こされたばかりなんだが。

そんな疑問が浮かんだのもつかの間、布団の中から聞こえるガサゴソという音。あ、あいつ、まさか!?

「お兄ちゃん、全然起きて来ないと思ったら、こういうことだったんだね……」

「は、はるか、ちがっ。これは」

言いかけたところで俺の言動は封じられた。

「うっ!」

「……大丈夫、私がすぐに楽にしてあげるからね」

「だ、ダメだっ! だって、だって俺たち……」

「言わないでっ!」

「……はるか?」

「それ以上言わないで。わたしは、わたしは、ずっと、お兄ちゃんのことが……」

「お、おい。嘘だろ?」

「嘘でこんなこと言わないよ。私はお兄ちゃんのことが……大好きだった。兄として、家族として。でも、最近気づいたの。これは、この気持ちはそんな感情じゃない。……恋なんだって」

「……遥」

「お兄ちゃん、私の全てをお兄ちゃんにあげる! だから、だから……お願い」

「遥っ!」

「お兄ちゃんっ!」




「と、いう夢を見たんだ」

と言う秋元。

「……あっそ」

別にどうでもいいよ。

「ちょ、おま! もっと感想とかないの!?」

だって眠いもん。

「須らく死ね」

「もはや感想じゃなくて願望!?」


こんなことを言いながら、実は俺もちょっとムフフな夢を見ていたりする。可愛かったなぁ……神無。

おかげで俺の中に潜む大蛇を沈めるのに時間がかかってしまい起きたのは12時すぎ。


それから軽く昼食を取り(やっぱり昨日の夜のタコ焼きが堪えて、あんまり食べることができなかった)、午後は何をしようかなぁとか考えていたんだが。

「そこの君、何だか暇そうじゃないか。うん、暇なんだろ? 暇だよな?」

秋元っぽいやつが話しかけてきた。

「……なんだよ」


「ふっ、やはり君は暇と見える。僕は今忙しくてたまらない。だがしかし、僕は暇そうな子供をほうっておけるような人間じゃないんだ。」

「……あっそ」

「仕方なく僕が遊んであげようじゃないか。今日はと・く・べ・つ・だ・ぞッ、エヘッ!」

訂正、秋元だった。

「NO,Thank You!」

即答する俺。

「ほわい!? あいあむ暇人アルヨ! あんど、ゆーあー暇人ネ!? そぅ、うぃーあー暇人でござる!! ぶぶぜら!!?」


言ってることはだいたいわかるけど、こいつ、いったい何語を使ってるんだ。少なくとも三ヶ国語以上は混ざってるし、ござるに至っては時代を大きく遡っている。

ていうかこいつ、一体ぶぶぜらを何だと思っているのだろうか。付加疑問文みたいな使い方しやがって。

「ざっつらいとアル!! うぃーあー暇人、びこーずうぃーあー非リア充orz そぅ、れっつぷれいギャルゲ! れっつえんじょいエロゲ! うぃーはう゛わいふいんざパソコン!!」

「っ!?」

「Oh! Mr.KEITA!? ひーいずエロゲますたー!! あんど、ひぃらぶロリ!! ひぃいず廃人!!!! いぇー!」

ま、まさかこのタイミングで啓太が出てくるだと!? その発想はなかった。「めんどくさいやつ×めんどくさいやつ」で、めんどくささが倍増しやがった!

くそっ、何て戦闘力だ……スカウターが振り切られただとっ!? く、化け物が……っ!

