“危険な暑さ”は鉄道にも大敵
…レールが伸びる!
列車が走行している時に、車両の下から聞こえてくる「ガタンゴトン」という音。これはレールの継ぎ目にある隙間(遊間=ゆうかん)の上を車輪が通る時に鳴る音だ。では、なぜ騒音や振動を発生する遊間を設けるのか? 答えは夏と冬の気温差にある。
一見なんの変化もないように見える硬い鉄も、温度が上がれば膨張し、低ければ縮んでいる。このわずかな収縮を「熱膨張」というが、レールは長いので、これが無視できない大きさとなる。
↑↑JR北海道のレールの熱を冷ます、散水列車。
少々難しい話になるが、そもそもレールがどれぐらい伸びるのかということには公式があり、これに数値を当てはめると長さの変化が分かる。その公式は、ΔL=α(熱膨張率)×Lo(元の長さ)×T(温度差)となっている。
鉄の熱膨張率は、0.000012とされており、一般に定尺レールと呼ばれるレールの長さが25m(25,000mm)なので、例えばレールの温度が0度から30度へ上昇したと仮定して公式に当てはめると、0.000012×250000×30=約9mmとなる。実際には冬は氷点下に、そして真夏の炎天下では50度以上にもなることから、長さの変化はもっと大きな値になる。
このため、遊間の間隔を十分にとっていないと、レールが伸びた際に遊間が0になってしまう。そうすると、レールの内部で発生する、レールが延長方向に働く軸力という応力により大変な力が加わることになる。これはレールの太さ(断面積)で異なるが、30度近く温度が上昇した場合には、数十トンもの力が加わることになる。
↑↑猛暑になると、熱でレールが曲がることがある。写真は1977年8月5日、名鉄名古屋本線で曲がったレール。
当然、こうなってしまっては大変だ。レールは枕木で軌間(きかん=レールの間隔)が強固に固定されていて、このはしご状になった軌匡(ききょう)が、バラスト(砂利)によって路盤に固定されているが、この大きな軸力の影響でレールが曲がってしまうのだ。
この非常に危険なレールの曲がりを「張り出し」といい、過去には張り出しが発生して脱線事故なども起きたことがある。
ロングレールの熱対策
近年は、列車の乗り心地を良くするため、1本を長くして継ぎ目を減らした、ロングレールを使用する路線が増えている。ロングレールとは一般的には200m以上のレールを指すが、実際の敷設では1,000m程度のものもある。
↑↑2010年8月6日、猛暑でレールが曲がらないように札幌で運転された散水車。
この場合、計算上では30度の温度変化が起きると約360mmも伸縮することになるが、不動区間という、ロングレールの中間部分ではレールが伸縮しないように押さえ込んでいるため、その両端の200m前後が可動区間として伸縮の余地を残しているのだ。
↑↑猛暑でレールが曲がらないように札幌で運転された散水車がレールに水撒き!。
それでも伸縮量はかなりのものとなるので、レールの継ぎ目が工夫されることとなる。一般的な定尺レールの継ぎ目は「突き当り合わせ継目」になっているが、ロングレールの場合は「伸縮継目」といって、伸縮した分を逃がすための特殊な構造になっている。こうして事故や障害を未然に防いでいるのである。
by GIG@NET