今昔物語から
平安時代の話、下級官吏の男が妻を京に残して地方に下る物語。
ある貧しい侍が、自分の主が国守となって下っていくにあたって主に従っていくのであるが妻を離縁して、別な裕福な妻を設けて下って行ってしまった。
しかし任地についてから、この男は京に残してきた元の妻が恋しくて、数年の後任期満ちて国に帰ると、元の妻と暮らした家へと急いだ。
ところが、浅間しいばかりに家は荒れはてて、人の生活の様子はなかった。
九月の中秋のころで、月が異様に明るかった。
邸の中を見回すと元居たところに元妻が一人佇んでいた。
妻は男を見て怨みに思っている様子もなく、悦んで夫を迎えたのです。
長い物語を語った末に夜も更けたので二人はかき抱いて臥した。
翌朝男がふと目を覚ますと、かき抱いていた寝た妻は、枯枯れと乾いて骨と皮ばかりになった死人であったのです。
『こはいかにとと思ひて あさましくおそろしきこと 言わんかたなければ 衣をかき抱いて起ち走りて下に踊り下りて もしひが目かと見れども 実に死人なり』