啓太は人差し指を立てて「ちっちっち」と。

「のんのんのん、Mr.AKIMOTO……ソレイジョウホメルデナイジェ~リア。テレルジャマイカ~//」

……こ、こいつっ!?英語さえほとんど使ってないのに、文体をカタカナにして無理矢理外国の名前を語尾に付けるだけでそれになりきりやがっただと……

……啓太、恐ろしい子。

つーか、こいつ何しに来たんだよ。出来そこないのアニメキャラみたいな台詞ばっかりしゃべりやがって。

「で、その、お前らは……何しに来たの?」

「ふふふ。よくぞ聞いてくれた」

と啓太。普通に話せるのかよ。

「優音にはまだ早いかもしれないが、僕たち二人が一緒なら問題ないだろう」

今度は秋元。最初からそうしろ。

「これを見ろっ!」

そう言って啓太が懐からおもむろに取り出したもの。それは何かのゲームのパッケージだった。

「……智○アフター?」

「そう、この名前と絵に見覚えがあるだろう……」

「……はっ! まさか、智○なのか!? この子は、坂上○代なのか!?」

「よく気づいたな、そうこれはあのCLA○NADの坂上智○と主人公のその後を描いたアフターストーリー。智○アフターだっ!!」

「ま、まさか、そんなものがあるだなんて……」

「甘いな、優音。アフターなんて人気キャラなら当たり前の話だぜ。ちなみにこの作品は高校卒業後の主人公と智○の同棲生活をモチーフにしたひと夏の感動の物語だ」

「……ど、同棲!? こいつらまだ未成年じゃないかっ! お、お、俺は許さんぞ!?」

「……優音」

秋元がガンの告知をする医者のような真面目な顔をしてこう言った。

「二次元には年齢の壁なんてないんだ!」

「……っ!?」

「百聞は一見に如かず。啓太」

「御意」

秋元が啓太に耳打ちすると、啓太がケースからパソコンを取り出し起動させた。

「何も言わずにまずはやってみろ。お前もついに大人の階段を上るときが来たんだよ……」

やけに大人びた顔でそんなことを言う啓太に俺は少し緊張を覚えた。喉が渇いてからからする。

とりあえずやってみよう。まずは、えっと……これか、New Gameと。

おお、BGMが流れ出した! 画面下に文章が現れる。主人公の一人称はキャラボイス無しか。俺が少し前にやった前作のCLA○NADとほとんど変わらないみたいだ。

お、ここが主人公と智○が暮らすアパートか。意外と小さいな。いや、まぁこんなもんか。

しばらく文章を進めると

『ただいま』

と、女の子の声がした。

「お、これは智○が帰ってきたのか!? ど、どうしよう、何だか緊張してきた……」

「落ち着け優音」

と啓太。

「お前ならできる」

さらに秋元。

「あ、あぁ! やってやるぜ!」

しかし智○ってこんな声だったっけ? 疑問に思って秋元に聞いてみたらギャルゲとエロゲでは声優さんが違うということを教えてくれた。なるほど、奥が深いぜエロゲ……

「……ん、エロゲ?」

「「エロゲ」」

二人揃ってそう答えた。

そこで画面に目をやると、何やらおかしな展開になっている。

何と智○が主人公のアレを、その……ナニしようとしているのだ。

そこでやっと選択肢が登場。


『靴下でしてくれ』
『パンツがいい』


「……おい。俺は何も知らされずにエロゲをさせられてたのか!? お前らふざけんなよっ!」

さすがに俺も二次元にエロを求めるつもりはない。そんなの変態的であるとさえ思う。

やつらは顔を見合わせ、そしてこちらを向いて、優しくふっと微笑み、そしてこう言った。

「「エロは嫌いか?」」

「……っ!?」

そ、そんなの好きか嫌いかと聞かれたら好きに決まっている。だがしかし……

「「感動、したくないのか?」」

し、したくないわけがない! しかし、しかしこれは……

「大丈夫、本能に身を委ねろ」
「お前ならできるさ」

啓太と秋元が口をそろえてそういう。あくまで優しく、小さい子供をあやすように。まるで菩薩のようなその笑みに、俺の怒気はあっさりと消し去られていた。


「……俺、にも、できるのか?」

二人は無言のままうなづいた。

そして俺もただただ無言のまま、本能の赴くままにハジメテのエロゲをプレイしていた。


そして数時間語。無事にエンディングを迎えてL○aの曲が流れ出した。



「……と、智○ぉおおおお! ぐすっ。何でだよ! 何でこんなに悲しい物語なんだよ! 誰か○代を幸せにしてやってくれよ! 主人公俺と変われ! お前はよくやった。だがもう十分だ。あとは俺に任せるんだっ!」

