関東と関西の鉄道、環境や歴史が生んだ
「違い」
関東大手の東急電鉄・2020系電車
関東と関西の都市圏に張り巡らされた、JRや大手私鉄、地下鉄などの鉄道網。都市圏の輸送を担うという点は共通していても、東西の鉄道にはさまざまな「違い」がある。
2020年2月ごろにコロナ禍が拡大し始める前は、ビジネスや観光などさまざまな目的で全国各地を多くの人々が行き来していた。中でも関東と関西の間の移動はとくに多かったであろう。
だが、外出自粛が進み、これまで会議や打ち合わせなどのために社員や職員らが東西を頻繁に行き来していた会社や官公庁なども会議をオンラインに切り替えたところが多い。出張なども大幅に減った。それゆえ、関東・関西それぞれの人が、東西の鉄道の「違い」を感じる機会は少なくなったのではないだろうか。
東西「赤い地下鉄」の違い
東海道新幹線の発着する東京駅に乗り入れる地下鉄といえば、赤いカラーの東京メトロ丸ノ内線である。もちろん、東西線などで大手町駅から地下通路で東京駅へアクセスすることも可能だが、駅名が同じということで丸ノ内線を挙げたい。6両編成、第三軌条方式の路線で、架線がないためトンネルの天井は低い。
そして新幹線に乗って新大阪に着くと、大阪メトロ御堂筋線に乗り換える人が多い。JR在来線で大阪駅に出ることも可能だが、大阪市中心部へのダイレクトアクセスは御堂筋線が便利である。
そんな御堂筋線のラインカラーは、赤である。電車の上を見るとパンタグラフも架線もないので、第三軌条方式の鉄道だとわかる。丸ノ内線と同じだ。
しかし御堂筋線は10両編成。同じ第三軌条の地下鉄でも、丸ノ内線より御堂筋線のほうが立派だと感じさせられる。
丸ノ内線は、戦前から計画されていた路線である。当初は銀座線から分岐する路線として計画された。銀座線も最初は短編成で、余裕を持たせて多くの駅は当初から6両編成対応で駅施設をつくった。銀座線の前身の1つである東京地下鉄道の創立者、早川徳次には先見の明があったといえる。
しかし、御堂筋線は当初からもっと長い10両編成に対応できるようにした。大阪市の都市計画を考えた關一(せきはじめ)の先見の明がありすぎたということになる。
また、御堂筋線の大阪中心部の駅で降りると、天井の高さに気づく人も多いのではないだろうか。
Osaka Metroの御堂筋線・天王寺駅のシャンデリアは美しい!
Osaka Metroの御堂筋線梅田駅のリニューアル工事ですが、この度天井部分のリニューアル工事が完了し、見違えるように美しくリニューアルされました。
これも東京の地下鉄とは大きく違う。東京の地下鉄駅は天井が低い傾向があり、開放感のある大阪の地下鉄駅に魅力を感じる人もいるであろう。東京在住の方々は大阪の地下鉄、いいよなあと思ってしまうのでは?。
地下鉄から地下鉄に乗り換える際も、東西の違いを感じる。東京の地下鉄は、銀座線と丸ノ内線を除いて架線があり、パンタグラフから集電している。地上を走る鉄道との相互乗り入れのためだ。
一方、大阪の地下鉄は8路線中5路線が第三軌条方式で、中央線の場合は乗り入れ先の近鉄けいはんな線が第三軌条方式に合わせた。他線との乗り入れがあり、架線集電なのは堺筋線だけである。「市営モンロー主義」(市内の交通は民営でなく市営で担うとする考え方)は過去ほどではないにせよ、いまでも大阪の地下鉄の伝統として民営化しても残っているのだ。
中距離電車はシートに大差
地下鉄だけではない。JRにも違いはあるのだ。
JR西日本の新快速225系
関東のJRでは、通勤型電車と近郊型電車が統合されて、「一般型電車」として走行している。進行方向を向いて座れるシートがあるのは、普通車だと一部のボックスシートのみで、狭くて快適ではない。あとはロングシートだ。グリーン車はあるが別料金である。一方、新快速に代表される関西の中距離電車は転換クロスシートである。進行方向を向いてゆったりと座れる。ロングシートよりも多くの人が着席できる。
背景にあるのは、東西のラッシュ時混雑率の違いだ。コロナ禍にさしかかる2019年度、関東でもっとも混雑していたのは東京メトロ東西線の木場―門前仲町間で、混雑率は199%。続いてJR東日本横須賀線の武蔵小杉―西大井間が195%、JR総武線各駅停車の錦糸町―両国間が194%、JR東海道線の川崎―品川間が193%と、中距離電車でも上位にランクインしている。これではゆったりとした中距離電車の通勤は無理だとわかる。
一方、同年度の関西では阪急神戸本線の神崎川―十三間149%が最高である。続いて大阪メトロ御堂筋線の梅田―淀屋橋が148%、阪急宝塚本線の三国―十三間が146%、大阪メトロ中央線の森ノ宮―谷町四丁目間が140%となる。JRの新快速は関西混雑率トップ10には入らない。東海道快速線の茨木―新大阪間が98%、尼崎―大阪間が99%だ。
「上野東京ライン」や「湘南新宿ライン」は関西の「アーバンネットワーク」と比較することも可能だが、新快速を中心とした関西の鉄道ネットワークは余裕がないとできないもので、ここにも東西の違いがある。
今はコロナ禍で使用することがなかなか難しい「青春18きっぷ」(それでも販売されているが)を使って移動すると、関東では苦痛であるのに対し、関西ではそうでもないと思えるのは、東西での混雑率の大きな違いが背景にある。
私鉄のブランド力はどう違う?
では私鉄はどうか。関西の私鉄車両を見ると、塗装が美しいと感じる。とくに阪急電鉄だ。あの深みのあるマルーン。たまらないものがある。
阪急沿線住民が阪急を愛する理由として、車両の質感の高さ、とくに塗色の質感の高さがあると考えられる。
一方、関東で沿線からの「愛」が強い東急を見ると、車両のステンレス化にいち早く取り組み、色はラインカラーの帯で済ませている。
軽量ステンレス鋼製車体の東急9000系電車
そのほうが合理的なのだろう。古い車両の中には、今では質感がいいとはいえないものもある。
沿線を丸抱えでブランド化するビジネスモデルは、阪急の小林一三が開発し、それを東急の五島慶太が関東に持ち込んだ。阪急は鉄道の質感を高めることを中心としていく一方、東急はグループ全体のサービスを上質にしていくことを中心にしていった。
両者の違いはあれど、その中で阪急の「色」はブランド力の向上に大きく寄与した。
「ヨコハマネイビーブルー」の12000系電車2019年4月に登場。20000系と同様に「デザインブランドアッププロジェクト」のコンセプトを反映した新型車両。相鉄・JR直通線の開業(2019年11月30日)で新宿方面に乗り入れています。
関東でも同様の戦略を相模鉄道が始めた。「デザインブランドアッププロジェクト」だ。「ヨコハマネイビーブルー」と呼ばれる塗装を車両に施し、鉄道のアイデンティティを高めようとしている。関西のよいものを関東が取り入れようとしていると考えられる。
歴史や環境の違いが生んだ関東と関西の鉄道の特徴。両者にはさまざまな違いがあり、そしてそれぞれに魅力がある。
by GIG@NET
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