切手コレクションはシートで集めるべきか | 郵便・切手から 時代を読み解く

郵便・切手から 時代を読み解く

切手コレクター必見! 経済評論家にして郵便・切手評論家でもある池田健三郎が、辛口トークと共に「ゆうびん」や「切手」を通じて時代を読み解きます。
単なる「切手あつめ」や「郵便物コレクション」とは次元の違う、奥深き大人のライフワークの醍醐味をお伝えします。

先月出版されたフィラテリック・ジャーナル(スタンペディア刊)に掲載された、須谷伸宏さんの論文「産業図案切手の見所」を非常に興味深く読みました。

とくに戦後発行の産業図案シリーズや昭和すかしなし切手であっても、確認されている未使用最大ブロックが「シート未満」のものが少なからずあるという情報には、新鮮な驚きを感じたところです。

確かに、競争展覧会でトラディショナル・コレクションを示す際には、カタログ評価の高い高額面切手(産業図案や昭和すかしなしの場合、100円鉄鋼や500円機関車)のシートがあれば、分かり易い形で観る者(審査員を含む)に対しかなり強烈なインパクトを与え得ると考えられます。しかしながら、それは現実にはきわめて困難なことなのだということもよく理解できました。

そしてまず思いを巡らせたのは、産業図案や昭和すかしなしには完シートが確認されていない額面が多数あるのだが、その後のシリーズ、すなわち動植物国宝シリーズ/新動植物国宝図案シリーズ以降は、本当に「すべて確認済み」という理解でよいのかということです。

他方で、産業図案以前のシリーズについても、未使用シートの存否(とくに高額面について)が大いに気になります。新昭和切手の高額はそれなりに難しいでしょうし、戦前となればなおさらです。昭和切手についても、例えば1次昭和の5円鎌足や10円梅花模様は競争展の作品中(たしか全日本切手展に出品された、西日本のベテランコレクターの作品でした)で1度揃って出ているのをみたことがありますが、後にも先にもそれだけです。これらは国際展での上位入賞コレクションにも含まれていませんでした(実際には所蔵されているのかもしれませんが)。

さらに、菊や田沢、とくに新旧高額切手や1円のシートなどはどうなのかも気になりました。それ以前(手彫・小判)となれば、もはや高額面にこだわっても仕方がありません。シリーズのうち1種でもよいから何とか完シートを手に入れて、製造面を表現することが目標となるのは当然のことでしょう。

こうしてみると、郵便局から売り出されたそのままの形である完シートが「究極のオリジナル・マテリアル」であることが再認識され、このところ未使用の完シートを含む大ブロックの需要がうなぎ上りであることも首肯できます。

例えば小判切手の完全シートなど、単片カタログ評価の100倍などでは買えるはずもなく、オークションではそのさらに数倍の価格で落札されているのも事実で、コレクターにとっては悩ましい負担であることは間違いないでしょう。

ここまで書いていて、昔よく入門書に書いてあった初心者向けQ&Aの記述を思い出しました。

Q:切手を集める際には、シート単位で集めるのがよいのでしょうか?
A:切手コレクションの最低単位は「単片」です。無理にシート買いをする必要はありません。シートを買う余裕があったら、1種類でも切手の数を増やすべきです。

と、大体このような内容だったと思いますが、これを上述の内容に照らして修正するとどうなるのか、ちょっと考えてみましたがいかがでしょうか。

Q:切手を集める際には、シート単位で集めるのがよいのでしょうか?
A:切手が製造され、郵便局で売り出された際のオリジナルな姿がシートです。したがって、シートを入手することが可能であれば、できるだけそのまま保存することを推奨いたします。とくに、歳月を経てシートの現存数が少なくなっている古い時代の切手は、むやみにシートを切り離すことで、文化財破壊のようなことにならないよう気をつけたいものです。