すっかりはまっていた俺。つーか号泣していた。何ていうか、エロゲのエロ要素って物凄く少なかった。全体の5%くらい。

あとは普通のギャルゲと変わらない。むしろストーリーは深く作り込まれ、前作とは違う世界観が不思議な感覚を与えてくれた。

「いっつあわんだふるらいふっ! 人生はこんなにも素晴らしい! 俺、間違えてた。秋元、啓太っ!」

「わかってくれたか優音!」

「お前を信じてたぜ!」

3人で熱い抱擁を交わす俺達、そこには今までに得たことのない連帯感のようなものが感じられた。

俺、もう変態でもいいや。

時計を見ると夜の7時半。ほとんど7時間くらいゲームをしていたみたいだ。

「啓太、もう結構遅い時間だし、お前晩御飯食べて行けよ」

「え、いいのか?」

「そうしろよ啓太。僕も泊めてもらってるから偉そうなことは言えないけどさ」

「そうだ、もうむしろお前も今晩は泊まっていけよ!」

「いいねぇ!」

「まじでいいのか?」

「「俺達の3人の仲だろ!」」

そして3人でまた熱い抱擁を交わしたのであった。その日、俺達は夜遅くまで智○アフターについて語り合った。

そんなこんなで俺達はついに祭の日を迎えることになったのである。

ん、アレ?

何だか、読者の視線が痛い気がするんだが……

き、気のせいだよな?

(お、俺が靴下を選んだことは内緒にしておこう。……うん、そうしよう)

そんなこんなで遅くまで語り合った俺達は、まるで遊び疲れた子供のように深い眠りについたのであった。




不思議なことに、僕は今まで一度も彼女とちゃんとした約束をしたことがなかった。場所や時間、何をして遊ぶか。

でも、彼女は決まって僕が行く場所に時間ぴったりに現れる。理由を深く考えたことはなかった。

そして小学校にあがった春。僕の頭の中に一つの疑問が浮かび上がった。

きっかけは入学式。今日から小学生、そんな期待とは別に僕の胸を時めかせるもの。それは彼女と学校でも遊べるということだった。

だから僕はずっとこの日が楽しみでしかたなかったんだ。でも、入学式当日、彼女は学校には来なかった。

具合が悪かったんだ。入学式はお休みしたんだ。明日からは絶対登校するはすだ。そう思うことにした。そこに疑いはなかった。


しかし、次の日もその次の日も、彼女が学校に来ることはなかった。そして学校が休みの日曜日。僕はあの公園を訪れていた。

彼女はいた。いつもと変わらない優しい笑顔でそこに立っていた。


「何で学校に来ないの?」

思わず僕はそう尋ねた。すると彼女は、喧嘩の言い訳を考える子供みたいにバツの悪い顔をし、そしてこう答えた。

「私が居られる場所はこの公園とお花畑だけなんだ。」

「……どうして?」

「わからない。でもわかるの。私の居場所はここだけだ、って。他の場所は必要ないし、例え行きたくても行くことはできないんだ。」

彼女の話は難しくて、何を言ってるのかよくわからなかった。それでも一つだけ、一つだけ僕にもわかることがあった。

「それってさ……何か、寂しくない?」

「……ぇ?」

僕の問い掛けに、彼女は今まで見せたことのない顔をした。

「だってそうだよ。僕だったらそんなのきっと堪えられない。」

「でも私はずっとそうだったから」

「じゃあこれから変わればいいんだよ!」

それでも彼女は首を縦にふろうとはしなかった。

「……無理だよ」

「でも、」

「無理なのっ!」

「……ゴメン」

彼女がここまで語尾を荒げたのを見たのは初めてだった。

「ゴメンね、でも……本当に無理なの」


「……よし、わかった! 僕に任せて」

「え、どうするの?」

「いいからいいから。今度の日曜もまた会いに来るから。同じ時間にお花畑に来てよ」

「……う、うん。でも、」

「じゃあ今日はもう帰るね」

「え、あっ……うん、またね。今日はゴメンね」

「ううん、大丈夫。来週、楽しみにしててね」


そう言って彼女と別れた僕の頭の中には1つの考えが浮かんでいた。

彼女がここから出られないのなら僕がみんなを連れて来ればいいんだ。そうすれば彼女にも、僕みたいにいっぱい友達ができる。

友達が出来れば彼女も外に出てきてくれるはず。そうすればきっと学校にも来るようになる。

いつも一人なんて寂しくないわけないじゃないか。そんなの僕は絶対嫌だ。


そして次の日、僕は学校のみんなを誘った。


「次の日曜日? 大丈夫だよ」
「お花畑かぁ~。私楽しみ!」
「早く遊びに行きたいね」


友達が数人来てくれることになった。彼女のことは言わなかった。当日まで内緒にしてビックリさせたかったからだ。

丘を越えた先に綺麗なお花畑があるからみんなでいこうよ、とだけ伝えた。


それからの毎日はとにかく週末が待ち遠しかった。早く彼女の喜ぶ顔が見たかった。


そしてついに日曜日。この日がやってきた。

僕は友達を引き連れて、彼女との約束の場所に向かう道を歩いている。

鉛色の空は何だか重苦しく、今にも泣き出しそうに曇っていて心配だったけど、何とか持ちこたえてくれていた。

前に通った林も天気のせいか、より不気味に感じた。しかし皆にとってはそのほうがよかったみたいだ。お化けが出そうだとか魔女が住んでるんだとかそんな話で盛り上がっていた。


そしてついに林を抜け、向日葵畑に辿り着いた。

みんなは口を揃えて

「すげぇ」
「広い」
「綺麗」

とか言っている。僕が初めてきたときに持った感想と同じだった。


一つ、僕は心にひっかかるものを感じた。おかしい。今日の畑はいつもと何かが違う。


何て言うか、こう、花に元気がない。もちろん綺麗に咲いているのだけれども、なぜかその花びら達は力無く萎れているかのように見えた。

天気のせいだろう。曇りだからお花も元気をなくしたのだろう。そう思うことにした。


そして更にもう一つの異変に気づく。彼女がいない。彼女はいつもお花畑の入口の近くで僕を待っていてくれた。

今日ももちろんそこにいてくれるのだと思っていた。でも、そこに彼女はいなかった。

もしかしたら遅れて来るのかもしれない。何か急用ができたのかも。何にせよ、友達にはまだ彼女のことは言ってなかったからそっちの心配はしなくてよさそうだ。

そのあとも、皆と遊ぶふりをしながらずっと彼女を探しつづけたけど、結局見つからなかった。

仕方ない。今日はもう帰ろう。そう思って踵を返そうとした瞬間、背後から女の子の声がした。


「……嘘つき」


え、どういうことだ。何で彼女がここにいるんだ? 今までどこで何をしていたんだ? そんな疑問ばかりが頭の中を交差し行き交う。

しかし、そのどれも僕は口にすることができなかった。彼女があまりにも哀しく、辛く、切なそうな表情だったから。

それでも僕は何かしゃべらないといけないと思った。今日ここに来た目的を思い出すんだ。

僕は、彼女を悲しませるためにここに来たんじゃない。喜ばせに来たんだ。


「ゴメンね、みんな。実は今日は、この女の子と友達になってほしくてここに呼んだんだ。この子は僕の友達なんだ。優しくて可愛くて、とってもいい子なんだよ」

みんなに彼女を紹介した。もちろん皆彼女を気に入ってくれると思っていたし彼女も皆を気に入ると思っていた。

だがそんな淡い期待は、水面に浮かぶ泡のようにあっさりと弾けて消え去ってしまった。それも最悪の形で。

「え、と……誰のこと?」

え?

「どこにそんな子がいるの?」

みんな何言ってるんだ?

「ちょ、こいつ気味悪いよ。さっきからずっとキョロキョロしてるしさ」

気味悪い? 彼女が? いや、違う、友達は僕を指差していた。

「こんなやつ放っておこうよ。それより早く帰ろうぜ。そろそろ雨降りそうだしさ」

そう言って彼らはぞろぞろと来た道を帰りだした。まるで一刻でも早くこの場所を去りたいかのように速足で。

「え、ちょっと、みんな! 待ってよ!」

しかし僕の呼びかけが彼らに届くことはなく、みんなの姿はもう見えなくなってしまっていた。

何でだよ、何でこんなことになったんだ……僕は、僕はただみんなで仲良く遊びたかっただけのなに。

振り向くとそこにはさっきと同じ姿勢で立ちすくんでいる彼女がいた。

しばらくの間沈黙が続いた。彼女は何もしゃべらない。僕も失望感と虚無感の板挟みになり何も言うことができなかった。

みんなが言っていることも、彼女の言った嘘つきという言葉の意味も全く理解できなかった。しかし突然、彼女がその重い口を開きこう言った。


「……何で約束破っちゃうのかな」

僕ははっとした。確かに、僕は彼女と約束をしていたのだ。ここは二人だけの秘密の場所だと。

「でも……でも、」

「……二人だけの、二人だけの秘密だって約束したじゃないっ! 嬉しかったのに……私にも、やっと……やっと信頼できる友達ができたと思ったのに!」

「僕はただ……みんなとも仲良く遊べればもっと楽しいと思っただけで、」


「みんななんてどうでもいい!」

彼女の一言によって僕の弁解の言葉は打ち切られた。

「私は、私はただ君と一緒に居られればそれだけでよかった。……それだけでよかったのに。ねぇ、前にもそう言ったよね? 覚えてないの?」


もちろん覚えている。今だってそう言ってもらえることに、不謹慎ながらも少しドキっとした。

「それに、わかったでしょ。みんなには私のことなんて見えないんだよ。みんな私のことなんてどうでもいいんだ。」

「そんなこと、」

「……あるんだよ」

そう言った彼女の顔は、今までに見たこともないほどの悲しみで埋め尽くされていた。

「お母さんも、お父さんも。それに……あの子だって。私のことなんてどうでもよかったんだよ。ほかのみんなだってそうだ。私はいらない人間なんだ」


何のことだろう、話の流れが全く解らない。お母さん、お父さん、それにあの子って? 彼女の口から家族の話が出たのは初めてだった。

「そんなことないよ。少なくとも僕は……僕だけはいつまでも君の味方だ。ずっと、ずっと一緒にいる」

「ほんとに?」

小さな子供みたいに泣きじゃくりながら彼女はそう言った。

「うん、絶対!」


僕が彼女に向けて放ったこの言葉。深い意味はなかった。本当に彼女のそばに居たいと思ったから、彼女が好きだったから自然と口から出てきた言葉だった。

僕はこの時思いもしなかった。

この言葉が何を意味するか。そしてどのような出来事をもたらすか。


そして彼女が次に口にする言葉は思いもよらないものだった。
最初は何を言っているのか、その意味さえわからなかった。

しばらくすると体の節々が冷えてきて、がくがくと震え出す。全身から血の気が引いてくらくらする。

それでも彼女は、そんな僕を見ながらでも、微笑み続ける。いつものように優しく、愛らしい笑顔で。まるで親にお誕生日のおねだりをする子供のような無邪気な顔でこう言うのだ。


「じゃあさ、君は、私のためならさ、死んでも……いいんだよね?」




「お兄ちゃん、そこ、違っ」

「わ、悪い。……こっちか?」

「………………。」


「そう、あってるよ。あ、待って。そこはまだダメッ!」

「すまん」

「………………。」


「ゆっくりでいいからね」

「ああ」

「………………。」


「あ……もう大丈夫だよ」

「ほんとか?」

「………………。」


「うん、優しくだよ。」

「これでいいのか?」

「………………。」


「そうそう……お兄ちゃん上手だね」

「そ、そうかな」

「………………。」


「最後はたっぷりかけてね」

「あぁ、じゃあ、いくぞ」

「………………。」


「……あっ!」

「あ、悪い。ちょっと跳びはねちまった。」

「………………。」


「もぉー、しょうがないなぁお兄ちゃんは。ペロッ……美味しい」

「ごめんな」




「………………。って、あんたら二人はさっきから何やってるんだよー!!!」


ん、何言ってんだ秋元のやつ。

「あ? 何って。見てわかんねーの? タコ焼き焼いてるんだよ」


「会話がいちいちやらしいんだよ、何がじゃあいくぞだよ。勝手にどこにでもいっちまえっ!」

「お前がそんなことばっかり考えてるからそう聞こえるんだ。」

「誰が聞いてもそう聞こえるよ!」

まったく、これだから思春期の童〇野郎は。まぁ、俺もだけど……

ちなみに遥が舐めてたのはタコ焼きのソースだ。……べ、別に俺はわざとやったわけじゃないからな。誤解するなよ、読者サービスだからな!


「でも秋元さんも初めてなのにとっても上手ですよ?」

「え、まじ? いやぁ、それほどでもwww まぁ僕って実は天才だしね、そんじょそこらの馬の骨たちとは出来が違うっていうか……なんとかかんとか」

以下略。


って、ことで俺達は今タコ焼きを作っている。材料を入れて焼いて回すだけだから簡単なんじゃないかとか思ってたがそれは違った。

やってみると意外と難しい。回すのが早いとくずれちまうし、遅いと焦げてしまう。

それに祭の屋台だからスピードも要求される。ちんたらやってたんじゃとてもじゃないが売れっこない。

これは大変そうだな。

「お兄ちゃん、大丈夫? ちょっと休憩しよっか」

「いや、俺は大丈夫だぞ」

「でももう結構遅いし。それに……それ以上焼いたら食べきれなくなっちゃうよ?」

あ、確かに。あたり一面俺が焼いたタコ焼きだった。失敗したものを除いても結構な量だ。

「私、スイカきってくるね」

そう言って遥は台所へと向かった。

「おい、秋元」

「あれ……遥ちゃんは!?」

「スイカきりに行った」

「あぁスイカね。で、何だよ?」

「昼間の話どうおもう?」

「あ? お前まだそんなの気にしてたの。まったく、変なところで神経質だよなお前」

「うるせえよ。で、どうなんだよ」

「どうって言われてもなぁ。確かに可哀相な話ではあるけど。でも実話かどうかっていわれたら、簡単に信じられる話でもないだろ。ほんとに未来を変えられるなら、彼女達が命を落とすことなんてなかっただろうしさ。」

「そっか」


こいつも意外とまともなことを考えてるんだな。てっきりまたふざけるものだと思ってた。

確かに俺も話の全てを信じたわけじゃない。まだまだわからないこともいっぱいある。

でも何故かそれは本当にあった出来事だという確信だけはあった。根拠はないがそう思う。


「それにさぁ、」

「ん?」

「村の男達羨ましすぐる!!!」

「…………。」


……結局こいつの思考はこっちに繋がるんだな。ちょっとでも感心した俺の感動を返せ!


「お兄ちゃーん、秋元さーん。スイカきれたよー」

遥が呼んでいる。我ながら働き者の妹だと思う。まじで誰に似たんだろうか。実は両親の子供じゃなかったりして……

ってことは

『お兄ちゃん、実は私……』

『言うな! もう何も、何も言わなくてもいいんだ。』

『お義兄ちゃんっ!』

『遥っ!』

みたいな展開も……あるわけないだろ。誰がお義兄ちゃんだ。俺はお兄ちゃんだ。


「おい優音、何ニヤニヤしてんだよ。早くスイカ食べに行こうぜ」

「悪い、あまりにもお前の顔が面白おかしくて笑いを堪えることができなかった」

「性格わるっ!」

危ない危ない、秋元に気づかれるところだった。俺、シスコンなのか?



そのあとは3人並んで縁側に座ってスイカを食べた。

うーん、妹と友達とスイカを食べるっていうのも何か変なシチュエーションだな。みんなさっきからしゃべらないし。

静かだ。こんな空気堪えきれない。


「ぷぷぷぷぷぷっ!」

「ぐはっ! バカ、やめろ、う、鼻の穴に入った! ちょ、息できないっ」

秋元にスイカの種を吹きかけてやった。うん、非常に嬉しそうだ。やっぱりこうじゃないとな。

「くそ、よくもやったな! それならこっちだって、ぷぷっ、ぐはっ!」

あ、秋元が生意気にも種を飛ばしてこようとしたから反射的に殴ってしまった。


「あんたは鬼ですかっ!?」

「人だ」

「うるせぇよっ!」


「もう、お兄ちゃん。暴力はいけないんだよ。大丈夫、秋元さん?お口の周りよごれてますよ。ふきふき」

「は、遥ちゃん……結婚してくださいっ!」


「嫌ですごめんなさい」

満面の笑みで断られていた。


そんなこんなで夏の風物詩、スイカを堪能した後はひたすらタコ焼きの練習。

焼いては食べ、焼いては食べを繰り返してるうちにもう夜中だ。

今日だけで一生ぶんのタコ焼きを食べたかもしれない。

うえっ、だんだん気持ち悪くなってきた。

秋元はとっくにへばって床に倒れている。俺もそろそろ限界だ。今日はこれくらいにしとこう。


練習の成果があったのか、最後のほうはだいぶ形になってきていた。

味もなかなか悪くない。この分なら明後日までに何とかなりそうだ。

しかしまたこの量のタコ焼きを食べることを考えると憂鬱な気分になる。

焼きそばとかだったらもっと楽に作れるんだけどなぁ。あと二日の我慢だ、頑張れ俺!


明日は朝ごはん食べられそうにないなぁ、なんてことを考えながらこの日は眠りについた。